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アデル

「貴方は今日からアデルよ」


 これが俺に名付けられた名前だ。


 アデル……。

 これが俺の名前か。


 体の内側から沸き起こるこの感じはなんだろうか。

 満たされ漲る。


 その興奮を抑えるのがやっとだ。


 俯き震える俺を見て女性はオロオロする。


「そ、そういえばまだ自己紹介してなかったね。

私はサーシアだよ。

よろしくね」


 この家にはサーシアしか住んでいなくて、いつまでも居ていいよと言われた。

 この人の優しさに警戒心が鈍る。


 その後は使われてないという綺麗な部屋に案内されてフカフカの藁ベッドに寝かされた。

 

 寝たふりをするとサーシアさんは俺の頭をなでて部屋を出ていく。


 彼女の気配が遠のいた事でムクリと体を起こしステータスを見る。


「ステータス」


____________________

【アデル】 11歳 人間 レベル:10


職業:悪魔使い


状態:健康


HP:72/72 MP11382/11382


固有スキル

魔眼


スキル

悪魔召喚

魔力吸収


称号

悪魔の寵愛 適合者 魔石を有する者

____________________


 名前がちゃんと付いている。

 俺は時間を忘れてそれを眺めていた。





 翌朝。


 トントンと小気味良い音といい匂いに目が覚める。

 昨日の夜あれだけ食ったのに俺のお腹はぐぅ~っと鳴った。

 部屋を出て匂いのする方へ行くとサーシアが台所に立って料理をしている。


 自分は夢を見てんるんじゃないかとぼーっとそれを眺めてしまった。


「おはようアデルくん。

もうすぐ出来るから座って待ってて」


 扉に半身出して覗いてる俺に気がついてサーシアはそう言う。


 恥ずかしくなり俯いて無言でテーブルに向かい椅子に座る。

 サーシアは大きな鍋を持って来てテーブルに置き、お皿を出してスープを入れ、俺の前に置く。

 籠にはパンが3つ入っており食べなと俺に差し出す。


 一個受け取ってテーブルに置く。


「何してるの?

