南方辺境殲滅
数十分飛んだところで最初の村が見つかる。
簡易的な丸太の壁に囲まれたそこそこ人の往来がある村だ。
「奴隷の解放と人間の処理を行う。
2、3人だけ残して人間は全て処理だ」
真下にある村を無表情に見下ろす。
ここに訪れている商人に奴隷の姿を見る。
やはり相当好き放題やっているようで、獣人の奴隷は汚く傷だらけで怯えて荷物運びをしている。
住民共は嘲笑ったり何もないと言ったふうに通り過ぎる。
人間どもの人間至上主義には反吐が出る。
「俺とアッシュが攻撃と保護をやるからアデレスはまあ警戒だけしてて。
それじゃやろう」
アッシュは無表情で無魔法の浮遊を解き、落下して速攻で人間を切り伏せる。
俺は浮遊をしたまま魔力で形作った透明な腕を無数に背中から出し、人間を押し潰すように降らす。
アッシュの行動範囲外、村の端の方から始末していく。
アッシュから逃げる為に外へ行こうとすれば俺の魔力腕がどんどん潰していく。
村の広場は斬り伏せられられる人間の死体がたくさん転がり血の池を作り、死んだ商人の側には奴隷が座って放心していた。
村は20分もしないうちに殆どの人間が死んだ。
生きているのは助けた奴隷13人と殺さなかった人間3人だけだ。
「奴隷は解放する。
まずは俺の国でお前達を保護した後に故郷に帰りたいなら帰るといい。
とりあえず奴隷の首輪を破壊しよう」
アデレスが奴隷の首輪に触れると、バキンッと音を立てて割れた。
奴隷の首輪から解放された獣人は涙を流し喜ぶ者、放心する者、悔しそうに俯いている者、そしてある者は俺達に頭を下げて感謝する者が居た。
「それじゃ手筈通りに」
アデレスが転移の魔法を発動すると、獣人たちの足元が光、一瞬で消えた。
「無事送ったよ。
こいつらはどうするの?」
「ありがとう。
こいつらは逃げて貰うさ。
王都に向かってな」
妖しく笑いそう答える。
不思議と人間に対する恐怖心が湧かない。
それよりもこうして見下ろしているのが心地いい。
「行け人間。
必死に逃げろ。
生かしてやったんだ、必死に逃げてお前らの王に伝えろ。
村が滅びましたってな」
「「「ひいいいいいい!!」」」
血に濡れた足元で滑り転げ、血濡れになっても必死に逃げる。
そいつ等の惨めな後ろ姿は滑稽で面白かった。
それから二つ、三つと同じ事をし、奴隷を保護して人間を数人だけ逃がして落としていった。
町や村を落とせば落とすほど、人間を処理する程心は満たされていく。
「クハッ……込みあげる笑いを我慢できない……フフフ……アハハハハハハハハ!!」
人間共!!
俺を蔑み奪ってきた人間共は簡単に死んでいく!!
こいつらた虫だ!!
踏み付けたらペシャンコになって死ぬ蟻だ!!
人間が流した血の溜に立ち高笑いをする。
「アデル……、アデル!!」
「!?
な、なに?どうしたの?」
アッシュの声に驚いて振り向く。
アッシュは俺の目を見て驚き悲しそうな顔をする。
その顔で一気に冷静になる俺。
俺は……また……。
「ごめん……アッシュ」
「……」
何も言ってくれなかったのが心に響いた。
「もういいや……。
帰ろうかアッシュ、アデレス……」
自分が魔王になりつつある、自分が自分じゃなくなってきている事に多大な恐怖を感じた。
アデレスの転移魔法で俺達は戻り、俺は一直線に城へと戻った。
その日から俺は部屋に篭もり、出入りはアデレスだけ許可をし、奴隷の奪還と人間の処理はゾルヴァルに任せた。
アッシュは戸惑いを振り払うために我武者羅に剣や魔法の訓練に励んだ。
復讐や憎しみでのアデルは知っているけど、あんなに楽しそうに人間を蹂躙するのは知らないアデルだ。
あれがゾルヴァルが何度も居ていた魔王になるという事なのかな……。
もし自分の知るアデルが居なくなってしまったら……。
余計な事を考えてしまい、頭を振り鍛錬に励む。
それから4日、唯一俺の寝室に入るのを許しているアデレスの報告によると、ゾルヴァルは12の町と23の村を襲い奴隷を保護、人間を殲滅したという。
この俺の国から後ろはまさに人間が居ない土地となった。
「もう少しで南側の辺境は魔王の物だ。
次はどうする?魔王アデル」
「……南を落とし王都への道にする。
村や町よりも厳しくなるだろうからゾルヴァルが戻ってきたらアバクァス、アスタルの三人で侵攻。
奴隷以外は滅殺。
保護した奴隷の様子は?」
「だいぶ衰弱していて、死にそうなのが何人か居たけどなんとか持ち直したよ。
他の保護した亜人は解放を喜んでる」
「そっか。
生活の方はどう?
みんな満足してる?」
「概ね不満はなさそうかな。
僕は虚実を司ってるんだ。
心を読める。
間違いないよ」
「わかった。
それじゃあ俺はもう休むから何かあったら起こして」
「アッシュが君に会いたがってるけど」
「……アッシュは俺が変わっていくの見たくない筈だよ……。
もう疲れた休むから早く出て行ってよ」
ベッドに寝っ転がり背を向ける。
ブダルダ王国南方のアイデールの街
アデルが侵攻を初めて約9日、この街を治めるレイデール伯爵は危機に頭を抱えていた。
街に次々と逃げ込んできた多数の人間によると、ゲダルを落としたバケモノは南方辺境の町や村を奴隷解放しながら落としているという。
襲って来たのは子供の姿で黒髪黒目の忌み子の人間、魔族の子ども、金髪の子供だったり、貴族風の男がモンスターを操っていたという。
何なんだそれは!!
全く意味がわからない!!
しかも人間の生存はその逃げてきた民だけだ。
虐殺し回っている。
「クソ!!」
報告書に拳を振り下ろす。
「辺境が落ちれば必ず王都への道となるこの街も襲いに来るはずだ……。
……ゲダルを一日で落とすというバケモノだ……。
この街も……」
伯爵がそう考えている間にも魔の手は迫っていた。