11. チートスキル発動?
この世界であるディバインズオーダーには大きな街が4つ存在する。
冒険都市ビルダーズイン、教会都市ジンライム、王都ブレイブ。そして次に目指すのは魔法使いの街、魔法都市プライベリウムだ。
「やっとまともに戦える様になったデスね、コナミさん」
「それ、褒めてるのかバカにしてるのか分かりにくいぞ」
フーマリン村で貰ったこのチェイサーという武器、やはり序盤で使う分には圧倒的に強かった。現実世界で言うならば切れ味が凄まじい包丁で野菜を切っている気分だった。
あれ程恐ろしいと思っていた化けウサギも勝てると分かればお手の物。更には剣自体が軽く棒切れを振り回すように使用できた。
「ワタシなりに褒めてるんデス。そんな少し強くなったコナミさんに1つ技を教えてあげるデス」
アイリは長い杖を持って上に振りかぶった。そして縦切り、横切り。それはマエストロやフィルスも使っていた【十文字斬り】だった。
「この技は簡単な技デスが、威力はかなりそれ以上に出るデスよ。マエストロとの戦いで事前に避けてましたから知ってると思うデスが」
コナミは教えてもらった通り剣を上に振りかぶった。すると身体が勝手にコントロールされたように動き出していとも簡単に【十文字斬り】を出した。
これには教えていたアイリも実際技を繰り出したコナミ自身も驚きを隠せなかった。
「おおーすごいデスよコナミさん。マエストロとの戦いで使ってきた技が身体に染みついたのかもデス」
レベルアップやチート技を貰った覚えはないが、構えから自動でスキルが発動したのだろうか。つまり技の型や基礎さえ覚えてしまえばある程度の技は出せるのかもしれない。
「そういえば力が欲しいか……とかなんとか夢で見たな。あの時無理やりなんかのチートスキルでも貰っちまったのかな」
それでも確かな成長を感じたコナミは手を強く握り締めた。
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倒した魔物の肉や木の実を食べ、ギルドから支給された小さなキャンプで旅を続ける中、いつの間にか3日が過ぎていた。何度も旅をして歩いていたが、現実の身体では限界があり疲労はかなりきていた。
「そろそろベッドで寝たい……」
「ワタシもシャワー浴びたいデスよ……」
まるでオアシスを求めて砂漠を彷徨うゾンビの様にコナミ一行は森の中を進んでいた。この森を抜ければ魔法都市プライベリウムなのだが、今まで歩いた記憶と方角だけで進んでいる為、実際今どの辺りにいるのか見当もつかなかった。何度も襲い来る魔物と戦いながらも何とか勝利して旅を進めた。
「み、見えたぞ……。魔法都市プライベリウム」
目の前はまるでテーマパークを見るような気分だった。
魔法都市プライベリウムは魔法によって生成された都市で、全てが物理の現象を無視している。都市の周りは花々が咲き乱れ、見慣れていたコナミもあまりに美しい景観に魅せられていた。
だが都市全体は丸く透明なボール状の魔法に包まれており、以前立ち寄った時はそんな機能は特に無かった。
「す、すごいデスコナミさん。建物全体が浮いてるデスよ。ふおおお、すごいデス!なんかこう魔法って感じデス!」
"自称"魔法使いアイリは初めてなのか都市の全景に大興奮している。王都ブレイブから冒険都市ビルダーズインに来るまでの間にこのルートを通らなかったのだろうか。
魔法都市プライベリウムの裏門前あたりにオーク型の魔物に襲われかけている女性が見えた。女性は座り込んでいるまま気付いていない。
「ん、誰かいる…!背後に魔物に迫っているデスよ!」
「英雄の出番か!行ってくるぜってうお!」
コナミは全力疾走でオークへ向かったがその走る速度は今までと桁違いだった。これもまた火事場の馬鹿力なのだろうか、先程までの疲れが消えて背中に羽根でも生えたかの様に身体が軽く感じる。後続を走るアイリを完全に置き去りにしてしまう程だった。あの時の火事場の馬鹿力もチートスキルだというのか。
「ええいこのまま!十文字斬りぃ!」
今までよりもずっと破壊力が増した一撃を身体で受けてしまったオークは血を噴き出しながら倒れて死んだ。幸い女性に怪我は無く手元に持った花束を見る限り花摘みに夢中だったのだろうか。
「あの、大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。旅のお方、とてもお強いのですね」
褒められてニヤついたその時、身体中に酷い筋肉痛のような痛みが走った。疲労困憊の足はズキズキと痛み、腕も剣を握るのがやっとの事だった。やはりチートスキルを貰ったのかレベルアップしてるのか不明だが、その分だけ反動は大きいのだろうか。
綺麗な花束を持った女性はゆっくりと立ち上がった。見た所怪我はなさそうだった。
美しい金髪にくるくるっと撒かれたその髪はまるでゆるふわ系女子。コナミはその顔に見覚えがあった。
「リ……リン王女!??どうしてここに!?」
この方こそ魔法都市プライベリウムのリン王女だった。旅をしていた頃は数回しか会った事がない為印象自体は少なかったが、この前に見た悲惨な悪夢で鮮明に顔を覚えていた。本当に嫌な思い出だ。
「コナミさーーーーん!!」
ぜぇぜぇと息を荒げながらやっとアイリが追いついた。
「い、いつの間にそんな足が速くなったデス……。ってわわわわ!なるほどコナミさんわかったデス!綺麗な女性見つけたからすーぐそうやって飛んでったんデスね!」
プリプリと文句を言うアイリにクスクスと笑ってリン王女は白いドレスの裾を摘まんだ。
「わたくしは魔法都市プライベリウムの王女、リン・プライベリウムと申します。コナミ様とお仲間のお嬢様、改めてお礼を申し上げます。もしお急ぎでなければお付き合いいただけますでしょうか」
余りにも丁寧なお辞儀にコナミは自然にお辞儀して承諾してしまった。アイリは王女とは知らなかったからか慌てふためいていた。コナミ一行はリン王女の誘導の元、魔法都市プライベリウムの裏門から入城する事にした。
「どうしてあんな所にいたんです?」
「実は今日がわたくしの大事な付き人の命日なのです。その為に外に花を摘みに行っていたのですが、魔物にそこを狙われました」
テヘッと笑っているが実際笑い事ではない。
裏門の近くには2本の短剣が刺さった小さな墓があった。そこで夢で見た光景をコナミは思い出した。確かフレットが殺されたのも裏口のあたりだった。
摘んできた花束を静かに置くとリン王女は胸に手を置いて目を閉じた。それに続いてコナミとアイリも同じく黙祷を捧げる。
「ご一緒して頂いてありがとうございました。助けて頂いたお礼も兼ねてこのまま私のお城にお招きしたいのですがいかがでしょうか」
アイリはキラキラと目を輝かせて飛び跳ねて喜んだ。こんなに自然と城に入れるなんて思いもよらなかったが魔法図書室に向かう道筋は見えてきた。きっともうすぐ答えが見つかるのかもしれない。
それがどんな結末であっても。




