アイデール陥落(2)
住人を王都へ逃がすために冒険者は北門へ誘導する。
北門へ続く大通りは沢山の人がギチギチと行列を作っている。
もう直ぐ北門へ到着する所で先導している冒険者は異様な物を見てしまった。
門の前に立つ鼻息を荒げ鳴き声を上げ興奮しているミノタウロスの姿だ。
そのモンスターの前には夥しい数の人間が死んでいる。
「クソ!!
あのモンスターを討伐するぞ!!」
先頭で警戒していたAランク冒険者パーティ【剛翼の剣】リーダーのアヴェイルが腰に指していた銀色に輝く剣を抜き、突っ込む。
パーティーメンバーの大剣使いグライドと長槍使いエミイラも同様に続き、その後を斧や短剣など冒険者達は各々の所持する武器を持ち戦闘に入る。
魔法使いも少し前に出てそれぞれが発動準備を始めた。
民衆は冒険者達のいきなりの戦闘行動に動揺が広がっていく。
だけど、沢山の冒険者に守られているという安心感に混乱た少なく、油断していた。
アヴェイルは剣を掲げ、ミノタウロスは構える。
そして振り払われた剣はぶつかり合い、アヴェイルは吹き飛ばされた。
その光景を間近で見たグライドとエミイラは驚愕するがそのままミノタウロスに攻撃する。
それぞれの攻撃が二体のミノタウロスにしっかりと止められてしまった。
力自慢のグライドは大剣で競り合うもビクリともしないミノタウロスに冷や汗が流れる。
「こ、こいつ!迷宮で戦ったのとは遥かに強い!!
油断するなあああああ!!」
後方からくる冒険者に警戒を促す。
冒険者達は連携して対応し始めた。
吹き飛ばされたアヴェイルも立ち上がり、多少負傷したものの、戦線に復帰する。
「閃光連斬!!」
「山崩し!!」
「エンチャント・エクスプロードスピア!!」
アヴェイル、グライド、エミイルがそれぞれ武技スキルを発動し、他の冒険者も呼応して武技スキルで襲いかかる。
流石にこれにはミノタウロスも押され始め、ダメージを蓄積していく。
そして、頭上に鋭い氷塊がいくつも現れ、的確にミノタウロスに振りかかる。
その様子を上空で見ていたゾルヴァルは張り付いた笑顔を辞め、真顔で見下ろす。
「あまり調子に乗ってもらうと面白くないな。
我が行くか」
遂に動き出すゾルヴァル。
ボロボロになったミノタウロスに最後の止めとばかりにアヴェイルが大技の武技スキルを放つ。
「瞬光滅竜剣!!」
アヴェイルの剣が一瞬で眩いばかりの光を放ち、振り下ろすと光は竜の形となってミノタウロスを飲み込もうと口を開き一瞬にして迫る。
轟音を響かせ煙が舞う。
「全く、人間とは度し難い愚か者よ。
我が主の歩む道に鮮血をただ飾れば良いものを」
煙が晴れると、そこには貴族風の黒髪赤目の男がミノタウロスの前で浮いていた。
「何を見ている人間。
我は魔子爵であるぞ。
跪け」
ゾルヴァルから放たれる強大なプレッシャーに思わず膝を付いてしまう冒険者たち。
訳のわからない強大な気配に体の芯から震え汗が吹き出す。
「我の手を煩わせおって虫けらが」
頭上に巨大で不快なる歪な魔法陣が現れる。
そこから地獄から響くような、無数の叫びげが重なって聞こえるような怪音を響かせ悪臭が漏れ出る。
その魔法陣から放たれる圧倒的な不快感に人間どもは苛まれていた。
呼吸が浅くなり耳を塞いでも聞こえてくる怪音、腐った死体の様な不快な匂い、纏わりつくような視線に心の底から不快になる気配。
「עקספּרעסס מיין טייל」
ゾルヴァルが理解出来ない言葉を発すると、魔法陣から赤黒い爛れた巨大な腕が現れた。
それが現れた瞬間、人間達は心の底からゾッとし、死を悟った。
「1000年、地獄を味わうと良い」
赤黒い爛れた腕は何かを掴むと魔法陣に引っ込み、集まっていた民衆は糸が切れた人形の様にバタバタ戸倒れた。
少し遡り、北門で冒険者とミノタウロスが戦っていた時、アバクァスは広場で冒険者に囲まれていた。
「誘いに乗ってやった
かかって来い」
広場に気配が点在していた事に気が付いていたアバクァスた先手をやると言わんばかりに無防備を晒す。
それに乗った冒険者が背後から迫り、心臓めがけて短剣を突き刺す。
もちろんアバクァスは気付いていたが避けなかった。
「その程度か」
皮膚すら傷付けられていない事に失望する。
潜んでいた冒険者たちが一斉に飛び出し攻撃してくるが、誰一人として胸踊るそうな事はなかった。
