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復讐の蹂躙劇(1)


 遠くから聞こえる恐怖の悲鳴、断末魔。

 そして高笑い。


 この声はゾルヴァルだろう。

 本当に楽しそうに命を刈り取っていく。


「……主様……」


 アスタルの腕には一人の子供が抱えられていた。

 獣の耳を有するさっき見た子供だ。


「我が駆けつけた時には既に……」


 その言葉を聞き、動かなくなっている獣人の子供を見て憤りが溢れる。

 至る所が痣だらけで傷だらけで、顔は苦痛に歪んだままだった。


 痛かったよね。

 苦しかったよね……。


 さっきまで生きていたその子を俺を片腕で抱きしめ、泣き叫ぶ声が辺りに響いた。


 殺ス……人間ハミンナ殺シテヤル……。


 強烈な殺意が心を支配し魔力が漏れ出そうになった時、そこで意識が途絶えた。


「早めに戻ってきて良かった」


 俺の後ろには汚れ一つない姿でゾルヴァルが立っていた。


「困った主だ、まったく。

感情に素直過ぎる。

主にとっては生きづらい世界だろうな」


 意識を失った俺をアッシュが抱きかかえ、悲しそうな顔で俺の顔を覗き込んでいる。


「よし、ではこのまま出発するとしよう。

アッシュは主をそのまま抱えていくか?」


「……うん。

その前に、その子を埋葬してあげよう」


「そうか。

アスタル、埋葬してやれ」


「畏まりました」


 アスタルは地面に手を突っ込み土を掘っていく。

 ある程度深く掘られて子供は埋められた。


「ではゆくぞ」





 目が覚めた時、どこかのベッドの上だった。

 頭がボーッとして記憶が霞んでいる。


『主、起きた』


 ドラグル……。


「皆は……?」


『休んでる、呼ぶ?』


「いや、いいよ」


 段々と記憶がクリアになって把握した。

 また感情が爆発して暴走しそうになったのかと。


 自分の心の脆さに呆れてしまう。


「本当に……、何やってんだろ俺。

しっかりしなきゃ……復讐を済んだあとはアッシュを守らなきゃいけないのに」


 こんなんじゃ迷惑かけてばかりであいそつかされちゃうよ……。


 自分を抑えなきゃ。

 もうこれ以上情けない姿を見せないように……。

 心も強くして抑えなきゃ。





 翌朝、最初に顔を見せに来たのはアッシュだった。


「おはようアデル。

体の調子はどう?」


「ごめんアッシュ……。

いつも迷惑かけて……」


「別に迷惑だって思ってないよ。

アデルはアデルで僕の大親友でちょっと頑固な弟みたいなもんだ。

思うのはただそれだけだよ」


 そう言ってそっぽを向く俺の頭をポンポンと撫でる。


「お目覚めかな主。

目的地は目と鼻の先であるぞ」


「もうそんなに移動したの?」


「うむ。

早く用事を済ませたほうがいいと判断してな。

少し本気で移動した」


 それは俺のせいだろうな……。

 本来なら復讐なんてやってる場合じゃないのかもしれないけどこれだけは……辞めてはいけない。


 はぁ~っと深く息を吐き気持ちを切り替える。


「主様、お食事をお持ち致しました。

皆さんの分もあります」


 俺はベッドにベッドテーブルを置かれそこに、皆はテーブルに座って朝食を取る。


「それにしてもここはどこなんだ?」


「ダズルの街の近くにある町ですよ。

我々ならここを出て一時間程でダズルに到着できます」


 いよいよか……。

 母さん……村のみんな……もうすぐだからね。


 先ずは真っ直ぐ冒険者ギルドへ向かって冒険者を皆殺しにして、次は街の中を蹂躙だ。


 はやる気持ちを抑えて朝食を食べ支度する。

 心なしか体の調子がいつもより良い感じがする。

 魔力のムラもない……。

 全身にまんべんなく均等に流れている感じだ。






