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10歳

 あれから二年。

 俺は魔力が濃いこの場所に留まり生活をしてきた。


 最初の頃は衰弱しきっていたけど、ドラグルの献身的な介護のお陰でなんとか持ち直し今に至る。

 人間達から受けた苦痛に比べればこんな自然現象なんか屁でもないと痩せ我慢してきた。

 実際あんな肉体的にも精神的にも熾烈に追い込まれた所よりはましだ。


 そして、この体がこの環境に順応し始めた時に変化が起きた。

 胸の辺りに魔力が集まる様になってその頃から痛みが発生した。

 ズキズキと針を刺されているような痛みがずっと続くのだ。

 その頃から魔力過多による気絶も無くなり痛みだけで生活に支障はなくなったが、日に日に胸の痛みと異物感は大きくなったけど、それも今はそれも収まり特に問題なく生活できるまでになった。


「克服すればこの環境も天国だな」


『主、ニク、モッテキタ』


 牙が大きいイノシシが血を滴らせながらドラグルに担がれている。


 この場所に住み始めて2年になるけど全く人間が近づくことは無かった。

 だから最近火を解禁して今は肉を焼いて食える。

 戦う力が俺にはないから狩りはドラグルの担当だ。

 俺は薪用の枝を探したり食べれる草を探したり担当。


 ドラグルについて一つ面白いことがわかった。


 ドラグルが狩りに出かけ俺が食用の草を集めて彷徨ってい迷子になった時、狩りを終えたドラグルが俺の元にちゃんと帰ってきたのだ。

 俺達が離れ離れで移動していても俺の居場所が分かるらしい。



 火をおこしてこの森でたまたま見つけた錆びたナイフでなんとか皮を剥いで精肉する。


 血と内臓はドラグルの大好物らしいから掻きだした内蔵をドラグルに上げる。

 それを勢い良くがっつく。


 俺は肉を焼いて食べる。

 ドラグルが持ってくる果物や肉はいつも美味しい。


「今日はここで休もう」


『ワカッタ』


 いつものように小石や枝などの邪魔な物を取り除いて寝床にする。



 そんな日々を送っていたいる日、平穏は突如として崩れ去る。

 いつものようにドラグルが狩りに出かけて俺が枝や草を集めている時、背後から突如声をかけられた。


『日に日に強まる怪しい気配が鬱陶しくて来てみれば人間の子供ではないか』


 ドラグルのようなガラガラと重い声じゃなく聞き取りやすい軽い声だ。

 背中から感じるプレッシャーに体が硬直する。


 ガクガクと体が震え息苦しくなり膝をつきそうな所でドラグルが戻ってきた。


『主、マモル』


 ドラグルは俺の側に立ち気配をピリつかせる。


『む?何やら気配が増えたが見えん。

姿を表わせ邪悪なるものよ』


 ドラグルが来た事で安心して振り返るとそこには赤色の巨大な蛇が居た。

 蛇は鎌首を上げてチロチロと舌を出して俺を見ている。


『子供よ、お主は何者だ。

なぜそれ程に巨大な魔力を持つ。

そして姿を表さぬ邪悪な気配よ我を愚弄するか』


 姿を表さないドラグルにも蛇は重も苦しいプレッシャーをぶつけて来る。

 流石にドラグルもこのプレッシャーに押されていた。

 このままでは不味いと思わず声が出てしまった。


「ど、ドラグルは誰にも見えない……です」


 未だプレッシャーを放つ蛇は俺を見る。


『ほう、それが事実なら面妖な。

誰にも見えないのにそこには居るか。

まるで悪魔のようなやつよ』


「悪魔……ですか?」


 確かにドラグルは悪魔的な外見をしてるけど……。


『お主には見えているんだな?』


「え?あ、……はい

俺の側で立ってます……」


『そうか、この邪悪な気配も悪魔なら納得だ。

次はお主だ子供よ。

人間の姿、気配でありながらその異質で巨大な魔力はなんだ』


