表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/207

0-10. 平和の為に

 魔王勇者パーシヴァルの戦闘の準備が完全に整っていた。バリストン戦で見せた光と闇の魔導を身体に纏わせていつでも光速で攻撃を仕掛ける事が出来る。だがパーシヴァルは攻撃よりも先に口を開いた。


 『シガレット、お前に心があるなら黙って右手を上げるか頷いて見せろ』

 「シガレット、お前は何しに此処へ来た。言ってみろ」


 まるで二重のに重ねられた音声に聞こえたがどちらもシガレットには届いていた。動く事も喋る事も出来ないシガレットにはどちらも選択する事は出来なかったが、身体と口は勝手に動いていた。


 「何これ。声が二重に聞こえる……!」

 「魔物語と人間の言葉を同時に話すなんて器用だな!俺は世界を平和にして英雄になる為にここへ来た!」


 『乱心、というより強力な操作魔法の様だな。魂がそこにあるといいが、俺の覇魔羅魔眼ではお前の魂ごと消してしまう。待ってろ父さんが何とかしてやる』

 「そうか。俺は人間と魔物との和平を結ぶ事を進めていたがそれは知っていたのか?」


 「魔物は魔物だ。ここに来てよく喋る魔物が現れたけどそれはレベルアップで進化で知能を持ったに過ぎないだろ?俺がこの世界で英雄になる為だったらお前を倒す他ない!」


 「待てシガレット」


 フィルスは何を思ったのか突然パーシヴァルの前に立った。しかしフィルスは剣を下ろし敵意が無い事を示すが、それは余りに危険過ぎる行動にパーティ全体の緊張感が上がる。


 「和平とはどの様な形を成す。お前が魔王であるが故の魔物全体の了解を得た政策なのか、それとも人間の姿であるが故の魔物に対する強制なのか、それも知りたい」


 「人間と魔物が共に暮らす道だ。だが納得しない魔物が多く居た事も事実であり、実際は強制と言っても何ら過言ではない。それでも平和を望む事の何がいけない。(もと)より戦い合う必要が何処にある。それでもお前たちがその俺に戦いを挑むのであればお前たちはそこら一帯にいる魔物同様、戦闘狂の話も通じぬ愚かな者になるぞ」


 パーティのみんなは図星を指された様に何も言い返す言葉は無かったが、シガレットは人間側の意見も分かっていた。これは仕事であり役職でありこの者達に与えられた使命なのだと。


 ギルドには多くの魔物を狩る依頼が続々と集まってくる。その9割以上はヴァイパーの討伐にあり、人間に対する被害は甚大な物となっていた。ヴァイパーとも分からない人間にとって魔物=敵と見るのはごく自然な事であり、その元締めをしている魔王を倒すのは当たり前にも捉えられる。


 だが魔物と人間の中間にいるパーシヴァルとシガレットだからこそヴァイパーの危険性を教え、そして言葉や文化や見た目の隔たりさえ超えれば和平協定を結べるのではないかと期待出来た。それでもパーティ全体の不信感はどうしても拭う事は出来ずにいた。


 「貴方が人間の姿をしている時点で僕達にとっては不気味そのものです。今まであれだけの人間を殺してきた魔物が人間の皮を被り、人間の言葉を話し、人間と共存したいと。それが僕達人間にとってどれだけ異常な自体なのか貴方は分かっていません」


 「例え手を取り合う事が……出来たとしても……強制された平和なんて続かない……。いずれ崩壊して崩れ去る……。私たちは……ここで戦う以外……選択がない……」


 レイテやメサイアの言っている事は人間側の主張としては当然だ。それでもミリーシャやバルフレア、他のみんなを殺していい道理なんて無い。一体ここにいる魔物が人間に何をした。魔物という括り付けをしてそれを棚に上げて殺していいと勝手に許可を出しているに過ぎない。


