魔王国ディアヴォル 魔都ハーディス
アデルが二人になって驚いた。
正直精巧すぎてどっちがアデルなのか見分けが付き難い……、けど纏う雰囲気は違う。
アデルは力をある程度抑えているからそこまで重苦しさは無いけど、もう一人のアデルの姿をした何かは初めて感じる重圧を感じる。
その二人は僕達の前に降り立つ。
「皆、紹介する。
異界の魔王にして死の王、アストー・ウィーザートゥ。
僕達の新たな仲間だ」
『アストーだ』
堂々とした佇まいは王の威厳を醸し出す。
「アストー・ウィーザートゥ様、よろしくお願いします」
アデレスは若干怯えた声音で頭を下げた。
その後ろでゾルヴァル、アスタル、ドラグルが並び続いて頭を下げる。
「この魔族の男がアッシュ。
僕の大事な親友だから余計な事はするなよ」
アデルが僕の事をそう紹介する。
アストーは僕を頭の先から足の先まで隈なく見ていく。
『理解した。
そういう事であるならば便宜を図ろう』
その後は王都に入り王城へ向かう。
とりあえず人間が使っていた謁見の間でアデルは玉座に座り、その隣の后用の席にアストーが座った。
「面を上げよ。
こうして王都を手中に収めこの国を落とした。
今後はこの国を魔王国ディアヴォルと名乗り僕らの国とし、ここを魔都ハーディスとする。
アバクァス、アンバレス及び亜人と鬼人族をここへ連れて来い。
アデレス、転移の魔法陣を適当な場所に設置してくれ」
「畏まりました魔王アデル様」
「次に、我が国にはまだ人間が居る。
ゾルヴァル、アスタルはアンバレスと合流し早急に駆逐せよ。
亜人の奴隷が居た場合は我が国の民として扱え。
それと上質な生け贄を連れて来い。
手足となる悪魔を召喚する」
「「畏まりました」」
「アデレス、お前はこの見窄らしい城を我が国に相応しい物に作り変えろ」
「魔王アデル様のご意思のままに。
必ずや魔王国ディアヴォル、及びに魔王アデル様に相応しい城にしてみせます」
「あちらの亜人達と合流したら今回解放した亜人と合流させろ。
以上だ。
アストーは何かある?」
『人間を殺すのなら我が行こう。
我が本望は神の造物たる人間を消し去る事にある』
「わかった。
我が国の民となる亜人と魔族はくれぐれも殺してくれるなよ」
『人間以外に興味はない』
アストーはそう言って歪な笑みを浮かべる。
「アッシュには亜人及び魔族の管理を頼む」
今は少しでもアデルの側に居たいアッシュは願ったり叶ったりだ。
「以上だ。
速やかに行動せよ」
それぞれが命じられた事を全うする。
アデレスはあっちに設置していた転移魔法陣をこの魔都ハーディスと繋げ、僕と共にあちらに飛ぶ。
元の拠点だったそこは何者かの攻撃に晒されていた。
アデル達が人間の軍を殲滅していた頃、人間の集団が現れ魔王の支配するこの街を襲った。
大魔法が放たれたが、アンバレスの張った結界魔法がそれを阻む。
突然の攻撃に亜人や鬼人族は驚き騒ぐ。
絶え間なく魔法は放たれるが結界がそれを受け止める。
結界が守ってるからと言っても街の上空で大魔法が絶え間なく弾けるのを見て不安になっていく住民達。
『我が主の支配域を侵入し拠点を襲う愚かな人間共め』
「俺が行こう」
アバクァスは大剣を担ぎ街を出る。
街を覆う結界をアバクァスは普通に出る。
この結界は悪魔のみを自由に行き来させる強力な結界だ。
そこに居たのは、黒衣を身に纏う物達がいた。
アバクァスに気が付いたそいつ等は魔法を放ってくる。
氷塊が、業火が、巨岩が襲いかかる。
それら全てをアバクァスは砕き切り裂く。
飛んでくる破片はお構いなしに魔法をなぎ払う。
攻撃圏内に入り、大剣を振り上げた時、背後から背中を斬りつけられた。
「面白い。
楽しめそうだ」
黒衣の魔法使いなんてどうでも良くなって、振り返ると、白銀のフルメイルで盾と剣を持った騎士が居た。
「何処から湧いてきた。
気配を感じなかったぞ」
今もなおその騎士の気配を感じない。
アバクァスが魔法使いたちに背を向けた事で、格好の餌食となる。
各属性の上級魔法がアバクァスを襲うがそれらを無視する。
だが――
「!?
グアアアアアアアアアア!?」
取るに足らない魔法の中に唯一の弱点となる聖魔法が含まれていた。
その魔法の一撃だけでアバクァスの背は焼け爛れて皮膚と肉が溶け剥がれて、背骨が少し露出する。
脅威を感じたアバクァスは魔法使い達を片付けようを向き直った所で、背に剣が突き刺さる。
「グアアアアアアア!?」
突き刺さった剣からジュウジュウと煙が立ち込めて、アバクァスの肉を溶かす。
焦りと苛立ちが募っていく。
出し惜しみは無しだ。
全力で行って叩き潰す。
本気になったアバクァスは力を開放した。
巨大化していき、20m程の高さになる。
角は更に凶悪さをまし大きくなっている。
肌は赤黒さを増して、景色が歪むほどの魔力を放つ。
『グルアアアアアアアアアアアアアア!!』
その咆哮は大地を揺らすと、ヒビ割れそこからマグマか溢れる。
マグマは意思を持っているかのように動き出し、魔法使いに這い寄る。
氷が、水がそれを固めて動きを止めるが、どんどんあふれていくマグマに包囲されてしまった。
アバクァスはマグマを体に浴び、赤黒い肌は鉄を熱したかの様に赤く煌めきを帯び、周囲にとんどもない熱を放ち、この悪魔を中心に大地が焦土とかしていく。
まさに地獄の土地だ。
魔法使い達はマグマに焼かれ死滅した。
「バケモノめ」
アバクァスの耳にはしっかりと聞こえた言葉。
次の瞬間、熱された皮膚が切り裂かれる。
「聖光剣」
平然とする騎士がそう言葉にすると、白銀の剣は白く光り輝く。
その光りに照らされているだけでアバクァスはチリチリと肌を爛れさせた。
だが巨大である事で大したダメージにはならない。
アバクァスは拳を振り上げ、騎士は剣を構える。
「魔滅のレオダルク、推して参る」