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死の悪魔


 アバクァスが大剣を担ぎ街を出て、攻め込む準備をしている冒険者の所へゆっくりと歩んでいく。

 その眼はただ虫ケラを見るような微々たる感情しか感じない。


 冒険者達も街の方から来る赤茶色の体をした角と翼の生えた大剣を担ぐバケモノに気がついた。

 死という存在がそのまま形を成しているような得体のしれない何かを人間達は感じ取っていた。


 まさしくバケモノだ。

 アバクァスを見た人間達はその認識で一致した。


「と、止まれええええ!!

それ以上近づくな!!」


 前の方にいた冒険者の男はアバクァスにそう言うが、当の本人は虫ケラがただ鳴いているとしか思っていない。

 近づけば近づくほどアバクァスの体の大きさ、存在感のデカさ、大剣の凶悪さが際立つ。


 殆どの冒険者はアバクァスから放たれる強烈なプレッシャーに悟った。

 これは本物のバケモンだと。

 このバケモノを目の前にして生きて帰るイメージが出来たものは居ない。


 体のそこから震えだし、失禁する者も居る。

 こんな依頼受けるんじゃなかった、冒険者達はそう思って意識を消失した。


 静かな戦場だ。

 アバクァスを正面にして叫ぶ事さえ出来なくなる。


 悪魔は赤黒い禍々しい大剣をもう一度振り上げ、ゴウッと風を切る音を鳴らして物凄いスピードで振り下ろして人間ども処理していく。

 殺すのではなく処理だ。

 アバクァスはそういう認識だった。


 異変は波紋のように広がり、遂には後方に控えていた高ランク冒険者が動き出す。


「まさかあっちから仕掛けてくるとはね」


 そう言うのはSランク冒険者、瞬殺のエデタ。

 彼は今回の依頼を舐めきっていた。


 敵はたった四人、ただ自分より弱い人間を沢山殺しただけの魔族だろうと気楽に考えていた。

 自分の戦闘スタイルを掴んでからのエデタは負け無しで、あっという間にSランクまで駆け上ったものだから慢心していたのだ。


 愛用のミスリルのエストックを鞘から抜き異変の元へと向かう。




 アバクァスの通った跡は夥しい量の血に濡れ肉片が散乱していた。

 あまりの力の強さに攻撃をまともに受けた人間は四散してしまうのだ。


 美味しい生け贄に釣られてこの世界に召喚されてきたアバクァスは退屈していた。


 さっさと仕事を終わらせようと大剣を構えると、脇腹をチクリと感じた。

 構えた態勢のままほんの一瞬痛みを感じた所を見ると、白銀の細長い剣が脇腹に刺さっていた。


 ダメージは極わずかでしかないが、自分の懐に入り脇腹を刺す剛毅な者が居るのかと少しだけ楽しくなる。


「フレイムボム」


 次の瞬間、アバクァアの体内が爆発した。


「ゴップゥ!?」


 口から赤黒い血が溢れる。

 目を見開き、自分にまともにダメージを与えた人間をしっかりと見た。

 まだ若いその男は勝利を確信したような顔で笑っていた。


「今の攻撃、中級ならもしかしたら死んでただろうな。

良い攻撃だ。

他にはあるのか?」


 アバクァスの体内は焼け焦げ内臓がぐちゃぐちゃになっていたがもう殆どが修復されていた。

 この回復速度の速さも上級のポテンシャルの一つだ。


 平然と立っているバケモノに男のニヤケ顔が若干崩れる。


「フレイムボム、フレイムボム、フレイムボム」


 未だ体に突き刺さる白銀のエストックの先から3つの火種が放たれ一気に膨れ上がり、体内で爆散する。


 流石にこれには鋼の皮膚も耐え切れず胴体は弾け飛んだ。


 アバクァスは苦悶の表情を浮かべるでもなく、ニヤリと笑い立っている。

 腹の部分が爆散し、背骨が繋がっているだけの状態でもまだ余裕を見せていた。


 これには流石に目を見開き恐怖の色が浮かぶ。


「人間にしてはなかなか面白い。

次は俺の番だ」


 男は感じた。

 目の前に居るバケモノがいきなり巨大化したように。


 別に本当に巨大化したわけではない。

 殺気がこの男だけに向けられ、押し潰されそうなほどの重圧を感じてそう錯覚しただけだ。


 アバクァスから自分だけに放たれた殺気に男は後悔しそこで意識が途切れた。


「期待させてこれかよ……。

