恐慌の王家
玉座に置かれたそれは、魔王からの宣戦布告だった。
生首になっても生き続けるレイデール伯爵は真っ白な顔、生気を失った虚ろな目、狂気の表情で語り続ける。
『ま、まおう、ざま、ぐる』『ど、れ、どれ、どいいいい、がいほうじろ』『アイデールおぢだあああああああ!!』『ごろじでぇ~!!』
こればかりを繰り返し喋るのだ。
それは直ぐ様ブダルダ王国国王に知らされた。
「な!?なんだと!?
それは確かにレイデール伯爵なんだろうな!?」
「ハッ……、レイデール伯爵と裏付ける証言をその首自身がしております……」
「ぬううう……、俄には信じられん……。
その首は何処にある!!」
「お見えになるのですか!?
辞めたほうが宜しいかと……」
わがままな王様は必死に止める家臣の言葉を無視して首が置かれている場所へと向かう。
仕方なく家臣が案内した先は、謁見の間だ。
不気味なそれを誰も触りたがらず、玉座に置かれたままなのだ。
「!?」
兵士が囲む中を掻き分け、玉座にたどり着き実物を目の当たりにした国王は腰を抜かす。
『へいがああああ!!へいがあああああああああ!!
ま、まおう、さま、が、ぎまずううう!!
どれい!!どれいがいほううううううう!!
だずげでえええ、ぐるじいいいいい!!
ごろじでぐれえええええええ!!』
国王の姿を見たレイデール伯爵は、ギョロギョロと目を動かし興奮して叫ぶ。
この一見以来、国王は心を病み、塞ぎこむようになった。
家臣達は魔王に対応する為、各王国と聖教国、帝国に魔王の出現の知らせと救援要請の使者を送った。
これで本当に世界が魔王の存在を認知する。
一夜明け
「クククク……、でかしたぞアスタル。
今頃は王城が混乱の中だろう」
「いえいえ、お褒め頂きありがとうございますゾルヴァル様。
楽しんでいただけたようで何よりでございます」
アスタルとゾルヴァルは顔を歪ませ笑っていた。
「二人共、魔王アデルがお呼びだよ」
アデレスは二人も連れて謁見の間へと向かう。
謁見の間には既にアバクァスとアッシュが居た。
アデルは既に玉座に座しており、アッシュは檀上のアデルと同じ高さの所に立ち、端に控えていた。
ゾルヴァルとアスタルはアバクァスの隣に立ち跪き、アデレスはアッシュの壇に上り、アッシュの隣に立つ。
「お待たせして申し訳ありません魔王様」
ゾルヴァルが代表して謝罪する。
「そんな待ってないからいいよ。
集まってもらったのは、早速次の街を落としに行ってほしいからだ。
今までと同様、速やかに街を落として王都への道を作って欲しい。
亜人奴隷の解放を忘れないでよ。
俺達の力を世界に知らしめるんだ。
それと、この場に人間を入れる事を禁止する。
遊ぶなら勝手に遊んでくれ」
「畏まりました魔王様。
では早速出発してまいります」
「奴隷の解放をしっかりしてくれるなら派手に遊んできてもいいよ」
ゾルヴァルは俺の言葉に狂喜を発し肩を震わせていた。
他の二人はいつも通りだ。
その日から南方領の街や町は次々と人が消えていった。
そして、アデルの居る城下には、亜人がどんどん増えていった。
亜人たちにはまず安全と自由の保証を与える。
次に、往来の自由。
このアデルが支配する街サイズの国の出入りの自由を約束した。
徐々にだが、最初に助けた古い亜人からこの生活に慣れていき、笑顔と活気が戻ってくる。
比較的新しい亜人も古参の者達に支えられ、疲弊した精神と体を癒していく。
亜人たちは亜人たちで助け合い街に馴染んでいった。
食料問題は畑の拡張と、アンバレスの悪魔の力で何とかなっている。
肉等もアンバレスに留守を任せて俺とアッシュとアデレスで狩りに行き施した。
俺達は順調な日々を送っていた。
アデル達が楽しく暮らしている時、王都の王城は南方の街を治める貴族の首が毎日送られた。
日々見つかる首に家臣たちは次々と精神を病んでいく。
この首はあの男爵の、この首は子爵の、遂には侯爵の。
襲われていく街は確実に王都へと迫っていた。
街だけでなく近くの町や村もどんどん滅ぼされ、南方の人間は驚異的なスピードで減少していった。
情報を集めていた各国の冒険者ギルドも、集まる情報に事態を非常に重く見ていた。
次第に到着していくブダルダ王国の使者により、魔王の侵攻の情報が伝えられ、冒険者の情報と合わせて危険度が跳ね上がり、着実に魔王に対する対策が進んでいく。
大陸冒険者ギルド連合、各国連合軍の形が徐々にだが出来つつあった。
ブダルダ王国国内でも逃がした人間達によって情報が広がり、東方、西方、北方領から王都へ次々と冒険者、兵と貴族が集まっていく。
南方奪還戦が迫っていた。