 「分かった、では最後だ。今すぐに帰れ。お前たちでは俺には勝てないし亡くなった魔物達の供養もしたい。魔王はそれでも和平を結ぼうとしていると人間側の王に伝えよ」


 「それが出来れば誰も戦わないんだよ!秘剣・聖輝斬!!」

 「うおおおお!!秘剣・神龍閃!!!」


 前衛二人が一気に攻撃を仕掛け、前が光り輝いて見えない閃光に包まれた。だがパーシヴァルへ着弾前にエクスカリバーは黄金の輝きを放つ。


 「まさか、あれは!!」


 「秘剣・聖輝斬」


 振るわれた一撃はフィルスの剣撃を遥かに上回るマナの量。シガレットとフィルスの攻撃を容易く打ち破り、パーシヴァルの攻撃はそれでも止まる事無くこちらへ向かってきた。それに対しメサイアが大きく息を吸い込む様にマナを取り込む。


 「エンプレスステラ・プロテクション」


 目の前にホロスコープにも見える天体が浮かぶとそれは盾となり攻撃を受け止めた。光を打ち消す闇魔法の中でも超上級バリア呪文の一つだ。しかしホロスコープがバキバキと音を立てて割れる音がする。


 「止め……られない……一体どれ程の……マナルテシスが……」


 「みんな、避けろおおお!!」


 フィルスはレイテを、イヴはメサイアを抱えたまま飛び退いた。遅れてシガレットは雷のマナを使い飛び退いたが間に合う事は無かった。


 ドゴオオオオオオオオオオオオ!!!!


 「シガレットおおおお!!お前、それ大丈夫なのか……」

 「なんとか大丈夫だ。でも体力がだいぶ削られちまったな。レイテ、頼む!」

 「はい、すぐに!」


 大丈夫なはずがない。あばら骨は肺に刺さり息が詰まる。更に身体の節々からメキメキと変な音がすると思いきや腕が反対方向を向いていたのだ。それを痛がる様子も無く平然としているが、魂のみの存在であるシガレットにその全ての痛みが圧し掛かっていた。


 痛い痛い痛い痛い痛い苦しい苦しい苦しい。

 あああ、父上、助けて、助けてください。もう攻撃をお辞めください。お願いします。


 この声が誰に届くはずもないが、パーシヴァルの顔は悲痛に歪んでいた。自らの手でシガレットをこんな姿に痛め付けてしまった結果があの状態で平然としている異常さだ。今はレイテの回復魔法で治されたがそれでも実の息子の悲惨な姿を見てしまったのだ。


 「もうやめておけ!力の差は歴然であり貴様等では俺に勝つ事は出来ん!今なら見逃してやると言っているのが何故分からんのだ!」


 「雷光抜刀撃!」


 ドギャアアアアア!!!!!


 凄まじい雷の一撃であったがパーシヴァルを難なく受け止めた。鍔迫り合いの状態の中、パーシヴァルには容易く反撃できるはずなのにそれが出来ずにいたのだった。何せ一番厄介だったのはパーシヴァルにはシガレットの魂は身体の中にいると分かっていたからだ。


 親子の絆と云うのだろうか。パーシヴァルが気付いてくれているという事にシガレットすら気付いた事も理屈では説明できない。それでも両者の間で言葉を持たずとも言葉を交わし合った気がした。


 『俺の願いはみんなを惑わせただけだったな。人間との和平は俺に出来ない願いだった。それにシガレットを巻き込んでこの顛末。俺は何かの王としての器では無かったのかもしれぬな』


 『そんな事はない!俺にとって父上は王だ。絶対なんだ!』


 魂の会話の中でも戦闘は続いていた。シガレットが雷光抜刀撃で飛び込んだ事で次々に後を追って攻撃を仕掛けるパーティ達。霊剣が、大剣が、強大な魔法が、次々と嵐の様にパーシヴァルを襲い掛かったが、それでもパーシヴァルはシガレットだけを見つめていた。


