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111. 無の裏側

 雷獣改め魔王バリストンを打ち倒したアイリは笑顔駆け寄って来たがどう見ても顔色が悪く、途中瓦礫に足を取られて転んでしまった。あの超威力の剣撃や魔法攻撃を放ち続けたて倒しきっただけでもどれだけ努力してきたかが窺える。


 コナミは落ち着いてきて魂やマナの回復が十分に出来た事を確認した。身体にマナを巡らせて身体の補強を図りつつ唱える。


 「【英雄】」


 身体がボロボロになっていたがみるみる回復していく。心臓がバクバクと大きく脈打つがスイちゃんんとやらの回復魔法で安定を図っている為か徐々に落ち着きを見せた。


 アイリの事ももちろん心配だったが、今シガレットに変化したヌルが死んでしまってはシャックスを止める事はもう出来なくなる。急いでシガレットの元に駆け寄りシガレットの胸に手を置いてマナの供給を行った。


 「起きろ、起きてくれ!」


 身体の半分以上がシガレットへと変わっており想像以上に侵攻は進んでいた。このままではヌルがもう消えて無くなってしまう。


 「ヌル!起きろ!じゃないとお前の秘密バラすぞ!」


 その時顔の1/4のヌルの目がこちらをギョロっと向いた。非常に怖い。そして無理やり身体の自由を奪わんとじわじわと侵食部がヌルへと変わって行くのを感じた。だが―――。


 「心配いらない。もう俺の魂は死へと向かっているのを感じる。だがその前にコナミ、お前と二人で話がしたい」


 「ああ……分かった。身体はいいのか?」


 「マナを分けて貰ったからな。だが回復し過ぎると魂が増幅していつヌルが消えてしまうか分からない」


 シガレットはコナミに支えてもらいながら何とか座る事が出来た。大きく深呼吸して周りを見渡した。


 「なあコナミ、人間と魔物。何が違ったからあんな結末を迎えたんだろうか。言葉なのか、見た目なのか、それとも感情や言葉を持たぬヴァイパーが原因なのだろうか」


 「シガレットも分かっていたと思うが魔物語を話す連中ですらこの付近にしか居なかった。ましてや人語なんてパーシヴァルかシガレットくらいだ。それを知らない人からすれば魔物は全てイレイザーと変わらない。それが常識だったからな」


 シガレットは小さく溜息を付いた。一緒に旅をした時も中で見ていたのは知っているから、その常識が覆る事が無いのもシガレットは理解していたのだ。


 「父上が望む世界、あれは夢物語だったのだろう。叶うはずもないがそれでも僕は父が望むからではなく、ミリーシャが平和に暮らせる為にその世界を切に願い旅立った」


 「夢物語なんかじゃないデス。本当にあった現実なんデスよ」


 フラフラのままアイリはスイレンに肩を担がれてこちらへと歩いてきた。二人はゆっくりとシガレットの前に座る。


 「アチキはエキドナと一緒に魔物たちと暮らす街を作った。今は闇の使者に破壊された挙句皆殺しに合ってもうたけど、それでもあれは夢物語やなんて言わせへんよ」


 「エキドナ、だと!?それにそんな街を作っただなんて、嘘だ!!」


 「嘘じゃないデス。ワタシはそこでエキドナさんに命を救われたデス。シガレットは乱心したと聞いていたデスが何か理由がありそうデスね」


 「……分かった。かなり危険ではあるけど全てを話そう」


 そしてコナミは今までの事の始まりと終わりの全てを、そしてアイリは今までの旅路の全てを話した。シガレットはその話を真面目に聞いていて決して嘘偽り等ではない真実だと理解した様子だった。


 「まさか神が魔王勇者を作り、その修正の為に僕の身体を使ってコナミの魂と入れ替えたというのか。そして僕自身の復活を阻止させる為にコナミをディバインズオーダーへと呼び寄せたと……。全く以て神とやらの手の平で全ての者が踊らされ、自らの失態をこの世界に押し付けたという訳だ」


 「ああ、そうだ。誰も悪くなんてなかった。シガレットはヌルとの記憶の共有で一部は見たと思うがあれは全ては真実だ。俺は取り返しの付かない事をしてしまったが、それでも神様の言う通りの世界にしない為に全てを終わらせる戦いをしている」


 「ワタシはパパを殺したお前を許したりはしないデス。けどワタシが生きているのもお前の魂が繋いでいるお陰でパパとも繋がっていられる。どの道死んでいる存在デス。だからちょっとだけは許してあげるデスよ」


