118. 戦の神
レイテに治してもらい戻っては来たが状況は非常に悪いと言えるだろう。
ウロボロスの傷は全て癒えてしまっているし、デストレイズも先程使ったマナはほぼ回復しきっていた。だがイヴは疲労し、アイリとメサイアもかなりマナを消費している。いつも通り長期戦は不利だがこの状況をコナミ一人で打開出来るはずも無かった。
「はああああああああ!!!」
イヴはウロボロスと激しい打ち合いが始め、致命傷を負うまいとウロボロスは攻守を上手く使い分けていた。こっちはスタミナが切れた方が負けといった所だろう。つまり――――。
「つまり残る全員で俺を殺せばいい、そう思ってんだろォ!アァ!?」
「それしか……ない……」
「コナミさんは下がっていて欲しいデス!ワタシが相手をするデス!」
アイリは剣を構えデストレイズと向き合い、メサイアもマナを溜め始めた。お荷物になりたくない気持ちは強いがデストレイズの能力無しに勝てる相手ではないのも確かだった。
「………気を付けろよ」
「分かってるデスよ!」
好きな相手に向かって何という情けない。弱い者の選べない選択。見守る事しか出来ないコナミは歯を強く食いしばった。が、しかしそんな情けない思いも直ぐに吹き飛んでしまう。
「ナメてんだろ」
デストレイズは鎌を振り上げると寒気がする程の狂気とも捉えられる殺気が零れ出した。禍々しく黒いオーラは全てを破壊しようとするその意思さえ肌に伝わってくる。これはコナミにとってもうどうしようも無く力の差を感じさせられた。
それでもアイリは躊躇なく剣を構えて走り向かって行った。あの殺気を放たれながらも気にも留めていない。フィルスの強い魂のお陰なのだろうか、それともアイリが強くなったからその自信なのだろうか。それでもその威勢は少したじろいでしまったメサイアにも届いていた。
「すごいね、アイリちゃんは……。タングストロゲノム!!」
アイリの剣とデストレイズの鎌がぶつかり合うその瞬間に唱えたバフ効果のある魔法はアイリの力をどれだけも強くしていた。鎌が弾き飛びデストレイズの身体は若干宙を浮いた。これにはアイリも急な事で驚いたがこの機を逃すまいと直ぐに剣を振り上げる。
「なっ……!!馬鹿な!!」
「流麗剣!!」
ナギアが使っていた流麗槍の応用版と言うのだろうか。スピードに特化した技でデストレイズに攻撃を畳み掛けた。しかしデストレイズも戦いの神というだけあってなのかその攻撃を掠り傷程度で済ませてしまう。だが幾戦もの戦いを経験してきたのはコナミもそうだった。
「雷光―――」
態勢を立て直そうとしたその瞬間にはコナミはデストレイズの前に立ち剣を構えていた。マナを全て振り絞れ!!