食べていいよ」


 そう言われて匙を持ちスープを掬って口へ運ぶ。


「熱っ!!」


 出来立てのスープは熱くて舌を火傷してしまう。


「あらあら!今お水持ってくるからね!」


 サーシアは慌てて台所に行き水瓶に入っている水をコップに入れて持ってくる。


「これを飲みなさい」


 差し出されたコップを両手で掴み、一礼して飲む。


「出来立てだからね、少し冷まして食べるといいよ」


 言われた通りに匙で掬ったスープをふぅ~ふぅ~っと息を吹きかけて冷まして飲む。

 やっぱり薄味だけど野菜の味がしっかりしているから美味しいスープだ。


 そんな俺の様子をサーシアは微笑み見ていた。


 食事も終わり、ソワソワと椅子に座っているとドアが叩かれ男が訪ねてきた。


「サーシアさん!おはようございます!テオです!」


 その音と男の声に条件反射で体が強張りビクッとする。


 そんな俺の様子を見てサーシアは一瞬顔を曇らせる。


「はいはい、そんな大きな声出さなくても聞こえるよ!もう」


「おはようございます。

例の子供は……?」


「アデルくんなら今朝ごはん食べて休んでるわ。

どうしたの?」


「村長がそのアデルくんに会いたいと言ってまして……」


「わかったわ。

後で連れて行きます。

わざわざ知らせに来てくれてありがとうね」


「いえいえ!それでは失礼します」


 男は伝える事を伝えると帰っていった。

 戻ってきたサーシアはまだ震えている俺の頭を撫でる。


「アデルくんが着れるお洋服貰ってくるから少し待っててね」


 そう言ってサーシアは家を出て行った。

 家にドラグルと二人きりになった事で幾分か精神も落ち着きキョロキョロと家の中を見てみる。

 サーシアが居た時はほぼ俯いていたから足元しか見ていない。


 家はちゃんとした木製家屋で綺麗に整頓されゴミがあまり落ちていない。

 しばらく見て回っているとドアが開く音が聞こえた。


 サーシアが帰ってきたんだと慌てて椅子に座る。


「アデルくん、最初は髪を切りましょうか!」


 そう言って椅子を持って裏庭に連れて行かれチョキチョキと髪が切られていく。

 6年分の髪をバッサリと切られ頭が軽くなりさっぱりする。

 桶に水が入っており少しずつ流され髪を洗っていく。

 ついでに全身も洗われた


 サーシアの要領の良さというかテキパキとあっという間に終わってしまうからなす術が無い。


「さあアデルくん!着替えましょう!」


 サーシアは貰ってきた服を俺に着せようとする。

 一応自分で着れるけどあっという間に着せられてしまった。

 体を洗われてる時もそうだけど、ズボンを履かされるときアソコを見られて凄く恥ずかしくて赤面する。

 グレーのシャツに黒の半ズボンと色は暗いけど俺にぴったりだ。


「見違えるわねぇ~!

かっこいいよ!アデルくん」


 褒められ気になり水瓶を覗き込み水面に映る自分を見てみる。

 確かにボサボサだった時とは一変して短く整えられておりサッパリしている。

 やっぱりというか目はヤバイ。


 それでもパーツは良いのか顔は整ってる方だと思う。

 これで角とか生えてればいいのにと凶悪な目で水面に映る自分を睨みつける。


「そんな所覗いてどうしたの?

お水飲みたいの?」


 俺の様子を見てコップを持ってこようとするサーシア。

 俺は慌てて水瓶から離れる。


「お水飲んだら村長さんのところに行きましょうね。

アベルくんに会いたいんだって」


 そう言ってサーシアは水の入ったコップを俺に差し出し、それを無碍には出来ず受け取りゴクゴクと喉を鳴らして飲み干す。


 空になったコップをテーブルに置いて俺とサーシアは家を出た。

 俺の後ろをドラグルは付いて来る。


 裏庭では村の様子を見れなかったが、今こうして見てみると魔人族の人達は皆表情が明るく楽しそうに生きているように見える。

 そして、俺達に気が付いても誰も軽蔑した視線を向けてこない。


 元気よく走り回る子供達も居て、その中にアッシュも居た。

 アッシュは俺に気が付き駆け寄ってくる。


「最初誰かと思ったよ!」


 純粋無垢な笑顔で俺にそう語りかける。

 ここの子供は誰も俺に石を投げない。


 昨日までは伸ばしきった髪で顔を隠せたけど今は晒されているせいかよくわからい感情に顔を背けてしまった。


「どうしたの?

どっか痛いの?」


 心配して顔を覗き込んでくるアッシュに何も言えなかった。


 この村は全体的に眩しい。

 ずっと暗闇の中でもがいていた俺にはここは明る過ぎて居心地が悪い。


 そんな俺の様子を察してかサーシアは俺の手を握って、アッシュに「今村長さんに呼ばれててまた後でね」と言って引き離してくれた。


 眩しすぎるこの村に俺は俯いて前を進む事しか出来なかった。





「アッシュ兄ちゃん、あの人誰?」


「新しい友達だよ。

皆で仲良くしようね」


「「「「うん!」」」」


 アッシュ寄りも幼い子どもは無邪気に返事をする。




 そして、村長の所へ向かう俺達を見ていた大人達は近くにいた人達と話し始める。


「どうしてあんな辛そうな顔をしてるんだろう」


「まあ前いたところとかでなんかあったんだろ。

何があったか知らねぇが俺達は見守る事しか出来ねぇよ」


「そうね……。

だいぶ怯えてる様子もあるしゆっくり見守っていきましょう」


 殆どが俺の事を心配する声で、僅かに噂に疎い人達が近くの人に事情を聞いている感じだ。



 色んな事が頭の中でぐるぐるしていた俺は村人達のそんな声が聞こえなかった。



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