復讐の蹂躙劇(2)
冒険者は一人も逃さない。
魔力視がギルドの建物全体とその周辺を包み込む。
逃げ出そうとしている奴を高速で魔力腕を伸ばし捕まえ握りつぶす。
外へ逃げ出そうとすれば突然潰れ死に、ギルドの中にいれば次は誰の番かと一人ずつ死んでいく。
逃げられず確実に殺されていく恐怖に冒険者達は慄いていた。
カウンター横の2階へ続く階段から老齢の大男が降りてきた。
「話がしたい!!
攻撃を辞めてくれないか!!
頼む!!」
大男は無防備に頭を下げて首を晒す。
アッシュはそいつに向かって剣を振り下ろすと、ギイイインと音がなって止められた。
よく見ると大男の脇に現れた男によって止められたようだ。
「姿を見せたな。
どうか話を聞いてほしい。
これ以上殺さないでくれ……」
大男はアッシュにそう言って頭を下げた。
被っていたフードから悔しそうに睨みつけるアッシュと目が合い、大男は内心で驚いていた。
こんな少年の魔族に甚大な被害を与えられたのかと。
アッシュは一瞬で移動し外にいる俺の元へ戻ってきた。
「アデル……、僕の剣を止める奴が居た。
そいつ等は話したいって言ってる。
どうする?」
「……わかった。
俺が行く。
アッシュとゾルヴァルは付いて来て。
アスタルとドラグルは出てきた奴を必ず殺して」
「畏まりました主様」
『わかった、殺す』
アスタルは綺麗にお辞儀をして俺に頭を下げ、ドラグルはニィっと笑う。
俺はギルドへと足を踏み入れた。
後ろからアッシュとゾルヴァルがついてくる。
大男は鎧を着こみ剣を持った男を携え待っており、俺を見て再度頭を下げて話をしたいと申し出た。
「話すことは無い。
死ね」
魔力腕を大男に伸ばし、掴み潰そうとした所で切られた。
切り離された魔力部分は霧散してしまった。
「妙な技を使う。
魔力が襲って来た」
横にいた鎧の男がそう話す。
「ほう、随分と魔力には敏感なようだ。
下等な人間にしてはやるな。
主よ、相手が悪いな。
殺して欲しくばすぐに首を取ってくるがどうする?」
ゾルヴァルはそう言う。
俺はふうっと息を吐いて一旦落ち着く。
すると、外で男の断末魔が聞こえた。
「な!?
頼む!これ以上殺さないでほしい!
この通りだ!!」
「いくら頭を下げても変わらない。
お前たちは俺達から大事なものを奪い穢した。
死を持って……償え」
ありったけの憎悪で大男を睨みつける。
大男は硬直し声すら出せなくなった。
俺の目を見つめたまま動けなけなった男はそのまま俺の目から感じる憎悪の強さに内心驚愕する。
魔力腕で隅のほうで震えていた男を一人掴み自分の所へ引き寄せる。
「嫌だぁああああ!!
離せえええええええ!!」
「アッシュ、剣を貸して」
無言でアッシュは俺に剣を渡す。
「俺の母さんはお前ら冒険者にこうやって殺された」
自分の手で引き寄せた男の首を切る。
「が!?
ゴボッ……ゴボボ……」
詰まった排水口のような音がした。
隅の方で身を寄せあって怯えている奴一人一人を掴み全員を誘き寄せる。
「優しくしてくれた村の人達や後ろにいる親友の親はこうやって殺された」
「や、やだあああああ!」「まだ死にたくない!!」「助けてええええええ!!」「あああああえへぁああああ」
必死に命乞いをする者、助けを求める者、気が狂う者。
一人ずつ頭を切り離し並べていく。
非力な俺では切り離すのに苦労するから自分の腕に魔力腕を纏いその力で切っていく。
鎧の男はゾルヴァルに睨まれていて動くに動けなかった。
カウンターの奥に居る受付のお姉さんを掴み引き寄せる。
綺麗な人なんだろう。
でも今は見る影もない。
涙と鼻水で顔をグシャグシャにし、恐怖で失禁して汚れていた。
「親友の彼女はこうやって死んでいた。
お前らの汚い欲望に純血を穢されてなあああああああ!!」
「い、いやああああああああ!!死にたくないいい……ッ!?……ッッ!!」
ギリギリと首を絞める。
ジタバタと足をバタつかせるが次第に力は弱くなり、最後は痙攣して死んだ。
それを大男の目の前に投げ捨てる。
「ここのギルドの人間が全部こうやって俺達の幸せを壊してくれたんだ。
壊されて文句を言う資格はないだろ?なあ」
必死に抵抗していた大男は俺の魔眼に縛られながらも口を開いた。
「や、めて、くれ、あ、や、まる、た、のむ」
「お前ら人間は醜すぎる。
魔人族の人達は俺を助けてくれた。
俺を愛してくれた。
俺はお前達と同じ種族なのが恥ずかしいしムカつくし最悪だ……。
俺の苦しみを味わって死んで行け人間。
死ねゴミ」
俺の魔力腕が四方八方へと飛びこのフロアにいた人が大男と鎧の男を残して見んな死んだ。
「ッ!?
あ、あああああああああああ!!」
心が満たされていく!