 顔を見つめ合った3人はふっと笑った。誰も想像しなかっただろう。この3人が並び真実を話すその日が来るだなんて。


 「アチキはエキドナからシガレットの話はよぉ聞いとる。せめてこの真実を知ってから逝ってもらいたかったと思うで」


 そうだな。と小さく笑って天を仰いだ。崩壊した魔王城から見る空は青々として清々しい気持ちだった。シガレットはゆっくりと立ち上がり空に手を伸ばした。


 「さて、そろそろみんなの元へ僕も行くよ。残る闇の使者が復活しても同じ話をしてやって欲しい。ヌルをよろしく頼む」


 「ああ、分かった」


 ふっと笑うと進んでいた侵食が後退して行きヌルが半分近く戻ってきた。


 「待って!!!!」


 ヌルの声が大きく張り上がると共に後退していた侵食が途中で止まった。


 「コナミ、もういいよ。アタシはここまでいい。元々【無】なのだから何かに成れるだけでそれはもうアタシにとっては嬉しい話なんだ。だから―――」


 「いいわけないだろう」

 いいわけな

 え?俺まだ何も言ってな―――。


 身体はいう事を聞かない。自由が全て奪われる。魂が奥底へと落ちて行き視界以外の全ての感覚を失うこの感覚は一つしか無かった。


 「ヌル。お前は俺の物だ。勝手に行く事を命令していない」


 「シャック……ス様?」


 アイリとスイレンはこの異常事態に剣と扇子をコナミへと向けた。身体が思うように動かない。全ての魂の権限を奪わずとも意識を飛ばす程度は今のコナミの状態からでも可能だったのだ。


 「消えるならばその心臓を抉り出して今すぐに死ね。そうすればお前という個は俺の全と統合され、ヌルという無の存在に意味を与えてやろう」


 「聞く必要ないデス!!」

 「せやで!聞かんでええ!」


 「ア、アタシは……」


 近付いてきたコナミの身体は剣を抜きヌルへと近付いた。アイリとスイレンが一斉に取り押さえようとして飛び掛かる。


 「クソ蝿が。俺の周りを飛び回るな」


 アイリの剣は寸止めだと気付いているのか気にも留めず、スイレンはマナが回復しきっていないせいか動きが悪く蹴り飛ばした。狙い通り寸止めしてしまったアイリは剣を落として殴りかかるが、それを避けた後に裏拳で殴り飛ばされてしまった。


 「さて、俺に心臓を寄越せ。そして預けている魂を俺に返せ。お前は何者でもなく俺の所有物であるがゆえにその権利がある」


 「あ……あ……」


 ヌルは固まったまま動く事が出来ず、シガレットも侵食を進める事も出来ずに事態は最悪の状態だった。俺が止めないと、俺はこれを止める為に今まで戦ってきたんだろ!!


 「渡せぬのであれば俺が引き摺り出してやろう」


 コナミの身体は剣を振り上げる。


 少しでいい。口だけでいい動いてくれ。

 俺の身体!少しでいいから動いてくれ!!


 「お前の好きに生きろ!!!」


 その言葉だけがシガレットの魂の上を行って自由に放てた限界だった。だがヌルは我に返るかの様にハッとして振り下ろされる剣を避けた。


 「何故避けた。お前は俺の物だと言うのに何故命令に背く!」


 「……ごめんなさいシャックス様。何も無くて、存在自体あやふやで、シガレットの人生を奪ってでも、それでもやっぱりアタシは好きに生きてみたいんです。……アタシは勇気出して言ったよ。コナミ、次はあんたの番だ」


 ドクンッ!!


 心臓の鼓動が大きく高鳴る。シャックスは苦しみだして心臓を抑えた。


 「カハッ!他人を想う力で魂が増幅しているのか……?こんな何も無い闇の使者の為にコナミ、お前は、お前という全は一体どれほど!」


 「帰ってきてコナミ!また頭撫でてよ!アタシにはコナミが必要なんだ!」


 コナミの身体は崩れ落ちた。前にお互いの魂の干渉をしたせいなのだろうか。肉体の権限を奪われて魂が闇の中へ消えて行く最中、ヌルが手を伸ばして力強く引っ張ってくれた気がした。そして闇に光が射す――――。


 「おはよ」


 ヌルの膝の上で目が覚めた。柔らかな太ももに包まれて気持ちの良い風が吹く。今や吹き抜けになった魔王城から見る星空は綺麗でいくつも並び輝いていた。


 「シガレットは逝ったよ。魂の器をアタシに移してくれたみたい。だからアタシは本当の意味でアタシになれた。君の言葉で救われた。ありがとうコナミ」


 「おかえりヌル」


 そう言うとヌルはニッコリと笑って言った。「ただいま」と。

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