11歳 出会い
森を追い出されて1年。
気配察知で頼りになるドラグルが居るおかげで今の今まで人間に見つからずに生きてこれた。
ビクビクしながら森を離れ街道を大きく離れて草原の真ん中を進み、時折若い人間を見かけるけど大きく迂回しながら彷徨い林や丘を越えて安住の地を探す。
知能の低いモンスターは俺達に近づいてこないから今の所は安全だ。
俺達からすればスライムとかゴブリンとかコボルトは可愛いもんだ。
オークは知能低めだけど食欲と性欲しか脳がないから見境なくて、近くにドラグルが居ても俺を襲って来るけど。
あいつら死すべし。
襲ってくるオークの中にはナニをおっ立てた気持ち悪い奴もいる。
滅ぶべし。
1日中食える草を探しながら歩き通しだ。
「今日はもう疲れたからこの辺で休もう。
また警戒お願いね」
『ワカッタ』
草を食べて空腹を紛らわす為に横になる。
毎日一日中歩き通しだから疲労ですぐに寝られるのはありがたい。
森には豊富に食材があったけど草原とかは本当に草しかない。
モンスターもスライムとかゴブリンとかばかり。
あいつらって食べれるのかわからんけど食いたいと思わない。
それから数日。
小川を見つけて全身の汚れを落とす。
「どれぐらいぶりの水浴だろ」
バシャバシャと体や髪を洗い垢や汚れを落としていく。
「うっわ、汚いなぁ」
水は薄茶色に濁り皮膚を擦ると垢がボロボロとこぼれる。
ドラグルは小川に泳ぐ小魚をサッと素手で掴み捕まえていた。
今夜は久しぶりに魚だ。
しばらく水の中に入って汚れを落とし切ると傷だらけだけど綺麗な肌が見えてくる。
髪も皮脂を落とした事でサラサラになって気分が良い。
水面に映る自分の顔を見る。
久しぶりに見る自分の顔はやっぱり嫌いだ。
何度見ても俺はあいつらと同じ種族なんだと思い知らされる。
栄養が足りなくて頬はこけて目は少し窪み死んでいるような目をしている。
体全体は筋肉があまりつかずやせ細り、肋が浮いている。
それに傷跡だらけだ。
本当に俺は醜い人間だ。
水面に映る自分の顔を力いっぱい殴る。
波紋が広がるがすぐに川の流れに押し流されゆったりとした水面に同じ顔が映しだされる。
水面に映る俺は俺を笑ってるように見えた。
その笑ってる顔が村にいたあいつらと被ってチラついてくる。
地獄の日々をまた思い出し怒りと憎しみが燃える。
変わらない。
何も変わらない。
この気持ちは何があっても変えてはいけない。
死ぬまで恨み通せ。
「ふぅ~」
自分に自己暗示をしているようだ。
深く息を吐いて心を落ち着かせて小川を出る。
体を拭く布も身に纏う服もないからそのままそよ風に体を晒して乾かす。
「へっぷしゅっ!!」
流石に少し寒いな……。
俺の寒さを察知してドラグルは手に持っていた魚を放り投げ小枝を探し集めて火をおこし始めた。
俺はそんなドラグルがおかしくて微笑みながら放り投げた魚を拾い集める。
火にあたり暖を取りながら魚を焼いてのんびりと過ごす。
今自分達だけしかいないこの空間が幸せに感じる。
日が落ちて星が煌めき始めている空を見て凄くリラックスが出来ている。
翌日はあいにくの空模様で気分は下降している。
空は分厚い雲に覆われて今にも降り出しそうだ。
俺は急いで雨宿りが出来るところを探して前へ進む。
冷たい風が吹いて体がどんどんと冷えていく。
途中からドラグルに抱えられ草原を突っ切っていると、生い茂る木々が見えてきた。
「ドラグル!あそこで雨宿りしよう!!」
俺が指をさしたところに向かって駆け出していく。
体力無尽蔵のドラグルに抱えられて移動すればあっという間だ。