「抜刀撃」
デストレイズの腹部に直撃した一撃は深く刺さり込み、そのまま瓦礫の山に吹き飛ばした。だが咄嗟にマナで防御したのだろうか、その力は十分ではなく傷を付けられたかどうかも怪しい。
「コナミ……十分だよ……」
光と水のマナを十分に溜め込んでいたメサイアは静かに目を開ける。吹き飛んだ瓦礫に向かったメサイアは杖を向けた。
「ホーリーレイン」
瓦礫の下に大きな魔法陣が映し出されてその一帯全てを光が降り注ぐ攻撃は範囲攻撃ではあるが凄まじい威力を放つ。これは確実に決まったし、決着と言っても過言ではない完璧な連携プレーだった。
「やったデス!!」
「確実に……当たった……」
だがデストレイズは神であり、ただのお飾り的な名称ではなくやはり本物の神なのだ。上から降り続けるホーリーレインは瓦礫の下から渦巻く闇の力が溢れ出してメサイアの魔法を掻き消してしまう。
「な……なんで……!?」
「なめるなよ下等な人間共」
先程のどす黒いオーラとは違い、光と闇が混ざり合う陰陽の勾玉を様な形をしている。瓦礫を吹き飛ばして現れたデストレイズは右肩に天使の羽と左肩に悪魔の羽が生え、腕も4本に増えて2つは鎌と剣を、そして2つは闇と光のマナを込めている。背中には勾玉にも見えるオーラが渦巻いており、まるで別人とも見えるその姿はまさしく戦いの神と言えるだろう。
「俺がこの姿になるのはウラノスと本気で殺し合いの喧嘩をした時以来か?あの時はウラノスが止めてくれたから何とかなったががもう抑える必要もない」
「ほう、デストレイズにあんな力があるとは。見学といきたい所だが」
「よそ見とは余裕だな。貴様の相手は私だ!!」
ウロボロスは笑顔のまま興味津々だがイヴはその隙を逃さず攻撃を叩き込むがもう息が上がってきている。時間はないのは分かっているが、これに勝てる見込みがあるのだろうかというのも甚だ疑問が残る。
「俺は創造と破壊の神デストレイズ。下界の下等生物共、塵芥となり俺に破壊されるがいい」
近付いてくるその異形な姿にアイリでさえ息を飲んで様子を伺っていた。メサイアもマナを防御に回しながら警戒している。このまま時間が過ぎて行くのはウロボロスにとっては好都合でしかない。何とか二人が攻撃を仕掛けられる隙を作るしかないのか。
「俺が、やる!!」
コナミは前に出た。目の前にしたデストレイズはチラリとこちらを見た。ただそれだけで怖い、恐ろしい、直ぐに殺される、という恐怖が身体の芯に刺さり心臓が大きく脈を打った。
「コナミさんダメデス!!殺されるデスよ!」
「コナミ、下がって……コナミじゃ……勝てない!」
そんな事分かってる。勝てるわけなんてない。今すぐ逃げ出してしまいたい。みんなが何とかしてくれる。お荷物でしかない。またみんなに心配させる。邪魔なだけだ。雑魚は引っ込んでろ。
【弱い者に選択権は無い。】
「分かってんだよそんな事はぁぁあああ!!」
アイリやメサイアに言ったわけではなくコナミは自分自身の魂に叫んだ。その声にデストレイズも足を止めた。
「俺がもっと早く着いていればメアリーもアルマも死なずに済んだ。レイテだって、ナギアだって、シガレットもみんなそうだった。自分の不甲斐なさがいつも誰か殺してしまうんだ。ここに来て救えるはずだった命を見逃してしまった?ハーベストやユルシュピももっと上手くやれば仲良くなれたかもしれない。魔法都市プライベリウムだって俺がもっと早く着いていれば!俺が今行かなくて誰を守れるっていうんだ!!」
剣を強く握りしめて胸に手を触れた。ウラノスが、レイテが、クロノスが見守ってくれているのを感じて温かい気持ちになる。高鳴っていた心臓は緩やかに落ち着きを見せ始める。魂が安定している証拠だ。やれる。いや、やる以外にないんだ。
「俺さ、俺が死ぬ以上にもう誰も死んでほしくない……。俺が何も出来ずただ目の前で殺されるのはもう嫌だ。だから頼む。俺を信じてくれ。二人は俺が隙を作るから最大の攻撃をかましてやれ!」
二人は何も言わずに頷いて返事をした。強化魔法や補助魔法すら入れずメサイアは詠唱付きの最大級のマナを込め始める。アイリも目を閉じて剣にマナを集中させ始めた。
完全に二人は無防備な状態でデストレイズならいつでも殺せるだろう。だがデストレイズはそっちよりも先に片付けるのはコナミだと判断したのか睨み付けているのか蔑んでいるのか見下ろした目をしている。
「別れの挨拶は済んだか?」
「……そうだな。お前もしとけよ、デストレイズ」
勝算は無い。作戦も無い。それでも逃げない。
それが【英雄】だから。
最終決戦に入ったのにちょっと体調と仕事諸々で少しだけ休載します。すみません。