 ローブを纏い全身を隠して村の宿を出て有象無象を無視してダズルへと向かった。


 流石にここまで来ると街道は人の姿が多く、高速で移動する俺達に人間どもはギョッとする。

 同じ進行方向を行く者共は後で地獄も見るだろう。


 一時間位すると大きな外壁が見えてきた。


「あそこか……」


 我慢だ……。

 先ずは街に入ってからだ……。


 胸が高鳴り呼吸が早くなる。

 早く殺したい。


 でも我慢……。

 ここまで来て暴走なんて目も当てられない。


 深くフードを被り人間が目に入らないように気をつける。


「行きますよ主」


 ゾルヴァルの声は実に楽しそうな声音であった。




 長く立ち並ぶ列を無視して前へと進み、門を通り抜けようとした所で止められる。


「まて!!

ちゃんと列に並ばんか!!

怪しいやつめ……とりあえずこっちに来い!」


 この人間の声が発端となり俺はつい潰してしまった。


 魔力腕で真上から抑えつけるように文字通り潰された人間。


 そこには赤い血と肉片と臓物がぶちまけられていた。


 辺りは一瞬静寂に包まれ、ゾルヴァルの笑い声だけが響いていた。

 ゾルヴァルはこの光景を狂気の笑顔で腹を抱えて笑い喜んでいる。


 並んでいた女が悲鳴を上げ、その次の瞬間人間どもは蜘蛛の子を散る感じで方方に逃げていく。

 ゾルヴァルはそれを愉快そうに見ている。


 俺は無視して街へ入り魔力腕を伸ばし近くにいる人間を襲いながら街の中を進む。


「主様、冒険者ギルドの場所を聞き出してきました。

あちらにある大きな建物がそのようです」


 気持ちの昂ぶりを抑えるので必死で応える事が出来ず、無言でその場所へ歩む。


 俺の通ったあとは血の道が出来ていた。






「なんの騒ぎだ!」


「わかりません!

街の住人が突然騒ぎ出して逃げ惑っています!!」


 冒険者はこの騒ぎで混乱していた。


 そこへ若い冒険者の男が真っ青な顔をしてギルドに駆け込んだ。


「た、助けてくれー!!

バケモノだ!!

バケモノが現れて街が襲われている!!」


 その報告にギルドは静まり返る。


「はやく!!

あいつ等を止めないと街が、人がどんどん殺されていくううううう!!」


 まさに魂の叫びだろう。

 全員にそれが伝わりそれぞれが武器を構える。


「バケモノを直接見たか?

どんな感じだ。

詳しく教えてくれ」


「く、黒いローブを頭まで被ってる小さいのが二体とその後ろに黒髪黒目の執事風の男と黒髪赤目の貴族風の男が一人ずつ!!

あ、あいつらまっすぐここへ来ています!!」


「よし!!

お前ら聞いたな!!

表へでろ!!

迎え撃ってやれ!!」


 ギルド内は地面が揺れるほどに怒号が鳴り響き次々とギルドから出てくる。





 冒険者ギルドから続々と人が出てくるのが見えた。

 どうやら俺達を迎撃するつもりのようだ。


 あいつ等が俺の母さんを殺した奴等の仲間……。


「この時をどれ程待ったことか……。

思い知れえええええええ!!」


 アッシュは雷を纏いその集団へ突っ込んでいく。

 それを捉えられた人間は少なく、一瞬のうちに沢山の死体が転がった。


「やれやれ、アッシュは主様の盾であろうに。

まあいいか。

昨日に続き今日も機嫌がいい。

説教は勘弁してやろう」


 ソルヴァルは劇を楽しむかの様に見ていた。


 アスタルは優雅に俺の後ろに立っている。

 その表情は特に変化はなく、時折飛んでくるナイフとかを掴んではそこら辺に捨てる。


「くそ!!

こいつ等強すぎる!!

魔族か!?」


 なんとか生き残っている奴が叫ぶ。


 確かにアッシュは魔人族だけど俺はただの人間だ。

 お前達が悪魔の子と言って忌み嫌ってきたただの人間だ。



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