こいつ等をもっと……。
「主よ、気をしっかりもて。
全てを失うぞ」
ハッとし後ろを振り返る。
ソルヴァルは何とか持ちこたえた俺を満足そうに見て頷いた。
逆にアッシュは俺の目を見て驚き、悲しんだ。
俺の目は赤く変色していたから。
目を離したことで大男にかけていた魔眼は解けて動けるようになる大男。
「ガハッ……ハァ……ハァ……、良くもやってくれたな……。
ここから先へは一歩も行かせん……。
やってくれデーシス!!」
テーシスと呼ばれた男、鎧の男が一瞬で距離を詰め俺の首に剣をかけ、止まっていた。
「くッ……」
デーシスは悔しそうな顔をして俺の後ろにいるゾルヴァルを睨みつける。
ゾルヴァルは剣を指で摘んで止めていた。
俺はこの状況を無視して大男を捕らえようと魔力腕伸ばす。
「ギルドマスター!!
魔力がそちらに向かってます!!」
「わかっている!!」
この大男も魔力を感じるようで、的確に避ける。
「ならこれでどう?」
体から10本の魔力腕が伸びて逃げ場を塞ぐ。
「……無念……」
ギルドマスターと呼ばれた大男は避けるのを辞めて受けいれた。
10本の見え無い腕が一斉に掴みかかり、ぎりぎりと締め上げる。
ギルドマスターの体は宙に浮いていた。
「マスター!!
クソッ!!離せこの野郎!!」
殴る蹴るとやってくるがそれ等を軽くいなすゾルヴァル。
「うるさい」
俺がそう言うとアッシュが一瞬でデーシスの背に立ち兜を奪い取りそこから電気を流す。
「アガガガガガガガア!?
アアアアアアア!?」
電流を止めると白い煙を体から発しながら倒れた。
俺はギルドマスターを連れながら先ずは地下へ降りる階段へ向かう。
「!!頼む!!
ここだけは辞めてくれ!!
一般人が居るんだ!!
避難所として匿っているんだ!!
どうか!!頼む!!」
必死に懇願するギルドマスターを無視してドアを開け、中にはいる。
広い空間にいろんなものが置かれていて、隅の方に人間が身を寄せあっていた。
俺達を見て逃げてきた住人は息を呑む。
「アスタル!!ドラグル!!戻ってこい!!」
俺がそう叫ぶとアスタルが直ぐに現れる。
「及びでしょうか主様」
「アッシュと共に2階に行って皆殺ししてきて。
アッシュを守るの優先でお願い」
「畏まりました」
「アデル……、君がそこまでしなくても……。
僕がやるよ?」
「ここは俺に任せて。
ゾルヴァルが居るから大丈夫だよ」
アッシュはそれ以上は何も言わず不安そうな顔をしてアスタルと共に2階へ行った。
「主よ、この人間共をどうするのだ?」
ここに居るのは大人の女性と子供が半々に武器を持った男が数人。
「ゾルヴァル。
お前は俺とアッシュを守る盾だ。
だからこういう時あまり俺から離れられない。
だから剣となる悪魔がほしい」
「なるほど。
無垢な子供に女を生け贄にするのだな。
それも生命力と魔力を有する生きた生け贄……、面白そうだ」
凶悪な笑顔で人間を見下すゾルヴァル。
「上級悪魔を呼びたい。
これでいけそうか?」
「可能だろうな。
どんな悪魔が喚ばれるか楽しみだ」
よし。
俺の剣となる上級悪魔を召喚だ。
「俺は全魔力を注ぐ。
俺が意識を失ったら後の事は頼む。
ゾルヴァルは俺とアッシュを守ってほしい。
アスタルには逃げ遅れた人間種以外の亜人の奴隷は保護を、アッシュは俺の側で待機。
ドラグルは生き残りの捜索を伝えてくれ」
「仰せのままに」
俺は悪魔召喚を意識して人間どもに魔力を注ぐ。
人間どもは悍ましい何かに包まれ恐怖した。
鳥肌を立たせ失禁し、言いようのない恐怖感に叫び声を上げる。
人間共に青白い炎が纏い、足元に線が生まれる。
どうやら青白い炎は熱くないようだが、突然炎に包まれてパニックになっている。
線はどんどん伸びて、人間を中心に形になって行く。
すべての線が繋がり悍ましい魔法陣となった。
すると、青白い炎は熱を持ち始め人間達は熱さに悶え、生きながらにして溶けはじめる。
女が子供が泣き叫ぶ阿鼻叫喚だ。
俺の心は壊れているのか、特に感情は湧かずこの光景をただ眺めていた。
人間が全て溶け終えても叫び声は聞こえたままで、魔法陣から地獄の底から響くような感じの音に変わりそして魔法陣が強く光って消えた。
魔法陣があった場所に居たのは大きな巻角を頭に生やし、目は全体的に黒く、口からは大きな牙が見えている。
肌は全身濃い赤茶色で筋肉隆々で背中には蝙蝠のような翼が生えていた。
巨大な剣を禍々しい黒剣を握りしめ鋭い目つきで俺を見ていた。
「俺を呼んだのは貴様か。
俺の名はアバクァス
良い魂の贄だった。
俺に何を望む。
願いを叶えてやる」
ほぼ全ての魔力を注ぎ込んだ為に意識を保つのがやっとだ。
「俺の……剣となって……敵を……人間を屠って……ほし……い……」
俺は言い終えると前のめりに倒れた。
「という事だ我が同胞よ。
お主が召喚される前に伝えられた主からの命だ。
ここから出て人間を嬲り殺せ。
街にいる人間を殲滅しろ。
ただし亜人の奴隷だけは死なせる事を許さないとの事だ」
アバクァスはゾルヴァルを見て次に呆然としているギルドマスターを見て剣を振り上げた。
ギルドマスターは悪魔召喚を呆然と眺め、最後に見たのはアバクァスの大剣が迫る光景だった。