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103. 1ヶ月後にまたここで

 魔法図書室の階段を上がると想像以上に城の崩落が進んでいた。既に道が閉ざされている箇所も多くあり、本来あった階層も既に無くなっているのも見えた。リゾットの遺体を回収するため探し回ったが状況は最悪だった。


 「これは……ぐっ……」


 崩壊した瓦礫でリゾットの身体は破壊の限りをされて遺体と呼べるものは存在していなかった。それはもう"人"ではなく"物"と化していたのだった。この姿を持ち帰って何と説明出来るだろうか。コナミは諦めて城の脱出を優先した。


 何とか城を脱出して外に出てみるとメサイアとイヴが抱きしめ合っていた。リン王女は真っすぐに魔法都市プライベリウム全体を眺め、状況を飲み込まんとしていたがその目は虚ろなままだった。


 「コナミ!どこ行ってたの!」


 砂埃まみれのメアリーは大きな声をあげて駆け寄り、コナミの腕にしがみ付いてきた。だが服にこびり付いた大量の血を見て卒倒した。その様子にメサイアとイヴも駆け寄ってくる。


 「どうしたんだその血は!!」

 「まさか……ウロボロスと……?」


 コナミはみんなを落ち着かせて魔法図書室であったウロボロスとの闘い、そして残り時間について全て話した。その事に酷く怒りを覚えたイヴは魔法図書室へ向かおうとしたがそれをコナミは必死に止めた。


 「なぜ止める!!奴は今あそこにいるんだろう!!」


 「無理だ。アイツは次元時空の神命で攻撃を受けても無いものとされる。それにイヴと同様の明鏡止水に近い技でこちらの動きは全て読まれている。策も無しに勝てる相手じゃないんだ」


 「そうだね……。私の魔法を何度受けても微動だに……しなかった……」


 確かにこの二人となら改変の能力を使って勝てる見込みはある、と思う所はあるがそれ以上に次元時空の神命はディバインズオーダーで出会った全ての一線を凌駕している。更にはウロボロス自身の戦闘力は凄まじいもので身体を引き裂かれているのにそれでも攻撃の手を緩める事は無い。そんな相手に今この場で賭けに挑むわけにはいかない。


 「まずはコナミの強化じゃないかな。ウロボロスにダメージを蓄積させるにはコナミの一撃が必須な訳だし」


 そう。何に置いても先ずコナミ自身の魂の強化が必要だ。


 【英雄】の持続及び再起動、マナの供給、その他瞬間移動等の能力の発動。全て関連しているのは使用する度に生じる魂の擦り減りだ。体力や技、心の自信、平穏や冷静、全ての理を持って魂の強化とされる。


 問題なのは仮に倒せたとしてもその後では魂の擦り減りとウロボロスの魂の回収で間違いなくシャックスが現世に降臨する。魂の鍛錬がとにかく最重要課題となっているのは確かだ。


 「大丈夫。コナミならやれるよ」

 「私も……そう思う」

 「ああ、コナミならきっと」


 3人は頷いてこちらを見てくれていた。やれるかじゃない。やるしかないんだ。


 「分かった。イヴはアイリを探して欲しい。アイツの力は絶対必要だ」


 「ああ。どこにいるか分からないが必ず見つけ出そう。30日後の成長を楽しみにしているぞコナミ。またここで」


 イヴと強く手を結びそう言い残して去って行った。


 「メサイアはリン王女を連れて協会都市ジンライムへ行ってくれ。そしてメアリーとクルサーノのマナルテシスと魔法を強化して欲しい」


 「え!コナミと一緒じゃないの!」


 「俺は俺でやる事があるんだ。頼む」


 「わかった……30日後に……また……ここで……。行きましょう、リン王女……」


 魂が消えた様に佇むリン王女の背中を押して3人はジンライムへ向かった。チラリとこちらを向いてメサイアは寂し気に手を振った。


 崩壊した魔法都市プライベリウム跡で1人になったコナミは大きく深呼吸して心を落ち着かせた。周りを見渡しても誰も見えるわけでは無かったが、それでも感じた違和感に賭けで呟いた。


 「いるんだろ。ヌル」


 これは賭けだった。見えたわけでも感じたわけでもない。風の音しか聞こえない程静まり返った空気の中僅かだが小石が落ちる音がした。


 振り返って見るとそこには確かにヌルがいた。


 「どうしてアタシがいるって分かったの」


 「ただの勘さ。お前はウロボロスを追えと命令されてたのにここに居ない訳がないだろ。魔法図書室にもいたのか?」


 「ズルい。けど正解。戦ってるのを見てたけどウロボロスはこっちにも気付いてた。アタシの想像してた以上の化け物で勝てる気がしなくて、ただ見てるしかなかった」


 持っていたナイフは小刻みに震えながら話すヌルを見てコナミは感情はちゃんとある事を知って少し安心した。もしヌルがナギアと同じ良い闇の使者なら殺さなくてもいいんだ。


 「誰だって死ぬのは怖い。だから協力して欲しいんだ。魂の強化をするにはどうしたらいいと思う」


 「魂の強化……。アタシはそういうの、分からない。言霊を通じて魂を強化したというより"増幅"させたに近いから」


 魂の"増幅"。考えた事も無かった。個は全を成すとシャックスが言っていた言葉をふと思い出す。闇の使者が個でありシガレットが全。


 「俺の魂を個とするなら全はなんだ?」


 「【英雄】の能力とか?分からないけど」


 そもそも【英雄】の能力とはなんだ。一時的に神の能力を発現出来る。でも魂が擦り減る理由はなんだ。疲れるから?それよりももっと精神的な所にある気がする。違う。個をコナミの魂と置く事が間違ってるんだ。


 「個は……貰った一つ一つの能力、って事か」

 「そうか。それならコナミ自身が全だね」


 つまり能力はコナミを全としての一つ一つの個。全が余りある個に対応しきれてないから無理が過ぎるんだ。ベジータとの戦いで悟空が100倍の界王拳をしている様なものだ。実力が伴っていないから魂が擦り減る。与えられ過ぎたチート能力の一つ一つをもっと理解すべきだった。


 「ありがとうヌル。やるべき事が見つかった気がする」

 「そ。じゃあ30日後にまたここで」


 「お前はどうするんだ?」

 「……分からない。多分ここで待ってる」


 「じゃあ一緒に来いよ」

 「……」


 渋々着いてくるヌルだったが視界から消えると本当に居るのか分からない。時々振り返って見るとちゃんと着いてきていた。誰かと歩くのが初めてだからなのか時々歩幅の違いで時々早歩きになったり離れたりを繰り返していた。


 「なんだかたどたどしいな」

 「黙れ。それでどこにいくの」


 目指す場所はただ一つ。全ての始まり、終わり、また始まった場所。そして自身のレベルアップをするならアークフィリアでは最適な場所。魔王城ゼロアスターだ。


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