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1. 異世界に来たけど結果は現実

 「今日はかなり進みましたね」

 「多分明日あればこのダンジョンも攻略できるんじゃないかしら」

 「そう…だね…。今日は順調だった…気がする」

 「あ、明日は娘に会いにいくから集まれないや」


 「オッケー。そんじゃおやすみー」


 そう告げて目の前は真っ暗になった。

 顔に装着したVR器を外し、固まった背筋や肩をバキバキと鳴らす。


 電気も点けずにずっと高難易度ダンジョンの攻略をやってばかりだったせいか、いつの間にか部屋全体は真っ暗になっていた。


 名前は大町小波(おおまちこなみ)は現在22歳。独身引きこもりニート。


 高校に入ってすぐグループ作りに失敗し、それ以降家で引きこもり生活を五年続けた結果、学校からは自動退学に合い、更には家からも邪魔者扱いに合う始末。


 仕送り生活で小さな部屋を借りて今は独り暮らしをしているが、社会から見れば生きていても死んでいても変わらないような人間である。社会不適合者とはこのことかと痛感させられる。



 ただし、いつもやっているVRオンラインゲームMMORPG【ディバインズオーダーオンライン】の中では誰もが知る有名ゲーマーだった。


 β版から参加して直ぐにギルドで5人でパーティを組み、世界で誰も倒せなかった最強の敵である魔王勇者パーシヴァルを倒した。世界中から【英雄】と呼ばれる実力を誇るヒーローだった。


 「俺だってディバインズオーダーの中では英雄なんだ。仮に異世界召喚されれば敵を無双して女の子にモテモテみんなに大人気、街を歩けば有名人。でも現実は、あーあ、ディバインズオーダーの世界に行ければな~」


 なんて呟いてみた。


 よくあるラノベ小説とかならここで異世界へ移動して、なんて展開が来るものだけどこれは現実。


 目の前は散らかった部屋とベッドがひとつ。

 それだけだった。

 そんな事はわかっていた。


 明日もダンジョン攻略だし早めに寝ないとな。

 コナミはそう思いながら部屋の電気を消した。



※※※※※※※※※※※※



 暗い闇の中で声が聞こえる。


 『【英雄】シガレットは、死んだ』

 「……誰の声だ?シガレットって、俺のゲーム内での名前……」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 目が覚めると目の前に広がっていたのは自分の部屋とは明らかに違う木造の屋根。

 部屋はベッドと小さな棚とその上に植木鉢がひとつ。ここはよくある宿屋だった。少なくとも自分の部屋では無い事は明らかだ。


 「知らない、天井だ」


 寝ぼけながら冗談をぽつりと吐いてみたが異常な事態にコナミはベッドから飛び起きる。なにせどこか見覚えのある部屋に感じたからだ。コナミは勢いよくカーテンを開いた。


 「これは…ッ!!」


 目の前に広がっていたのは現実的ではない風景。



 建物は全てヨーロッパを感じさせるような異世界ファンタジーにありがちな西洋風の鎧を着た人が大きな音を立てながら闊歩(かっぽ)し、その後ろを魔法使いのような恰好をした人も付いて行く。現実世界には無い食べ物や骨董品を売っている商人や、魔法を使った火吹き芸を行う旅芸人の姿も見える。


 こんな世界を誰が目の前で見た事があるだろうか。

 だけどコナミにとっては見慣れた風景だった。


 そう、今いるこの世界はコナミが魔王を倒して【英雄】と呼ばれてきたオンラインゲームの【ディバインズオーダーオンライン】だった。




―――――――――――――――――――




 「うおお……。ついに俺にも来たか、異世界召喚ってやつが。しかもディバインズオーダーとか最高じゃねぇか!今まで培ったスキルを使って無双してウハウハってか!」


 そう喜んだのも束の間。


 窓ガラスに反射する自分の姿は目を疑いたくなるような現実で、寝癖のついた髪の毛に上下灰色のスウェット、更には裸足という異世界感が皆無の格好だった。付け足すなら所持金、所持品などは持っておらず完全に一文無し装備無しだった。


 「初期装備にしてもここまで酷い仕打ちを受ける主人公って一体どうなのよ……。異世界召喚した神様ももう少しチート能力用意してくれないと俺みたいな凡人じゃ生きてけねぇっての」


 コナミはグルグルと部屋を散策して辺りを見回してみたが何もない平凡な宿屋だった。特に目に入る物もなく、宝箱や武器などが置いてある気配すらなかった。

 

 そこでコナミはとある事に気付く。


 「もしかして全世界のプレイヤーで同時に発生した異常現象だったらどうだろうか。それならパーティのみんなも来ているかもしれない」


 その可能性に賭けてこの世界の状況を確認する事にした。オフ会をした事もなかったから顔を知っているわけではないけど、シガレットだと教えればすぐに伝わるはずだ。


 部屋を飛び出して全ての部屋を確認してみたが、宿泊していたのはどうやらコナミだけで他の部屋はもぬけの殻だった。


 「他のみんなはもう行ってしまったのか。もしかして出遅れたのは俺だけ?でもま、きっと行くとしたらまずはギルドだな!」


 コナミは階段を駆け下りて宿の扉を開いた。

 すると、コナミより遥かに大きくて立派な腕がコナミ肩をしっかりと掴んでいる。


 「兄ちゃんよぉ、どこから入ってきた?それに勝手に泊まったってぇなら金も払わずどこ行こうってんだ?えぇ?」


 振り向くと店主の大男が恐ろしい顔立ちで睨んでいる。VRでいくらでも大男や魔物は見た事あるとはいえ、生で見ると全く迫力が違った。

 

 金すら持ってないコナミは殺されてしまうかもしれないと感じ全身から冷や汗が止まらなくなる。


 「いや、え、その、あは、あはは……」


 コナミは店主を振り払い、人生で初めて死ぬ気で逃げた。


 血走った目で怒声と共に追いかけては来ているが、小道に逃げ込んでデカイ図体の店主をなんとか撒いた。ディバインズオーダーの街並みはあれだけやり込んだおかげか人通りのない小道も知っていて助かった。


 「はぁ、はぁ、なんでこんな目に、くそっ。異世界召喚先が宿屋で予約もされてないとかサービス精神薄すぎるだろ召喚した奴よぉ」


 「おいおいお兄さ~ん。そんな息切れしちゃって大丈夫~?」


 息切れしている中、目の前には【私は悪い奴です】とレッテルが顔面に張り付いたような風貌の男が二人こちらに近付いてきた。


 「おいおい、召喚した神様よぉ。こういう時は美少女の案内人とかがこの街を一緒にデートしてくれるってのが定番じゃねぇのかよ」


 「なんか見すぼらしい服だが見た事のない生地だな。ぶつぶつ言ってねぇでそこで脱いで置いていけ」


 そう言うと男は腰から小さな刀を出した。


 「どうして異世界召喚っていうのにこんなにみんなから酷い仕打ちを受けるんだ。結局現実と同じで異世界でも邪魔者だってのかよ、俺は……」


 「何言ってんだコイツ。早く脱げって言ってんだ!」


 「待て!」


 低めの女性の声と共にそこに立っていたのはよくある展開のメインヒロイン。

 ではなくディバインズオーダーオンラインのゲームで共に戦い、【霊剣】という通り名がある女性。


 イヴ・バレンタインだった。



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