英雄の力
アバクァスとレオダルクの拳と剣がぶつかる。
轟音と振動を響かせて両者は鍔迫り合う。
力は圧倒的にアバクァスが上でも、技量で凌ぎ拮抗する二人。
「!?グウウウウアアアアア!!」
拮抗する二人だが、突然アバクァスが痛みに吠える。
レオダルクの剣が、アバクァスの拳の刃が当たっている所がジュウジュウと音を立て煙を吹きながらめり込んでいく。
「我が聖光剣は魔に絶大な効果を持つ」
レオダルクの光の剣は危ないと認識し溶岩を触手のように操って遠距離で攻撃を仕掛ける。
溢れ出るマグマはどんどんアバクァスへと集まっていき、赤いドロドロとした灼熱の巨人が出来上がっていく。
更に地面を何度も強打し、地震を起こして地割れを起こさせ、そこからマグマを吹き荒れさせる。
「セイクリッドレイン!!」
レオダルクは天剣を向けて魔法を発動すると、剣から天に向かって白い光が天に向かって放たれる。
噴き出る溶岩からモクモクと立ち昇り空を覆っていた黒煙を貫く。
アバクァスは警戒し自身にマグマを纏い、溶岩の巨人、地割れから溢れるマグマを操った溶岩触手、そして自身の三位一体の攻撃を仕掛けた。
レオダルクに向かって一斉に拳と触手を叩きこもうとした時、空からいくつもの白い光の筋が降り注ぐ。
黒煙を拡散させ、アバクァス目掛けて光は降った。
その光は纏っていた溶岩を突き抜け貫通する。
何十、何百、何千と降り注ぎ、アバクァスは全身を殆ど溶かし、生きているのがやっとな状態だ。
制御を失った溶岩の巨人は崩れ広がり、アバクァスの作ったヒビ割れは修復していき、マグマの噴出が治まる。
『おやおや、アバクァスじゃ荷が重すぎたかい。
ヒッヒッヒッヒッ』
全身を黒衣に纏い頭蓋骨と背骨から尾てい骨の一直線の骨を杖代わりにする声からして老婆が死にかけのアバクァスの真上に突然現れた。
『相性が悪過ぎたね。
ほら帰るよ』
老婆が空中で杖を一突きすると地中からどす黒い禍々しい煙が吹き、アバクァスを包み込める。
この老婆も敵と認識したレオダルクは一瞬で老婆に迫り剣を振り下ろす。
ガィィィィィィン!!
老婆の前に見えない壁があり、それに完全に阻まれた。
『老人を労れないなんて、酷い坊やだね。
ヒッヒッヒッヒッヒッ』
「チッ!!
魔女め!
業火の鉄槌を下してやる!!」
『炎にはさんざん焼かれたよ』
はらりと覆っていた黒衣が捲れる。
完全にカラカラに干からびたそれが見えた。
『ワシを魔女と見破ったのは流石だね』
黒衣の中から黒い鳥が幾千羽も飛び出しレオダルクに襲いかかる。
鳥はレオダルクへと向かい攻撃する。
大量の鳥に翻弄され隙を作ってしまった。
『あぁなるほど……、お母さんが恋しいかい?
教会の連中は酷い奴等だねぇ~。
こんな純粋な坊やを騙して居るなんて』
「な、何を訳のわからない事を言っている!!」
『マリッサ……。
マリッサがお前さんの帰りをいつまでも待っているよ……』
「!? な、なぜ母の名を!?
それに母はもう死んだと司教様が……」
『可哀想に……。
忘れてしまったのかい?
お前さんを連れて行こうとする教会の連中にマリッサは必死で抵抗していたのを、忘れてしまったのかい?
騎士になったら戻るって約束を忘れてしまったのかい?
洗脳されてしまったんだね。
可哀想に……可哀想にマリッサ……。
愛するお前をいつまでもゴード村で待っているのに忘れられるなんてね……』
「そ、そんな……。
母は死んだと……!!」
『可哀想にねぇ……。
お前の才能を手放したくなかった教会は母親の死をでっち上げてお前を洗脳したんだね。
幼馴染みのカミーラの事覚えているかい?
お前さんが帰って来ることを待って操を立てているんだよ。
親友のザックスは?
良くしてくれたエル婆さんは?』
「あ、あああああ!!
そうだ、僕にはずっと好きだった女の子が……いつも一緒にいた親友を……おばあちゃんを……。
なんで今まで忘れていたんだ!?」
『それが洗脳さね、ヒッヒッヒッヒッ。
まだ間に合うよ。
帰ってやんな』
レオダルクは焦燥にかられ、乱された心は教会に対する怒りが燻ぶる。
フラフラとアンバレスに背を向けて歩き出す。
もちろんそんなの嘘だ。
マリッサは教会からの多額の金でとうにレオダルクの事を諦めているし、カミーラは既に別の男性と子を産んでいる。
カミーラと子をなしたのはザックスで、彼はずっと彼女に片思いをしていて、彼女が恋していたレオダルクが教会に行ったことを喜んだ。
親友と思っていたのはレオダルクだけだったのだ。
アンバレスの力、相手の最も大事にしている記憶を覗き込む力は相手を揺さぶるのに最強の力だった。
『さて、この坊やを連れ帰ってあげないとね』
アバクァスを浮遊させ街へと戻った。
それからしばらくして、第二陣の人間が攻撃を仕掛けて来て、この時アデレスとアッシュが飛んでくれのだった。