 プレッシャーを緩めて今度は俺の事を聞いてくる。

 異質で巨大なと言われてもよくわからない。

 俺はそんな魔力を発しているのだろうか。


「あの……よくわからないです。

俺ってそんな魔力ありますか……?」


『人間の子供にしては異常とも言えよう。

我がまだ人間の近くで住んでいた時、そのような異質な魔力を持った人間、ひいては子供を見たことが無い』


 そう言われて悩んでいると蛇は言う。


『ステータスは使えるか?

ステータスと唱えてみよ』


 そういえばステータスの事を忘れていた。

 あの日以来見る事が億劫になっていつしか忘れてしまっていた。

 確かにステータスなら何かわかるかもと2年ぶりに唱える。


「ステータス」


悪魔の子 ステータス


____________________

【   】 10歳 人間 レベル:7


職業:悪魔使い


状態:健康


HP:58/58 MP10702/10702


固有スキル

魔眼


スキル

悪魔召喚

魔力吸収


称号

悪魔の寵愛 適応者 魔石を有する者

____________________



『ほう。

なるほど』


 巨大な蛇は俺の出したステータスに顔を近づけてじっくり見ている。


 ってかなにこれ……。

 MPの量が……。

 それにスキルと称号。


『大体は察した。

この魔の森の魔力を吸収し続けて体内に魔石を生成してしまったのか。

であるならば納得だな。

子供よ、お主は人間でありながら魔となったという訳だ。

難儀な人生よ。

人間でありながら人間と相容れぬ存在になるとは』


 相容れない?知ったことか。

 俺のこの黒髪黒目で既に人間から嫌われていたんだ。

 あいつらとなんか生きていくつもりはない。


 この体に刻まれた虐待の日々、殺されかけた傷跡が熱を帯びる。


 俺は生まれてからそうやって生きてきたんだ。

 人間共に擦り寄って暴力に怯える日々はゴメンだ。


 心の中で地獄の日々を思い出し恨み憎しみが燃え上がる。


 目があっただけで殴られ、そこに居ただけで石を投げられ、冒険者共は俺を荷物持ちだのと言って連れ回し重たい荷物を持たせてもたついてると殴られ、魔法を使う者には実験だと言って俺の体で色々試して、生意気だと、目つきが悪いと、気味が悪いと理不尽に殴られ、泣き叫んで許しを請う姿を笑って、怪我をしても嘲笑うだけのアイツら。

 村の子供もそんな親を見て真似して俺を傷めつけてくる。


 傍観する人も俺をゴミを見るような目で見て。

 あの5年間は本当に地獄だった。

 心の奥底まで恐怖を刷り込まれた。


 親にも俺の誕生を後悔され疎まれ俺を放置して消えて。

 信じれるのはずっとそばに居てくれた守ってくれたドラグルだけだ。

 寂しい時も辛い時も側に居てくれるのは人間じゃなくてこのドラグルだけだ。


 ドラグルさえ居ればいい。

 他は死ね。


 心の中に燃え上がる憎しみの炎は強さを増し魔力が荒れ狂って吹き出す。


『ぬ、ぬぅ……。

何と言う憎しみの念だ……。

何があったか知らんが異常だ』


 蛇の声にハッとして激情がスッと引く。


『とにかく、お主のその気配は鬱陶しい。

食ってやるのは免じてやるからこの森から出てってくれ。

拒むなよ。

今の我なら一瞬でお主を葬れる』





 恐らくこの主であろう巨大な蛇に森を追い出されてしまった……。

 あんなプレッシャーを放つ化け物に抗うなんて出来ないだろ……。


 なんだかんだ食うに困らなかったこの場所を離れ難いが仕方ない。

 人間に見つからず安全に暮らせる地を探さないと。


 俺は野生児の姿で旅を始めた。




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