剣が首を切ろうと、斧が頭を叩き割ろうと、槍が心臓を貫こうとアバクァスに襲いかかる。
弓は目を潰し魔法の業火に包まれても尚アバクァスは動じない。
冒険者たちによる波状攻撃。
それらを一身に受けても命の危機を一切感じない。
「もういい。
お前らじゃ退屈しのぎにもならん」
目玉の矢以外ほぼ無傷な事に戦慄する冒険者達。
その目玉も矢と共にくり抜き投げ捨てる。
「王の為にさっさと終わらせるか」
アバクァスの体が巨大化していき、大剣が体に侵食し肌は赤茶色から赤黒く変色し、指先から仰々しい黒い爪が生える。
全身から空間が歪むほどの力を発し、側にいた冒険者はその力に間近に感じただけで恐怖に顔を歪ませ絶命した。
まさに死の存在であった。
凶悪なバケモノは街を見下ろしていた。
脆弱な人間は巨大で圧倒的な力の存在、死のバケモノの目を見た瞬間に次々と絶命していく。
「פאַרלאָזן די ינסעקט」
息を潜め隠れていた人間も悪魔の言葉を耳にし苦悶の表情も浮かべ絶命する。
丁度ゾルヴァルの魔法陣から出てきていた巨大な手が引っ込む所であり、この街の八割方の人間が死んだ瞬間だった。
ここまでで約3時間。
奴隷を気にせず悪魔達が最初から本来の力を使えばこの街は一時間と持たなかっただろう。
奴隷と伯爵を速やかに移動させた後、アスタルが残っていた人間を処理していった。
アイデールの街は悪魔によって滅ぼされた。
「魔王アデル。
先程街を落としに行ったゾルヴァル達が戻ってきた。
先ずは一つ。
そして王都への道が一歩開けた。
さあ頑張った悪魔達を労いに行こう。
謁見の間に集まっているよ」
「……わかった。
今行くよ」
のそりと起き上がりベッドから降りる。
いつの間に用意されていたのか上等な服に着替えて先導するアデレスの後ろを歩く。
先にアデレスが謁見の間に入り俺の入場を知らせる。
「魔王様、ご入場~」
リンとした少し甲高い声が謁見の間を包み、悪魔たちは跪いき頭を下げる。
アスタルの隣に居る伯爵は魔王という言葉にギョッとし、そしてその場の雰囲気に飲まれる。
俺は謁見の間に入り、玉座に座る。
悪魔以外の存在、人間を目にし俺は体から濃厚な魔力が漏れる。
「……なんで、人間が居る」
俺の言葉にレイデール伯爵は全身から汗が噴き出る。
「我が連れて参りました魔王様。
この人間、魔王様の為に奴隷を集め献上したいと申しておりましたので」
チラッとアデレスを見るとアデレスは口角を釣り上げ妖しく嗤う。
「お、御目通りが叶い恐悦至極に御座います魔王アデル様」
人間に名前を呼ばれ、俺の雰囲気は更に重くなる。
「魔王様には私の街に居りました奴隷を献上したく集め参りました次第で……。
ど、どうか命だけは!!
魔王様に一生の忠誠を誓います!!
どうかああああ!!」
伯爵の振る舞いに悪魔も強烈な怒気を発する。
「身の程を弁えろよ下等種。
お前の命をどうするかは魔王アデルが決める事。
お前が願うものではない。
それに魔王アデルに嘘をついた罪は重いぞ」
「そ、そんな!!
私は嘘などは!!」
アデレスの伯爵を見る目がどんどん険しくなっていく。
「僕は虚実を司る悪魔アデレス。
我が魔王に奴隷を献上するとは良く言えたものだ。
僕らに対して脅迫の道具にしようとした罪が見えている。
魔王アデル、この下等種の処遇について進言する。
頭部にだけ不死の呪いをかけ切断し、王家に宣戦布告として送るのはいかがでしょうか?」
「ご、御慈悲を~~!!
何卒御慈悲を魔王様!!
ひいいいいいいい!?」
俺のなんの感情も読み取れない虚ろな目を見て伯爵は恐怖した。
「街を落とし奴隷を集めた事、ゾルヴァル、アバクァス、アスタル良くやってくれた。
これからもよろしく頼む」
「「「ハッ!!必ずやブダルダ王国を落として見せます」」」
「アデレス。
後のことは任せる」
「畏まりました魔王アデル」
玉座から立ち上がり謁見の間から立ち去る。
背後から人間が慈悲を叫び泣いているが何も心に響かなかった。
後日ブダルダ王家に激震が走る。
玉座に置かれた生きた生首のレイデール伯爵が発見され、さらにその生首がうわ言のように繰り返す「魔王様、御慈悲を」という言葉に、今回の騒動の背景に魔王の存在がはじめて露見した。




