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覚醒する魔王


 大都市エルダール。


 それが今俺達が居る街の名前だった。

 ここは酷い惨状だ。


 今まで通ってきた街も中々だけど、この都市はえげつない。

 年寄りや年若い男女が広場に集められて首から下が絞られた様になっていて死んでいて、その表情が恐怖と激痛で歪んでいる。


「これをやったのゾルヴァルだろ」


「おや、おわかりですか?」


「アバクァスは力任せに粉砕していくけど、この悪どさはお前しか想像出来無いぞ。

遊んだな」


「えぇ、良い歌声でしたよ。

魔王様にお聴かせしたかったです」


「俺はいい」


 げんなりとしながら答える。


 この都市を治めていたという人間の屋敷は、一室一室の窓から使用人達が首を吊って死んでいる。


「また悪趣味だな……。

片付けておけよ」


 屋敷は割と綺麗な状態だったけど、書斎はかなり酷かった。

 机には子供の頭が置かれていて、脳味噌が露出していて匙が刺さっている。


 子供の表情を見るに……。


「不死の呪い使ったな?」


「流石は魔王さま。

侯爵が泣きながら生きている我が子を食べる様は正に傑作。

地獄でもお目にかかれないショーでしたよ」


「お前は……。

今後子供は直ぐに死なせてやれ」


「畏まりました。

では子供を使わないで遊ぶと致します」


 この屋敷で今日は休もうと思ったけど気が滅入るから辞めよう。


 別の綺麗だった家を使って休んだ。





 翌日


 しっかり休むことが出来た。

 これから戦争をするけど心に迷いも恐怖もない清々しい朝だ。


「これから大仕事だ。

気合入れていくぞ」


 家を出て都市を後にし、浮遊して王都へ向かっていると、人間の軍隊が待ち構えて居るのが見えてきた。

 王都を守る壁の様に布陣し、俺を待っている。


 その軍からは異常なほどの怒りと憎しみが感じられる。


「どうやら相当怒らせたみたいだな。

まぁそれもそうか。

この国の人間を虐殺していったんだからな」


 空を飛んでいる俺達に気が付き、ざわめき喧騒が平野に響く。


 あぁ……うるさい……。

 俺の大嫌いな人間という名の獣の声だ。

 不愉快だ……黙れ。


 体から抑えていた力の一部が漏れ出る。

 それだけでも人間には十分効果があったようで、シンっと静まり返る。


「お前ら全員殺す。

逃げてもいいぞ。

見つけ出して殺してやる。

亜人の奴隷と魔族の苦しみをその身で味わって死ね。

まずこの国を滅ぼしてお前らを駆除し亜人の奴隷を解放する。

絶望をあじわ……」


 俺が人間に聞こうるように喋っていたら、人間の軍に動きがあった。


 軍の中から少なくない数の人間が前に出てくる。

 なんのつもりだ?っと魔力視を使ったら、前に出てきたのは人間では無く、亜人の奴隷だった。


 なるほど、奴隷を盾にしようって事か?

 この糞どもは……。


 だが違った。


 後ろの軍の奴らは弓を放つ。

 俺達にではなく亜人達に。


 人間共は真っ向から喧嘩を売ってきた。

 挑発してきた。


 俺に効果的なやり方で。


「アデレス!

あの亜人達を助けてくれ!!」


 死なせてはいけない。


「いいよ。

魔王アデル、僕は君の駒だからね」


 アデレスは指をパチンと鳴らす。

 その瞬間、世界が一瞬で一点に凝縮されるような歪みが見えた気がした。

 瞼が瞬く瞬間、亜人たちはそこから消え、放たれた矢は地面へと刺さった。


「亜人達は……?」


「亜空間に避難させたよ。

そこは時が止まってるから亜人達からしたら亜空間に出た瞬間、一瞬にして戦争が終わってる摩訶不思議な体験をするだろうね」


 ホッとしたのも束の間、怒りが一気に爆発し、ドス黒い感情が溢れる。

 心はどんどん重く真っ暗な暗闇に染まっていく。

 この醜い者共を全力でコロシタイ。

 怒りがその欲望を受け入れた。


「フ……フフフ……アハハハハハハハハ!!」


 押さえ込んでいた魔力が暴風のように体から溢れでる。


「人間如きがこの俺をコケにしようとしたのか?

