8歳
8歳となっても未だに森も彷徨い暮らしていた。
この森の生活は特に危険な事はなく、唯一ある危険とすればそれは人間との遭遇だろう。
あれから俺は人間に対する恐怖感を拭えず人間に怯えている。
逆に獣や魔物はいつも俺の側に居るドラグルの気配を感じて近寄って来ない。
ドラグルとは俺がこの世に生を受けて少ししてから一緒に生きてきた醜い友達の事だ。
ずっと一緒に居てくれるお礼として俺が授けた名を凄く喜んでくれた。
そしてこの3年間で俺の魔眼の力を少し把握した。
暗視もそうだけど対象と目が合い憎しみを込めると相手を動けなくする事ができる。
人間に対する憎しみを込めると俺よりも格上のモンスターをも動けなくする事が出来た。
逆にそれ程憎んていないモンスターの事を憎んで発動してもあまり力は発揮されない。
俺が憎む気持ちが強ければ強いほど効果は増す。
人間を、世界を、運命を憎めば憎むほどこの魔眼は強力になる。
ドラグルのお陰で食うに困らないけど成長盛りの今、栄養不足で満足に成長出来ず体は小さいままで相変わらずさせ細っている。
それでも多少は成長していて、服はもう着れず、村にいた頃のように捨てられた襤褸を拾えないから今はほぼ全裸て野生のように生きている。
髪の毛も村にいた頃はボロ屋に残されていたハサミで自分で切っていたけど、この森暮らしを始めて三年間は手入れが出来ずボサボサに伸び放題だ。
見た目は本当に野生児と化している。
『主、アッチカラ、ニンゲンノ、ケハイ』
気配に敏感なドラグルのお陰で俺は今の今まで人間に見つからずに生きてこれた。
「行こう……、多分冒険者だ」
その場をいそいそと離れる。
暴力に晒される危険のない今の生活は存外生きやすくて楽しい。
俺は一人じゃないし。
生きる為と体力作りのために食料を集めながら自分なり運動して割と充実している。
「今日はここで休もう」
少し開けた場所がありドラグルにそう言って寝床にする準備を始める。
小石や枯れ枝を取り除き寝やすくして、今日集めた食材を広げる。
食べられる雑草に、苦味があるけど食べれる木の実、貴重なタンパク源となる虫だ。
それを俺達で分けあって食べる。
だいぶ日も落ちた薄暗い森の中で俺の咀嚼する音がする。
最初の頃は必死に火を熾して捕まえて来た動物を焼いて食べていたりしたけど、炎の灯りや煙の匂いで人間達に見つかりかけてリスクを感じて避けている。
この森には稼ぎに来た冒険者がどこに居るのかわからないから。
自分の身を守る為に、もうずっとこんな生活だ。
木々の隙間から見える夜空に汚れた拳を突き出し言葉が溢れる。
「力が欲しい……」
安心して生きていける力がほしい。
人間に抗う力がほしい。
木の枝を振り回してなんちゃって剣術をやってみたり石を投げて見たりしたけど一向に上達はしないしスキルも手に入らなかった。
俺の努力が足りないのだろうか、それとも才能が無いのだろうか。
力をつけるのはドラグルばかりだ。
体も少し大きくなって爪や牙の鋭さに頭には角も生えてきて筋力も俺を片手で持ち上げられるくらいだ。
今日はこのまま寝てしまおうと目を瞑り暫くしてウトウトしていると遠くでドーンという大きな音が聞こえてくる。
「!? なに!?」
ガバッと起き上がり周囲を確認する。
ドラグルはすぐに俺の側に来る。
『主、アッチ』
恐らく音がする方を指差している。
何かがぶつかり合うような激しい大きな音は断続的に聞こえる。
「せっかく用意した寝床なのにっ!!」
せっせと自分がいた痕跡を消すように木の葉を集めて撒く。
「よし!!行こう!!」
ドラグルが指をさした方とは逆の方へ向かう。
この3年間森を彷徨ってあんな音を聞いたのは初めてだ。
不安が募る。
しばらく進むとドラグルは警戒し始めた。
「どうしたの?」
『コレイジョウ、ダメ、ニンゲン』
「!?」
後方の彼方からは大きな音を響かせる何かがいて前方には人間の気配。
人間がいると言われて心拍数が上がり息が荒くなる。
恐怖に思考がぐちゃぐちゃになっている所をドラグルは俺を抱えて安全だと判断した方へと駈け出す。
全力で駆け出し木々を避けて急いでその場から離れた。
『主、ダイジョウブ、ニンゲン、イナイ』
そう言われてやっとホッとする。
落ち着いて息を整えてから周囲を見渡すと今までいた場所とは何か雰囲気が違う。
少し重い空気を感じる。
不安になるがドラグルが大丈夫というなら信じよう。
近くにある大木に身を寄せ根に腰掛ける。
「何だったんだ……?」
あれは自然の音ではなく何かがぶつかり合う音。
激しさから予想するに戦闘の音だろう。
さらに音から予想するに相当な力があると想像出来る。
もしあんな力の持ち主に狙われたら……と考えると身震いする。
ある程度落ち着いてくると再び睡魔が襲ってきてウトウトと瞼が重くなる。
この体では睡魔に抗えずいつの間にか眠ってしまった。
翌朝目が覚めると、物凄く木々が生い茂る薄暗い森だった。
「そういえば昨日の夜……」
少しぼーっとして徐々に思い出す。
この世界は人間という脅威と訳のわからない力がある。
魔眼とまだ使い方のわからない悪魔召喚しかない俺にこの世界は安全に生きていけるのだろうか……。
ハッとドラグルを探すと目を爛々と輝かせている。
佇まいもなんだかシャキッとしていて普段と違う。
「ドラグル今日はなんだか元気?だね」
『ココ、魔力タクサン、キモチ、イイ』
この重苦しい感じは魔力の濃さという事なのか?
俺としてはあまりいい雰囲気に感じないけど唯一の友達が活き活きしてるなら暫くはここに居てもいいかもなと思う。
この場所に住み始めて数日。
「はぁ……はぁ……」
俺は体に異変を感じていた。
自分の体にまとわり付く不思議な感じと比例してどんどんと衰弱していく。
この場所は人間にとって良くない場所なんだと思いながらもドラグルの元気な様子が嬉しくて我慢してしまう。
ドラグルは俺の事を心配そうに顔を覗くけど「大丈夫だよ」と言い続ける。
「ステータス……」
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【 】 8歳 人間 レベル:4
職業:悪魔使い
状態:魔力過多
HP:44/44 MP621/93
固有スキル
魔眼
スキル
悪魔召喚
称号
悪魔の寵愛
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MPの数値が異常だ。
俺の体に許容できるMPを超えているから負担がかかりすぎて今の状態なのか……。
この体にまとわりつくような感じは魔力なんだな……。
だからドラグルは元気なのか。
魔力が多いと活性化す……る……。
ここで意識が途絶えた。