100. 過去と未来と今
全てを話したコナミはいつどのタイミングでアルテウスに消されてもおかしくない状況下にいたが、利用価値から今ではないのだろう。だがウロボロスはどうか、と考えてはいたがその判決は未だ下っていない。アイリ達にも話をしたが影響が無かったのは何か特定の条件下でしか出来ないのだろうか。
「神の存在、か。この増幅される言霊から察するに間違いだとは言い難い。そしてコナミ自身が被害者であり加害者、一番の被害者はシガレットだと云う事になる」
「実際そうだ。アルテウスが魔王勇者パーシヴァルを生まれさせなければシガレットを操る必要なんてなかった」
「つまり私の神命によってお前を過去へと送り歴史を変えたいと望んでいるのか」
ウロボロスが思いもよらない事を話したが実際は歴史を書き換える事など可能なのだろうか。それが可能ならば是非もない事だが―――。
しかし今までのディバインズオーダーでの生活、仲間との出会い、そして今の記憶、その全てが消え失せてきっとあのワンルームでフリーターの生活に戻るのだろう。更には唯一誇れるものすら失い一体どうやって生きていくというのだろうか。
「………可能なのか?」
正直言って欲しい答えはどちらでも無かった。アイリは普通に生まれて幸せに暮らし、フィルスが死ぬ事もない。そしてレイテもコナミの代わりに死ぬ事なんか無いのだ。それでも自分自身の願いを捨てたら駄目なのだろうか。コナミにとってディバインズオーダーが全てだったから故の失う事への恐怖心は死よりも恐れていた。
「可能だ」
ウロボロスが放った答えには心臓が痛くなる程鼓動が鳴った。
「私が命を賭す程の神命を使えば誰か一人をあの時代へ送り届ける事くらいは可能だろう。だがどうやって神に会って状況を変えられる。それに神からの能力やマナ供給を頼りにしているコナミがあの時代で同じく能力を発動できるか?答えは恐らく否だ」
余りにも鋭い指摘にコナミは返す言葉も無かった。行った所で能力もマナも無しで神はコナミを知らない状態で一体何が出来るというのだろうか。秩序処分として消される可能性だって大いにあり得る。それに一度行けば戻ってこれない。どれを取ってもリスクが高すぎた。
「つまり私は出来もしない願いの為に生まれた存在か。理想を掲げ生まれついた意味なき者。そしてお前の偽善を含んだ善行たる正義の魂もまた虚偽たる産物。一体何なのだ私は。破壊、死、血、そして力。それに魅せられここまで辿り着いた結末がこんな、こんな終わり方だなどとは……」
長く伸びた白い髪をだらりと垂らし項垂れたままウロボロスはこちらを睨み付けている。殺気や狂気そんな素振りも無く、ただ絶望した表情を見せていた。かつては強さを追い求め、欲し、自らを高め、シガレットを崇拝していたあの殉教者がここまで落ち込んでいる様を見ると何とも哀れに感じた。
だがこの魔法都市プライベリウムの惨状を許すわけにはいかない。直ちに殺してやりたいが神命が強すぎるせいで勝ち目など無い。ウラノスに頼る事すら出来ないし、今イヴやメアリーと合わせても作戦無しでの戦いの結末は目に見えている。
だったら――――。
「……なぁウロボロス。お前の【次元時空】って魂を消し飛ばす事も出来るのか?俺の中にいるシャックスの魂を時空間どこでもいい。消し飛ばしてくれないか」
利用できる物は全て利用してやる。勝ち目の無い戦いならまずはシャックスを消し去る事で悩みの種を一つでも取り除く。
「魂を……消し去るか。そもそも魂とはいったいなんだ。どこに存在し、どこから溢れ、どこへ消える。お前の持つ能力を形作る上で重要な魂とは一体なんだ」