 『王に就任してから俺は和平についての調査と視察、お前は剣技を磨きミリーシャとの時間を大切に過ごした。お互い腰を据えて話す時間も少なくなっていたな』


 『俺は……父上に追い付きたくて必死で……』


 「うおおおお!!雷光抜刀撃!!!」

 「明鏡止水・霊障!!!」


 連携技の様に繰り出されるコンボであったがパーシヴァルにとってその程度の攻撃は攻撃として見なされていなかった。なぜなら【コンティニュー】と呼ばれる【転生】の真の力はマナの底上げによって斬られた瞬間には既に回復している力へと進化していたからである。これはパーシヴァル自身初めて行使した力ではあったが、それは誰にも邪魔されず身体の内側にいる魂だけのシガレットと会話したいからだった。


 『お前は十分に強くなったさ。剣技はもちろん、心も体もな』


 『僕は……僕はまだ』


 イヴの霊剣は確かに身体に突き刺しているのに、まるで泥沼を刺しているかの様に攻撃として成立していない。メサイアの魔法の展開されたフィールドの前では余りにも無力だった。それでもシガレットとパーシヴァルは鍔迫り合いのまま動かないでいた。


 「こんなの……どうしようもない……。私の……魔法が……」

 「攻撃を止めるな!!シガレットがまだ前線で戦っているんだぞ!!」

 「僕はシガレットさんの体力を回復させるのに必死です!いつまでも抑えられるわけじゃないですよ!!」


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 『俺を超えて行け、シガレット。お前ならきっと俺よりも正しい魔王になれる。俺は強すぎたが故に見る事が出来ない世界があった。強い力は弱きを救う力と信じていたがどうやらそれ自体が恐怖の対象として見られることに気付けなかった。俺の役目は初めから終わっていたんだ』


 『父上っ!!!』


 パーシヴァルの無限とも言えるマナルテシスが尽きてきたのを見たメサイアは、自身にある全てのマナを使い今出来る最大のマナを込めた。それを見てイヴはメサイアの邪魔をされない為に死力を尽くすマナで霊剣を操り続ける。


 シガレットを弾き飛ばしたパーシヴァルはイヴの霊剣を初めて剣で受け止めて捌いた。それに好機を見たフィルスも攻撃を仕掛けるが闇の魔法で急速に近付かれた上に光の魔法を乗せた攻撃を食らった。


 「ぐ、ごほおおあああ!!!」


 バキバキとフィルスの身体の骨が砕ける音が周囲に響き渡る。


 「フィルスさん!フルエウロごほぉ……フル……エウロン……はぁはぁ、僕のマナも、もう限界です……ゲホォ!あとは、お願いします」


 「はぁはぁ、うおおおお!!雷光抜刀撃!!!」


 『俺は中身が魔王で身体は人間。結局俺は魂が魔物である以上、人間達の言う通り皮を被った人間に過ぎない。でも人間と魔物のハーフのお前ならきっと――――』


 『父上!!!』


 ガランガランガラン!!!


 霊剣が落ちると共にイヴの身体が遂に崩れ落ちた。マナ切れの影響は酷く血の泡を吐きながら苦痛に歪んでいる。それでもパーシヴァルには届きはしなかった。だが、イヴの真の目的はメサイアの一撃に賭ける為のもの。


 「カタストロフィ」


 メサイアにとって死を覚悟する一撃だった。二つの魔法を操る魔導ですら魔法使いの極致とされている。だがここにきて光、闇、空間の三つの魔法を同時に込めた。それと同時にメサイアは穴という穴から血が吹き出てベチャという音と共に倒れた。


 ギュゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!


 空間全てが歪む。音が鈍くなり重くなる。極限まで悪化した眩暈にも近い。それがパーシヴァルを中心として発生し、更に周囲の空間は歪みながらも加速し回転していく。そしてそれは収束し弾け飛ぶ。


 「やったか!!!」


 景色が元に戻った事にはパーシヴァルは肉塊へと変貌していたが、それでも肉塊は動き回りながら凄まじい速度で元に戻ろうとしていた。


 「こんなの終わらないですよ……。勝てるはずがない……。」


 だが身体の心臓部にある"何か"を中心として動いている。それにいち早く気付いたのはフィルスとシガレットだけだった。お互いが頷き合い最後の賭けを試みる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