だけど頼り過ぎると足腰弱くなってまともに動けなくなるから、普段は自分の足で歩く。
森へ辿り着きとりあえずは一安心だ。
「枯れ枝集めてあそこの大木の根本で焚き火しよう」
ふた手に別れて枯れ枝を探す。
俺の細腕で抱えられるのはたかが知れているから何度も往復する。
ドラグルがたくさん抱えて戻ってきた所で火熾しを頼み、俺は大きな葉っぱを集めて雨避けを作る。
長く森で暮らしていたからこう言うことは手馴れている。
俺もドラグルもあっという間に終わらせ焚き火に身を寄せて暖を取る。
「今日はご飯お預けだな」
俺のお腹がグゥ~っと鳴った。
はぁ~……お腹空いた……。
昨日調子に乗って魚全部食べるんじゃなかった。
と心の中で愚痴をこぼしていたらザーッと音がして雨が降り始めた。
焚き火のパチパチと水分が弾ける音と雨音がなんだか眠気を誘う。
火を眺めながらウトウトしていたらガサガサと草が揺れる音がした。
ドラグルが何も警告してこないんだ、ゴブリンかなんかだろうと無視してたら全く違った。
「ねぇ、僕も火にあたっていいかな?」
ビックリしてガバッと顔を上げると頭から2本の角と背には黒い翼、お尻の方には尻尾を生やした黒髪赤目の男の子が雨に濡れて立っていた。
思わず呆気にとられた。
男の子は俺の沈黙を肯定と捉えたのか焚き火に近づき座り暖を取る。
ドラグルの方を見ると男の子を興味深そうに見ているけど特に警戒している様子はない。
「僕はアッシュ。
何で裸なの?」
男の子、アッシュは興味津々と言った様子で俺に聞いてくる。
まだ混乱している俺は答えられない。
アッシュは不思議そうに俺を見ている。
「……着る服、持って、ない」
目を伏して小声でたどたどしく答えた。
「ふ~ん」
答えを聞けて満足したのかアッシュは近くにあった枯れ枝を一本焚き火に投げ入れた。
その後はアッシュの質問攻めで辟易とした。
何で一人なのか、何で髪がボサボサなのか、何処から来たのか、今何歳か、好きな食べ物は、どんな遊びをするのか止まらない止まらない。
戸惑っていちいち受け答えしてる俺も俺だけどいい加減鬱陶しくなって静かにしてと強く言ってしまった。
アッシュは「ごめん」と謝ってシュンとする。
なんか悪い事をしてしまった気分になってしまい、俺はアッシュとは反対の方を向いて寝転ぶ。
小声でドラグルに「火の番お願い」というとしっかり聞こえているようでわかったと頷く。
そのまま俺は寝息を立てて寝始めた。
眠ってしばらくしてからだろうか。
遠くから聞こえる声にハッと目が覚める。
「お~い!アッシュ~!!」
微かに聞こえる声は確かにそう言っている。
アッシュの方を見ると焚き火の前で丸まって眠っていた。
声がだんだん近づいてくる。
俺はアッシュを揺り起こす。
「……お迎え、きた。
起きろ」
「うぅ~ん……もう少し寝る……」
一瞬起きてまた寝始めるアッシュ。
あ~もう!と心の中で舌打ちしとにかく揺すって起こすも一向に起きる気配はない。
尚も近づいてくる声にドキドキしながらも必死に起こしてアッシュは目を擦りながら体を起こした。
「アッシュ~!!何処だ~!!」
と聞こえてくる声にアッシュは。
「父ちゃんうるさいなぁ~」
と言って頭をコクリコクリと揺らし始めた。
コイツまた寝やがったと心の中で憤って近づいてくる声にどうしたらいいのかとプチパニックになる。
ドラグルは近づいて来る気配に全く警戒しておらず、俺に言われた通りに焚き火をじっと見て火の番をしている。
声の主は焚き火の灯りに気が付き一直線に近づいてくる。
そして、草を掻き分けて現れたのはアッシュによく似た男だった。