王都陥落
アデルを先頭に僕達は王都へと歩んだ。
高い立派な壁が出迎える。
門は締め切り人の往来は全く無い。
人間達は魔王を相当に恐れているようだった。
「魔王アデル様、今日は魔王様が最初に国を滅ぼした偉大なる一日となるでしょう」
元の少年の姿に戻ったアデレスは恍惚と、そして妄信的な表情でアデルを見つめそう言う。
「そうだな。
この王都は僕一人で落そうか。
その前にお前達、これから作る国の民となる亜人を全て連れて来い」
命令するアデルに悪魔達は忠実だ。
一瞬で姿を消し、王都へ亜人を攫いに行ったのだろう。
「アッシュは行かないの?」
「……僕は君のそばに居ると誓ったんだ。
君から離れないよ(元のアデルを取り戻すまでは……)」
底冷えする雰囲気を纏いながらアデルは笑って頷いた。
僕はその笑顔に締め付けられる。
その後はお互いに無言のまま悪魔達の帰りを待ち続けた。
まず最初に戻って来たのはアデレス。
今僕達の中で魔王に次ぐ力なだけはある。
奴隷からすでに開放され亜人たちは眠らされ横たわっている。
ゾルヴァル、アスタルと続いて帰ってきた。
アデルは覚醒した姿のまま、魔王の気配を抑えて彼等を迎え入れる。
「これで全員?」
「はい、魔王アデル様。
王都中を隈なく探しましたので。
人間に気付かれることなく攫うのは造作もない、今頃はこの亜人達の持ち主は消えた事に驚いているでしょう」
「そうか。
では滅ぼすとしようか。
お前達、目に焼き付けておけ、国は終わり、新たな世界が生まれる。
僕達の楽園の世界だ」
アデルはスーッと空に浮き上がり、王都へと近づく。
王都上空。
アデルは眼下の都市を口元を笑みに歪めつつ目は睨みつけている。
「喜べ人間共。
お前達の命は無駄にはならない」
一気に気配は開放され、黒い魔力はゆらゆらと揺らめき空間を侵食していく。
どんどん広がり、黒い魔力は王都覆ってしまった。
陽の光が遮られ闇に沈んだ事に人間は騒ぎ始める。
『暗黒に住まう死の王よ、異界を超えて顕現せよ。
狂気を持って人間を滅ぼす力を揮え、我と共に蹂躙せよ。
幾万の生け贄、死の王に捧げる。
深淵より来たれ、汝の名、アストー・ウィーザートゥ』
王都の上空、アデルの足元に赤黒い悍ましい魔法陣が現れる。
その大きさは優に王都の端から端まで行き渡るほどだ。
その魔法陣から濃厚な死の気配が垂れ流れ、王都へ下る。
ファ~~~~~!! ファ~~~~~!!
魔法陣から等間隔で聞こえる地響きのようなラッパのような音。
アポカリプティックサウンドが世界に鳴り響く。
その音は耳にした者に絶大な不安を与えた。
『کیا تم مجھے فون کرتے ہو』
「いかにも。
僕は魔王、悪魔王アデルだ」
『یہ دلچسپ ہے کہ راکشس بادشاہ مجھ پر قابو پاتا ہے』
「さあ召喚に応じよ異界の死の王よ。
僕と共に人間を滅ぼすんだ」
アデルが魔法陣から聞こえる巨大な声と対話をし、遂に声の主が現れる。
魔法陣が波紋のように揺らぎ、巨大な顔が現れる。
見ているだけで不安に、恐怖に、絶望に、不快になる形容しがたい顔は王都を見つめる。
人間が浮き上がり、例え家の中にいても外に転移され空へと浮いていく。
迫る巨大な顔に人間達は発狂した。
魔法陣から覗く巨大な顔は縦に割れ、牙が並んでいる。
そこへ次々と人間は吸い込まれていた。
『我が望むは人間の滅亡。
神が作りし造物を屠るは我の意義。
召喚に応じ降臨する』
全ての人間を吸い込んだアストーはズルズルと魔法陣から這い出てきた。
僕達は一体何に怯えているんだ?
王都に覆うアデルの魔力で中がどうなっているのかわからないけど、とんでもない事をしているのは確かで、異様な気配を感じ、巨大な不快音が鳴り響いたり、理解できない言葉を発する何か、アデルに並ぶような巨大な何かがこの世界に現れたのを感じ取れた。
より洗練された狂気、凶悪で濃厚な気配はアデレスでさえ俯き小刻みに体を震わせる。
悪魔召喚を行ったんだと容易に想像できる。
だけど召喚したものは異常過ぎる。
人間だけではなく、この世界そのものが圧倒的力に蹂躙され滅んでしまうのではないかという不安に駆られた。
僕らじゃ到底かなわない……。
神にすら届きうるんじゃないかと錯覚する恐怖の奔流。
混沌は直ぐそこまで迫っていた。
想像以上だ!!
アデルはアストー・ウィーザートゥの放つ雰囲気、力に歓喜した。
これなら世界を相手にできる。
この世界全ての悪しき存在、下等生物の人間を根絶し、僕にこんな運命を押し付けた超常の存在を相手に戦えかもしれない。
「クフッ……凄い!!これは凄い力だ!!
王とはこういう力の事を言うんだ!!」
自分の力もそのアストーに匹敵しうるとは考えていなかったアデル。
『我が召喚者たる魔王アデルよ。
何を願う』
「人間の根絶だ!!
僕の亜人と魔人を虐げ狩る悪しき人間の絶滅だ!!
まずはこの国の人間共を絶滅させる……」
『理解した』
無人となった王都を覆い続ける魔力を解き、晴れていき日が刺していく。
「仲間を紹介したい。
アストー、姿を偽れるか?」
『造作もない』
巨大だった体はみるみる小さくなっていき、アデルを模倣したのかそっくりな姿になる。
もちろん覚醒し変身している姿だ。
何故その姿に?と疑問に思うがあまり気にせず、アデルはアストーを伴ってアッシュ達の所へ向かった。
王都は無人となり、魔王アデルの手に落ちた。