魔族
ゾルヴァル達は昼夜を問わずの南方攻略をやってのけ、戻ってきた。
落としたのは大都市が一つ、衛星都市が2つ、街が2つ、町は9、村が13。
解放した亜人奴隷は1439人。
これで王都まで一直線の道が出来た。
ブダルダ王国は三月もしないうちに国の四分の一をこの悪魔達に奪われ人間は虐殺された事になる。
未曾有の大惨事だ。
もう王都まで堰き止めるものは何も無く、いつ襲われてもおかしくない状況で日々を恐怖で過ごしていた。
国を存続させる為に南以外から兵士を呼び寄せ、軍を編成していった。
「いよいよだな……。
まずは一つ、人間の国を落とす……」
俺は誰にも聞こえない声で呟いた。
いや、最上級悪魔であるアデレスには聞こえていただろう。
そんな事はどうでもいい。
この国を乗っ取り人間を殲滅し、俺達と亜人達の楽園を作る。
「魔王アデル、来客のようだよ」
こんな所に客?と疑問に思う。
しばらくすると、アスタルが報告に来た。
「魔王様、鬼人族と名乗る者が保護を願いに謁見を求めてます。
いかがいたしますか?」
「わかった。
人間じゃなければ保護は大歓迎だよ。
アデレスはもちろん来るでしょ?
アッシュはどうする?」
「僕は魔王アデルを守るのが役割だからね。
もちろんついていくよ」
「僕も村の人達に鬼人族の事は聞いた事あるからあってみたいな。
僕と同じ魔族だし」
という事で、俺達三人は謁見の間へ行く。
アデレスが先に入り、俺の入場を伝えてから俺とアッシュは入る。
アッシュたアデレスの後ろに、俺は玉座に座った。
見下ろす先に浅黒い肌の立派な角が生えた男か片膝を付き、頭を下げていた。
これが鬼人族かと興味津々で見ていると、アデレスが咳をして先を促す。
「面をあげよ」
顔を上げた鬼人族の男は緊張した面持ちだ。
「俺に保護を願いに来たと聞いたが、理由を聞きたい」
「は、ハイッ!
わ、私達はとある森の奥で静かに暮らしていたのですが、人間の魔族狩りにあい、村は荒されてしまいました……。
無抵抗の者や子供は殺され、我々も抵抗したのですが逃げられてし、……まい、ました……。」
語尾がどんどん小さくなっていき、ガタガタと震えだす。
「魔王アデル。
殺気を抑えて。
その男が怯えてしまっている。
気絶寸前だよ」
アデレスの言葉に俺はハッとするする。
この鬼人族の男の言葉に俺達の村の事が重なり憤りが抑えられなかった。
一度深呼吸し、心を落ち着かせる。
ふとアッシュの方から強い気配を感じた。
俯き拳を強く握るアッシュ。
アッシュもアデルと同じ気持ちだった。
鬼人の男はガタガタと震え話をできる状態じゃないとし、一旦休ませることにした。
アスタルに支えられ謁見の間を退室する鬼人の男
「人間は……、人間は度し難い程に醜い……。
僕達の村だけじゃなく……」
並々ならぬアッシュの怒りが伝わってくる。
この鬼人族との出会いでアッシュの心に変化が生じた。
魔族を人間から守る為に人間を倒さなくちゃいけない、アッシュは心に強くそう思っていた。
アデルも人間がどれだけ醜いのかを再認識した。
「アデル、魔族を守る為に冒険者は滅ぼさないと……」
アッシュの強く、深く握られた拳は血が滴る。
その手をアデルが握り、ハッとしてアデルは冷静になる。
「全ての亜人と魔族の為に、一緒に戦おう」
「うん、必ず成し遂げよう」
俺とアッシュ、そして鬼人の男が落ち着き謁見は再開され、鬼人の男の必死な訴えはアデレスの能力で真実だと裏付けられ、快く迎え入れた。
「鬼人の、名前は何と言う?」
「ライゴウと申します……」
「ライゴウ、お前は戦えるか?」
「……戦えます。
どうか魔王様の戦列の末席に参列させてください」
その瞳は怨嗟に燃えていた。
「許可する。
俺とアッシュはライゴウと同じ境遇だ。
後ほど詳しく話そう」
謁見は終わり、俺達に鬼人族の仲間が出来た。
因みに鬼人族に俺の事を教えたのは奴隷から解放され故郷に帰る途中のエルフの男だった。
鬼人族と亜人達は直ぐに打ち解けあう。
人間に酷いことをされた者同士分かり合えるんだろうと俺は思った。
ついに魔王出現の知らせは聖教国に届いた。
国のトップにすぐに伝えられる。
「魔王……。
魔族共め……。
また世界を混沌へと導くか。
やはり人ならざる悪は滅せねばなるまい。
亜人も……、魔族も等しく滅ぼされるべきだ」
こう呟く荘厳な白衣を纏いと教皇冠を被る男は側近に命令する。
「儀式を行う。
準備を進めろ。
更に各国に呼びかけ魔王討伐の連合を我が聖教国主導で行うのだ。
辺境の小王国なぞ捨ておけ。
我が国が中心となって魔王を滅ぼすのだ。
それとしばらくはこの部屋に誰も近づけるな」
「畏まりました
直ちに致します」
側近が部屋を出て行くと、教皇冠を無造作に机に置き、本棚にあった隠し扉のレバーを傾ける。
本棚は動き出し、隠されていた扉が開くと、そこにはあられもない姿のエルフの美少年が沢山おり、教皇に怯え、部屋の隅に固まっていた。
「今日は誰にするか……クククク……」
教皇は怯える少年達を一人ひとりをねっとりと見てじっくり選ぶ。
そして、一人の少年が目に止まる。
奥の方で涙を流しながら自分じゃないようにと必死に祈る少年。
「お前にするか。来い」
金髪碧眼の色白の肌で尖った耳、細い引き締まった四肢、薄っすらとある腹筋。
外見年齢で言えば12歳ぐらいだろう。
「い、いやああああああ!!
死にたくないいいいい!!
お願いします!!お願いしますッ!!
イヤアアアアアアアアアアアアア!!」
必死に抵抗するが教皇はその抵抗を紅潮した顔で眺め無理やり連れて行く。
黒い鉄扉に二人は入る。
「ギャアアアアアアアアアア!!
痛いいいいいいい!!
アアアアアアアアアアアアア!!」
そこから少年の甲高い絶叫と男の狂った笑い声が3時間続いた。
取り残された少年達は聞こえて来る絶叫を聞こえないように耳を強く必死に抑えた。