糞がああああああああ!!」


 死んで良かったかもしれない。


 キレたアバクァスから放たれる猛烈な死の気配に動けなくなっていた冒険者は恐怖心だけで死んだ。


 例え離れていて影響が少なく、逃げ出しても次々と意識を消失して何が起きたのかわからないだろう。

 まさに暴風。

 死を伴った荒れ狂う力が暴風のように蹂躙を始めた。






「クククッ……アバクァスがキレおるの。

あれ程の悪魔を怒らせるとは人間はなかなか面白い」


 ゾルヴァルは別の所で待機していた冒険者達が、自分が護っている門に向かって押し寄せてるのを見ながら愉快に笑っていた。


 後ろに控えていたゾルヴァルの眷属のミノタウロス二体がノシノシと前に出る。


 2mをゆうに超える巨体に携える大きな剣。


 冒険者達は勘違いしている。

 このミノタウロスが迷宮に居る奴だと思って十分にやれる、倒せると思っていた。


 確かに迷宮で発生するミノタウロスならこの冒険者たちに忽ち潰され突破されただろう。


「悪魔界に生息する野良は下級悪魔デーモンロードと互角だぞ。

クハハハハハ!!」


 冒険者達と二体のミノタウロスがぶつかり合い、悲鳴、怒号、断末魔が響き渡る。


「たった二体のミノタウロスで何を苦戦している。

アッシュはたった一人で打ち破ったぞ。

弱いなぁ人間」


 目と鼻の先で起きている虐殺激を楽しそうに見ていた。





 アスタルの待機している門でも別動の冒険者と傭兵団が多く押し寄せてくる。


 他を陽動し、ここを本命としたのた間違いないだろう。


「我は主様に仕える悪魔の中で力は下から2番目だ。

弱く見えても仕方ないが主様の為に皆殺しさせて頂きます」


 アスタルの足元の影が広がり、虚ろな表情の老人が出てくる。


「かつて我を召喚し闇に落ちた賢者です。

我のコレクションで十分でしょう」


 老人は頭を力なく垂らしながら腕を前に向ける。


『デス・テンペル』


 黒い球体が目の前に現れ、ボコボコと暴れ始める。

 球体が限界を迎え弾けると、黒い風が一気に吹き荒れ目の前の集団の殆どを肉塊に変えた。


 うわああああああああ!?


 生き残った人間たちの悲鳴が響き渡る。


『サンダーレイン』


 老人の口から歪で不気味な声が発せられ再び魔法が発動する。


 広範囲に雷が乱れ落ちる。

 落雷の音は凄まじく、魔王城にいたアデルやアッシュ、亜人達にまで聞こえた。




 討伐に来て街や町で更に合流した述べ800人の冒険者と傭兵達。


 生き残ったのはたったの21人たけだった。

 この生存者は報告するだろうこの惨劇を。


 これをもって宣戦布告する。

 先ずはこの国を落とす。





「何いいいいいいいいいい!?

ほぼ全滅だと!?」


 冒険者ギルドはこの戻ってきた冒険者の報告を聞いて戦慄した。

 Sランクを加えた大規模な討伐が蓋を開けてみれば大失敗の上、ギルドの主力の殆どを失ってしまったのだ。

 脱力し椅子に座り込むギルドマスターは呆然とした面持ちのままゆっくり立ち上がり、ギルド間の連絡を円滑にする通信の魔道具の所へ力なくヨロヨロと歩き出す。

 この日、世界のギルドはバケモノの存在を初めて知る。

 中には半信半疑の所もあったが、Sランク同行の大規模討伐失敗の話は重すぎた。

 各ギルドはこの情報を元に調査隊を組む事となった。



 その頃、ブダルダ王国王城では生きて戻ってきた冒険者の討伐失敗の報告を聞いて、王は怒り狂い荒れた。


「大金をつぎ込んって雇ったというのに!!

使えん奴等だ!!

各領主から兵を集め討伐軍を編成しろ!!

ワシが直接討ち取ってくれる!!」


「お辞めください陛下!!

危険な場所にお連れするわけには行きません!!

たかが手練の猿ごときに御身の尊いお姿を晒す必要はないかと!

私が軍をまとめ上げ必ずや良き報をお持ち致します!」


「む、むぅ……、軍務卿がそう言うのであれば……」


 軍務卿と言われた男から放たれるプレッシャーに折れてしまった王はそれを受け入れ元を託した。

 この王は喚くだけのただの王に過ぎなかった。



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