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107. 光速の戦い

 バリストンは待ち構える様子も無く一瞬にして目の前に現れて拳を振り上げていた。攻撃も防御も完全に間に合わない。あのパーシヴァルですら見切るのに困難だった攻撃を【英雄】の能力無しで見切るのは無茶があった。


 コナミは戦闘開始1秒立たずにあっけなく顔面に拳を叩き込まれて首が折れる一撃を食らうのは目に見えていた。だからこそコナミも攻撃も防御も間に合わないのであればと改変の能力を使っていた。


 決められた結末の未来を変える力。バリストンの拳はコナミの寸分隣へと流れて行った。


 「なにっ!どういう事だ、これはっ!!」


 同時にコナミは自身のマナルテシスから電撃を身体に走らせる。


 「雷光抜刀撃」


 バリストンの腹に直撃した攻撃だったが明らかにパワー不足。今までの【英雄】の能力を使用しているのといないのでは天地程の力の差があった。だがコントロールが上手く出来ない影響もあって爆発的に吐き出されたマナ総量はそれを凌駕させる。


 「なんというマナの量だ。パーシヴァルにも後れを取らぬ、ぐあ!」


 そのまま身体ごと吹き飛んでいったバリストンだったが、強靭な肉体には赤く傷が付いた程度で出血にすら至っていない。だがあの量のマナを何度も出す訳にも行かない事も理解していた。それについてもコナミには考えがあったのだった。


 「【英雄】!」


 他の能力を使えば魂が削られてしまうが、この状態であれば一定量のマナの供給と時間を掛ければ自身のマナの回復が見込める。マナが貯まったら解除して他の能力を駆使して攻撃を叩き込むしかない。だが直撃したはずの雷光抜刀撃であの傷ではやはり限界なのだろうか。


 色々と考えを巡らせていたがバリストンは待ってくれるはずもない。雷光抜刀撃の速度を遥かに超える目にも止まらぬ速さで攻撃を仕掛けてくる。一発は何とか凌げるが攻撃が重く剣が弾かれた後、次の攻撃を防ぐ術が無く殴り飛ばされてしまう。能力を発動させて身体にマナを覆う事で致命傷は防いでいるが【英雄】の能力だけでは到底適う相手では無かった。


 「その程度か人間の勇者よ。我と並び立つ事など不可能なのだ!」


 また凄まじい速度で目の前に現れたバリストンだったが、既に背中にナイフを持ったヌルが見えた。【無】の能力のおかげで気付かれるはずも無いから簡単に背後を取っていたのだ。たまたま視界に入ったからコナミもヌルの居場所に気付けた程だった。


 「アタシの勝ち」


 鋭いナイフを喉元にほんの先端、1ミリでも刺さった瞬間だった。


 「がああああああああああ!!!!!!」


 バリストンの身体から溢れんばかり放出した電気のオーラが部屋中に舞い、電気のマナを帯びていたコナミですら感電する強烈な電撃が二人を襲った。黒い煙を吐きながら白目を向いたままヌルは崩れ落ちた。


 「ヌルーーー!!!」


 「一瞬にして消えたもう一人の仲間が裏を取る事は警戒していた。我の背後から攻撃された瞬間、脳から直接信号を送るのではなく身体に対して部屋全体を覆うマナを出せと指示してあったのだ。餌場に飛び込んできた鼠の捕獲は成功だ」


 ヌルを拾い上げようとした時には既にコナミは瞬間移動でヌルを抱き抱えて部屋の端まで移動していた。英雄の能力と重ねて使ったせいか心臓辺りがズキンと音を鳴らす。


 「なっ!何という速度だ。貴様は一体何者なんだ」


 バリストンを横目にヌルの状態を確認したが身体中が焼けた様に煙が出ている。それでもヌルの心臓は微弱ながら動いていた。


 「ヒーリア」


 最強の大司祭の魔法までとはいかないが簡素な魔法を唱えてヌルの一命を取り留めたが意識は回復しなかった。


 「貴様は何者だ!言え!!」


 「俺は、何者でもない。女の子1人救えない奴を英雄なんて名乗れない。だから俺はお前を倒してこいつの英雄になってみせる!!」


 バリストンはニタニタと笑い雷を周囲に放ちながら喜びを見せた。


 「英雄か。我は貴様を殺して魔王に、貴様は我を殺して英雄に。真王儀を思い出す素晴らしい決闘だ。さあ、存分に殺し合おうぞ人間」


 攻撃の構えを見せたバリストンの闘気は凄まじく魔王たる器は十分に身体に感じていたがコナミは余裕そうに笑って見せた。


 「はは。王ってのは皆に愛されての王だ。神だの王だのみんな好き勝手名乗りやがるがやっぱ神様や王様ってのはパーシヴァルみたいな世界を愛せる奴の事を言うんだと思うぜ」


 「違うな人間。神や王は力ある者が得た選択権を持つ者の事柄を差す。命も、金も、民も、世界も全てが手中にある存在だ。生かすも殺すも我の自由。それを王と言わずなんと呼ぶ」


 「欺瞞(ぎまん)だな。お前は魔王を名乗るがお前が持ってるのは借り物の城じゃないか。城の周りはヴァイパーだらけ。お前も俺と同じで何者でもない。仮に話が通じないんじゃお前はただのヴァイパーだ」