魂という概念について聞かれても答える事は難しかった。心の強さが魂の強さ。落ち着かせた心。肉体的な強さから生じる余裕。全て当てはまるしそれが魂だと定義は出来ない。
「ではお前の魂、全身全霊で私に見せて応えてみせろ。それが魂の在処を掴み取るかもしれないぞ」
「冗談は辞めてくれ。お前は確かに最強だ。勝てるはずないだろ」
「どうすればお前は本気で私に魂を見せてくれる?この惨状を見て私を殺す気でここへ来たのではないのか?」
ギリッと音を立てて奥歯を嚙み締め、手は力いっぱい剣を握っていた。殺してやりたい。その心臓を抉り出して殺してやりたい。だがそれでも勝てるはずない。それは変える事の無い事実だ。コナミは気持ちを落ち着かせて息を整えた。放っておいてもアルテウスに消されるのは時間の問題なんだ。
「無理だ。お前には勝て―――」
「分かった。この上にいる4人を殺せばお前は本気になるのか?」
身体の自由はもう利かなかった。全身全霊の雷のマナが身体に纏い髪の毛が逆立つ程に殺気を見せる。
「調子に乗るなよウロボロス!!!」
「そうだ。それでいい。初めからそうしていればいいんだ。お前は私であるが故に私を殺せるのはお前しかいないんだコナミ!今こそお前の魂の輝き、それを見せろ!会話など必要ない。私たちは同じ。戦いを興じ、愉悦を求める戦闘狂なのだから!」
「うああああああああああ!!!!!雷光抜刀撃!!!」
放たれた一撃は今までのどんな速度を超えていたのにも関わらず、ウロボロスは真剣白刃取りで受け止めていた。大量に帯びた雷を受けているのに平然な顔つきを見せている。
「足りぬ。お前のその技は夢で幾度となく飽きる程見尽くしてきた。お前だけのオリジナリティ。私を殺す為だけに技を磨き、魂とやらを鍛え、マナを出し尽くせ。もっとだ、もっと見せてみろ」
「紅蓮炎龍―――」
炎を纏い始めた瞬間ウロボロスの強烈な拳が顔面へと直撃し、そのまま瓦礫を薙ぎ倒して吹き飛ばされた。強化されたべリア並みの威力を持ったその拳にコナミは意識を失いかけた。
「違う!違う違う違う違う違う!!!私はシガレットの技の全てを追体験してきた!猿真似など止せ。お前が思う最強を私に見せるのだ。さあ、早く!!さあ!!」
血が足りず徐々に精神が安定しないのかウロボロスは以前の状態になりつつあった。
オリジナルで言えば高速瞬間移動を繰り返す"四面楚歌"は見せた。ウラノスの瞬間移動、アルテウスの再生能力、デストレイズの力の能力。残すは夢と現実の神モルフェウスと過去と未来の神クロノスだが夢を見て過去の追体験が可能。これは戦闘の役に立つとは思えないが一体何の為の能力なんだ?
『初めましてだな。人間。実はこの僕が君にあげた能力は別のものなんだ。人間風情に渡す物の説明など面倒だからウラノスにはモルフェウスと合同作成したものだと伝えたがね』
何者かが頭の中に声が響く。
「だ、誰だ?」
『この僕こそが過去と未来の神、クロノス様だ。時間を操り時を流れ悠久たる世界の全てを司るのさ!ほはははほほほ!だが今の君にウロボロスを倒す手段がとても見つからない。だからこそ真の能力を君に伝えようと思ってね。有難く思えよ人間』
「勝てるのか?その能力。あのウロボロスを……!」
『勝てるね。今の君なら。僕の能力は―――』
その能力を聞いた時には驚きを隠せずにいた。なんてことだ。今までで何よりも強くなぜもっと早くに教えてくれなかったのか。その能力を聞いた瞬間力が湧いた。勝てる。必ず勝てる。
「ほう。消えかけていた闘気の灯にまたしても火が付いた。思いついたのか、私を倒す事が出来るお前だけの力を」
「ああ。とくと見せてやるよ!この力を持ってお前を倒す!!」




