ステータス
翌日、目が覚め今日も生きる為に森へ行こうとボロ屋を出た。
俺の住んでる家は村のハズレにあるんだけど街道側にあり、森に入るには村を突っ切らなきゃいけない。
だから目立たないようにコソコソと移動する。
見つかれば理不尽な雑用や暴力に合うから。
今回は都合よく村人達は広場に集まっていて動きやすい。
何をやっているんだろうと遠巻きに見てみると、子供達は喜びはしゃぎ、大人はそれを見て微笑んでいたり子どもと一緒になってはしゃいでいる。
もうそれを見て寂しいなんて気持ちはしない。
俺は生きる為に足早に森へ行こうとすると、運悪く一人の男に見つかってしまった。
「おい!!糞ガキがなにコソコソ出歩いてんだ!あぁ!?」
突然の怒鳴り超えに足が竦む。
この村で十分に摺りこまれた人間に対する恐怖だ。
後ろかが怖い。
振り向かずこのまま森へ行ってしまいたい。
呼吸が浅く心臓かバクバクとなる。
無視したらもっと怖い目に合うのを何度も経験しているからゆっくりと振り返る。
「こっち来い。
お前のステータスを皆に見せろ。
お前も今年5歳だからな確認しておかないと」
強引に腕を引っ張られ集団の真ん中に投げられる。
「あぅう……ご、ごめんなさい……!ごめんなさいっ……!」
うずくまり必死に謝る。
痛いのは嫌だ。
突き刺さる嫌悪の視線と雰囲気を俺の小さな背中で一身に受ける。
息苦しい雰囲気がキリキリとお腹を痛くする。
「ステータスだ!
ステータスと言って俺達に見せろ!!
早くしろ!!」
俺をここに連れてきた男が怒鳴り急かす。
「す、ステータス!!」
うずくまりながら俺がそう言うと村人達はシーンとなる。
「……やはりコイツは悪魔の子供だ……」「悪魔!」「見ろこの称号!ギフト!こいつはこの村にとて不吉な存在だ!」
ガヤガヤと俺に罵声を浴びせる村人達。
誰かが小さな声で言った。
「殺せ……」
その声は次第に大きくなり村人達の声はどんどんと大きくなる。
取り囲まれている俺は逃げることも出来ず自分に向けられる悪意に意識が重くなってくる。
「!?ぎゃああああ!!!!」
脇腹に強い衝撃があった。
次は背中、お尻、頭と次々と痛みが襲う。
石を投げられ蹴られ殴られる。
今まで受けてきた苦痛と比べ物にならない俺を本気で殺そうとする殺気がこもった暴力。
「殺せ!殺せ!」
村人達は何かに取り憑かれたかのようにその言葉を繰り返す。
村人達は今までこの忌み子をストレスの捌け口として痛めてけてきた。
手加減してきた。
でも、もうそれは無い。
「ぎゃああああああああああ!!!!」
俺の叫びは村人達の声に掻き消される。
容赦なく浴びせられる暴力に意識が薄れていく。
そして、ついに俺が意識を失った時異変が起きた。
意識を失っても尚止まらない暴力を続ける村人達。
その村人達が次々に倒れていく。
一人、また一人と倒れ、意識を失っていく。
噛みつかれた痕や引っ掻かれた痕を作って。
見えない恐怖に村人は慄き忌み子から離れる。
俺に手を出してくる村人が居なくなると次に忌み子の体は中に浮き上がった。
横たわったまま浮き上がり忌み子の血を垂らしながら森の方へと進んで行く。
村人達は今目の前に起きている現実を信じられなかった。
静まり返る村。
ただその忌み子を見つめることしか出来ない。
俺が気がついた時は森の中だった。
大木の根本に俺は寝かされボーッとする。
意識が覚醒していくにつれて全身に傷みが襲い思い出す。
理不尽な罵倒。
理不尽な暴力。
命の危機。
危険な森の中で心に残る恐怖に咽び泣いた。
痛みと人間に対する恐怖で止めどなく涙は流れ泣きじゃくった。
泣き疲れて意識を失うまでひたすらに泣いた。
こんな森の中で泣き叫べば獣や魔物は近づいてくる。
だけど襲っては来ない。
俺の傍らにいる異質な気配を感じ取って離れていく。
その頃村では大人達か集まり話し合いが行われていた。
「あのガキをどうする。
森に逃がしたままで良いのか?」
「あんなガキ森で野垂れ死ぬか獣か魔物に食われてるよ」
「だけどあのステータス見ただろ!
万が一生き残って成長して復讐してきたらどうする!
確実に殺すべきじゃないか!?」
「森に入ってだいぶ時間が経っている。
俺達だけじゃ探しきれねぇよ」
「じゃあどうすんたよ!!
襲われた奴等は未だに目を覚まさないしあの糞ガキぶっ殺してえ!!」
「やっぱり早く殺すべきだったんだ……」
話し合いが行われている中、奥に座る老人はその様子を眺めながら考えていた。
あの謎の攻撃があるから忌み子は必ず生き延びるだろう。
もし生き延びてこの村に復讐しに来たら……。
今まで自分達のしてきた事を考えると可能性は限りなく高い。
この村の子供たちのためにも今後の世帯の為にもここは決断するしか無い。
そう考えて重い口を開く。
「情報を冒険者ギルドに伝え討伐を依頼しよう。
冒険者に任せれば確実だろう」
その結論に誰も反論しなかった。
村の代表は早速冒険者ギルドに向かい事情を説明して依頼を発行する。
冒険者ギルドも忌み子の存在をしていて、今回のステータスと攻撃された事を考えて依頼は受理され、情報は全冒険者ギルドへ通達された。
悪魔の子討伐クエスト
黒髪黒目、5歳の悪魔の子供が村を不可解な技で攻撃
被害多数
見つけ次第即刻討伐するように
報酬は500シル
この依頼の張り紙がすぐさまボードに貼りだされた。
この村にいた冒険者達はその依頼を見て意気揚々と森へ出かけていった。
広場の事件を見ていないから楽勝と考える冒険者達。
忌み子を痛ぶり殺そうと考えている奴ばかりだった。
泣き疲れて眠ってしまった翌日、元いた大木の根本とは別の場所で目が覚める。
『主、タベテ』
唯一の友達が果物を差し出す。
それを痛む体でなんとか受け取り口に運ぶ。
俺が果物を食べていると、醜い友達は何かを察知したのか周囲を警戒し俺を抱える。
「な、なに!?」
『アブナイ』
それだけ言って俺を抱えて森の奥へと走りだす。
危険じゃないのかと考えたけどすれ違う魔物は襲ってこず遠巻きに俺達を見るだけだ。
俺は未だに無知だった。
この醜い友達の存在と覚醒した力に。
ふと嫌な記憶を思い出す。
村で殺されかけた事。
その原因となったステータスという言葉。
ポツリとステータスと呟くと目の前に文字が書かれた透明の板が現れる。
「なんだこれ!?」
文字なんて読めない俺だけどなんとなくその透明な板の事は読めた。
____________________
【 】 5歳 人間 レベル:1
職業:悪魔使い
状態:重症
HP:5/32 MP80/80
固有スキル
魔眼
スキル
悪魔召喚
称号
悪魔の寵愛
____________________
「あはは……あははははははははははははは!!!!」
なんだよこれ。
俺本当に悪魔の子じゃん。
クソ……。
これが俺の運命かよ……。
俺の心は片隅にあった僅かな濁りを消し去り完全に真っ黒に染まった。
波乱の人生はまだ序章に過ぎない。