 「黙れぇ!!!」


 咆哮と共に突撃してきたバリストンの攻撃は未来視で見えていた。更にその未来を改変させてコナミは全身全霊のマナを力に電撃を身体に込めた。


 「雷光抜刀撃!!!」


 確実に腹部に命中させたはずだがバリストンの異常なまでの身体能力と身体に帯びた雷の速度が合わさり攻撃を腕で防がれた。だが片腕は吹き飛びそのまま腹に命中したがそれでも防がれた分、攻撃は浅く切り裂く程度にしかいかなかった。


 「なぜだ!攻撃が当たらぬ。それが貴様の異能なのか。我が雷撃をも超えるそのマナの質量、素晴らしい一撃だ。だがその程度では我には勝てぬ!!」


 一瞬にして姿を消したバリストンは既に後ろへと回っていた。更には腕や傷も全て電撃に潜った事で回復しきっている。未来視で既に見えていたコナミにとって攻撃を改変させるのは余裕ではあったがそれを許す程簡単な能力ではない。


 ドクンッ


 心臓が大きく波打ち既に手が震え始めていた。たった一度重ねた能力を使っただけでこれ程の反動。長期戦は不可能。


 コナミは直接防ぐ姿勢を見せたが攻撃は重くそのまま身体ごと吹き飛ばされる。次に目にしたのは吹き飛ばされていながらバリストンは既に目の前まで移動し、次の攻撃を繰り出そうとしていた。


 「うおおおお!!」


 コナミは英雄と未来視の能力を解除し、改変の能力のみに意識を向けた。攻撃は外れて避けられたがバリストンはそれを加味した上で蹴りを同時にしていた。コナミは生身のままバリストンの蹴りを受けたが腕でガードした関わらずアバラ骨も粉砕させられる程の一撃だった。


 「ぐぼあっ!!【英雄】!!」


 ドクンっ!!


 心臓が大きく音を鳴らす。治したはずなのに口の中にじんわりと血の味が広がっていく。


 「そうか、英雄の能力は傷の度合いによって魂の擦り減り方が変わるのか……!!」


 これは下手に怪我を負うわけにもいかなくなった。一旦能力で勝てる算段を考えるしかない。


 【英雄】の能力で身体能力と肉体の回復は出来る上に神からのマナの供給も可能となるが、バリストンには及ばず防戦一方だ。


 【瞬間移動】の能力でバリストンより速く動けるようになる上に連続した瞬間移動を使うコナミ専用の技:四面楚歌があるが、攻撃を繰り出して当てたとしても大きな一撃にはならない。


 【未来視】の能力で攻撃の予測が可能となるが避ける一方で身体の体力が持たずにいずれ攻撃を受けるだろう。


 【改変】の能力で攻撃を無き者に出来るがこの攻撃は当たる直前で無いと使っても意味がない。さっきの拳と蹴りの二段構えでされた場合恐らく二度目の攻撃が命中してしまう。


 つまり複数の能力を同時に使わざるを得ない状況である事は確実だった。


 「貴様、傷まで全て癒せるとはな。まるでパーシヴァルの【転生(コンティニュー)】を見ている様な気分だ。貴様も同じ能力を使う者だとはな。だが力無き者に与えられた能力では死にたくても死にきれない地獄と化すだろう。それが力無き者の選べない選択だ!!」


 すぐさま身体能力の向上に特化させたマナを身体に張り巡らせたが、英雄の能力を使っているというのに攻撃が身体の芯まで響く。次の拳を剣で受け止めるが腕が震える程の重さがあった。更に身体を一瞬で移動して目の前にいたはずのバリストンが次の瞬間には隣から攻撃を放とうとしている。


 「ハハハハ!どうした英雄!口先だけでその程度か!!」


 「くっそおおおおお!!!」


 何とか防いでいた攻撃も腕の痺れが限界になっていた。その隙を見逃すまいとバリストンがすかさず電気に潜り込み背後へと移動してきた。振り上げた拳がコナミには防ぎようがなかった。


 「さあ、終わりだ!!」

 「終わらせない」


 ヌルがコナミの背後に既に回り込んでいた。そして―――。


 ヒュオッ!


 音が鳴ったと思った次の瞬間にはバリストンの腹部から大量の血が飛散した。


 「ぐうおっ!小娘、貴様ァ!いや、なんだ……貴様。誰だ!!」


 「ヌル……?」


 ヌルの黒髪は白くなり身体も半透明になり消えつつあった。更にヌルが手にしていたのは短剣では無く太刀にも見えるヌルの投身に見合わない長い剣だった。その太刀は真っ黒のオーラに染まり、黒い液体がボトボトと床に零れ落ちている。


 「コナミ、ごめんねアタシ、もう、戻れないかもしれない。言霊を吸収しすぎ……て……ああああああ!!!!!」


 ヌルの身体からマナが一気に放出されて溢れ出てくるがそれが全て憎悪や怒りに満ちた真っ黒なオーラとなっている。そのマナは吸収する様にヌルの心臓部へと集まり始めた。


 嫌な予感がする。心臓が鳴る。体中から悪寒が止まらない。


 「…………ナぜ、僕はココにいル。父上ノ部屋に」


 白い髪のヌルが振り向いたその顔の一部、右目周囲は既に自身が幾度と無く見てきたあの姿へと変わっていた。


 「シガレット……」

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