身の程の弁えず挑発してきたのか?

アハハハハハハハハハ!

……もういいや」


 更に体から漏れ出ていた吹き荒れる魔力は禍々しい色に変わり、俺の体を包み込む。


「アデル!?何してるの!?

抑えて!!

お願いだから自分を保って!!」


 アッシュの言葉は俺の耳には届いてなかった。


「アデレス!!

アデルを早く止めてくれ!!

じゃないとアデルが……アデルがあああああ!?」


 アデレスはアデルが魔力を開放した時に既に諦めていた。

 自分が止められる領域じゃない。

 悪魔界で仕えていた魔王ベリアルと同質の強大で凶悪な力になってしまった。

 そんな悪魔王アデルを恍惚とした表情で見つめるアデレス。


 人間達は己の愚かさのせいでパンドラの匣を開けてしまったのだ。


 ドクンッ ドクンッ


 アデルを包み込んでいる禍々しい魔力が鼓動する。


 その鼓動は世界を揺さぶる。

 そこにいた者達の胸を打つ。

 不快感が襲う。


「魔王アデルが完全になる……」


 アデレスの言葉の瞬間、包み込んでいた禍々しい魔力が音を立てて罅割れていく。

 バキバキと罅は広がっていき、その隙間から黒い煙の様に見える濃厚で凶悪な気配を放つ魔力が漏れ出る。


 アデレス、ゾルヴァル、アスタル、ドラグルはアデルの方を見て空中で片膝をついた。


 生まれるのを待っていた。


 アッシュは絶望する。

 もうアデルを止められるものが居ないことに。


 アデルに対して怖いという感情が芽生えるが、必死に振り払う。





 何が起こっている!?


 軍務卿や総司令官、司令官達と各将軍達は共通して思っていた。


 あの空に浮かぶ禍々しい玉はなんなんだ!?

 あの玉から放たれる凶悪な心の底から感じる恐怖はなんだ!?

 魔王とはこれほどのものなのか!?


 重苦しい重圧感に言葉が出ず、脳内で叫ぶ。


 後悔と絶望が心に多大な負荷を与え、目に見える程に衰えていく。





 俺は真っ暗な中、どんどん沈んでいく感覚だけを感じていた。


 永遠に感じる程に落ちている感覚しか感じない。


 ここは何処?

 どれくらいの時をこうしていた?

 俺は……誰……なんだ……?


 何もわからない。


 何か大事なものがあったような?

 大きな事をしようとしていたような?


 何も思い出せない。


 ただその沈んでいく感覚に身を任せて。





 アデルを包んでいた禍々しい魔力は砕け散り、空間に溶けて無くなっていく。

 

 そこに居たのは背から黒い揺らめく陽炎の様な魔力の翼、額には同じく陽炎の用に揺らめく魔力の角、手の爪は鋭く尖った黒い爪が、目が白い部分が真っ黒に、黒い虹彩は赤色に、瞳孔は縦長の形に変わっている。


 圧倒的な力の存在感。


「あ、アデル……?」


 震えた声で話しかけるアッシュ。

 アデルなのか確かめる為に、アデルだと望むような声音で。


「アッシュ。

生まれ変わった()はどう?」


 アデルは広角釣り上げ妖しく笑う。


「ああ、そうだ。

人間共を滅ぼして亜人と魔族を助けないと行けないんだった」


 アデルは思い出したかのように言うと、悪魔達を見る。


「行くよお前達。

こいつ等をさっさと片付けよう」


 微笑みアデレス達に命令すると、アデルは眼下に広がる人間の軍へと猛スピードで突っ込んでいった。

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