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奴隷


 魔境を抜け草原を走り抜ける俺達。

 とは言っても俺はドラグルに背負われての移動だけど。


 ステータスを確認し、俺が魔王の卵なる称号を得た事に少なからずショックを感じ、普通に生きるという事をさせてくれない自分の運命に深い怒りが蓄積する。


 何故自分なのかと答えのない自問自答するばかりだ。


「主、このまま進むと人間と鉢合わせになるがどうする?」


「……俺はドラグルと遠くで見てるからゲダルって所が何処なのか情報を引き出してきて……。

人間は嫌いだ」


「それなら僕はアデルと一緒に居るよ。

一緒のほうがいいでしょ?」


「ま、まぁ安心するけど……」


 アッシュが過保護になっていってるような気がする。


 かなり早い進行速度で進み、あっという間に人間が、それも冒険者が見えてきた。

 俺達は一旦離れた所で待機をし、ゾルヴァルは一瞬で消えて冒険者の近くに現れた。


「凄いな……。

あれはゾルヴァルの力なの?」


「違いますよ主様。

あれはただ少し早く移動しただけです。

ゾルヴァル様や上級悪魔のポテンシャルは我々中級とはかなりの差があります。

更に最上級、魔王級迄になると更に超越した存在となります。

最上級悪魔がお一人いれば国一つは楽に落とせましょう。

魔王となれば……」


「何を話してる」


 いつの間に近くに居たのかゾルヴァルが割って入る。

 アスタルは直ぐに跪いた。


「お帰りなさいませゾルヴァル様。

悪魔の力について軽く話していただけでございます」


「そうか。

ひとつ行っておく主よ。

主の魔力は既に我と匹敵する程である。

それに新たな技を習得し熟練していけば我と同等になるだろう」


 今俺の体の中に収まっている魔力はそれ程なのかと他人事に思ってしまう。

 同等の魔力を持っていてもゾルヴァルに勝てるイメージなんて全く出来ない。


「主が目的地とするゲダルという街はこちらの方をまっすぐ進めば一月で着くそうだ。

人間の足で一月となれば我々であれば7日程であろうな」


 7日。

 復讐は七日後だ……。


 俺とアッシュの目はゾルヴァルが示した方を睨んだ。




 


 俺達の道程は順調だったが、4日目、俺は今までの無理が祟ったのか体調を崩して寝込んでいた。

 場所は途中で見つけた町の宿に泊まっている。

 全身をすっぽりと覆うローブで俺とアッシュは身を包み人間ぽい姿のアスタルはそのままで、ゾルヴァルは角を隠す。

 そして、人間はほとんど気配に鈍感だからなんの問題もなく町に入り込み宿に泊まり休養する事となったのだ。


 もちろん俺は人間の町なんかで休みたくないとゴネたけど心配するアッシュに説得され仕方なく休むのであっても早く良くなってこんな所さっさと離れたかった。


 気持ちとは裏腹に宿のベッドで休むと体調は少し悪化し失った左腕も痛むようになった。


 

「ゲホッ……頭がクラクラする……寒い……痛い……ゲホッゲホッ……。

……母さん……」


 弱った時ほど思い出す温もり。

 それが恋しくて恋しくて堪らなかった。


 アッシュとアスタルは甲斐甲斐しく俺を看病し、ゾルヴァルはどこから持ってきたのか備え付けの椅子に腰掛けて本を読んでいた。

 ドラグルは小さい頃俺がよく体調崩していた時に持ってきてた果物を探しに出ていて居ない。


 悪寒に震え痛みに涙を流した。


 一晩中魘されるが、翌朝には少し落ち着いた。


「主様、もう二、三日はお休みしましょう」


「……わかった」


 窓の外から聞こえる憎い人間の活気溢れる声を耳にしても、この時ばかりは怒りも湧かずに直ぐに眠りに落ちた。






 それから3日して俺はすっかり良くなりベッドから起き上がる。

 俺の様子を見てアッシュは喜んでいる。


 この数日は体を拭くことも出来なかったから服を脱ぎ、ベタベタな体をアスタルに拭いてもらう。


 体中にある古い傷、失われた左腕を見てアッシュは少し眉をしかめ悲しそうな顔をする。

 俺も自分の体を見ていてとてもいい気分にはならない。


 服を着せてもらい何処から持て来たのかわからない果物をドラグルは俺に差し出す。

 受け取り口に運ぶ。

 病み上がりにこのさっぱりとした甘みは格別だ。


 食べ終わり、さっさとこの場所から離れようとローブを纏いフードを被って頭から足先まですっぽりと覆い部屋を出る。


 宿を出て村の外を目指していると、男の罵倒する声が聞こえ思わず身体が竦む。


「亜人のガキが!!

チンタラしてんじゃねぇよ!!

さっさと荷物を運べ!!

立てこのやろう!!」


 装備を纏った冒険者風の男が獣の耳が生えたやせ細り傷だらけで見窄らしい子供を容赦なく蹴っていた。


 その光景がかつての俺に重なる。


 容赦なく浴びせられる罵倒と暴力。

 嘲笑い口汚く罵る見物人。

 自分では何も出来ないと見て見ぬふりをする傍観者。


 この状況はあの時の俺の状況とそのままだ。


 怖い怖い怖い……コワイ!


「どうしたのアデル?」


「ごめ……な……い……、……め……さい……」


 アッシュの声は俺に届かず、俺は蹲って右手で片耳を覆いひたすら謝る。


 当時と何も変わらない、植え付けられた恐怖は蘇った。

 やまない罵倒、打撃音、悲鳴を上げる子供の声だけが俺の耳に届く。

 古傷が疼き痛みが蘇る。


 この中でいち早く状況を理解したのはゾルヴァル。


「主をこの場から遠ざけろ!

早く!!」


 俺の体の中にある魔力が異常に蠢いているのを感じたゾルヴァルは皆に強く命じる。

 俺は誰かに抱えられ避難された。






「落ち着きましたか主様」


「……ごめん」


 村の外、だいぶ離れた所でようやく落ち着いた。


「主がああなったのはあの時いた男と奴隷のせいで間違いないか?」


「……奴隷?」


「人間に蹴られていた獣人の子供だ。

あれは奴隷の首輪をしていた。

主はかつて奴隷だったのか?

その体の傷はその時に受けた仕打ちのせいか?」


「……違う。

俺は奴隷じゃなかった」


 今まで誰にも語らなかった自分の過去をこの時初めて話した。

 想像を絶する俺の過去にアッシュは絶句し、ギリリと奥歯を強く噛み締め鳴らし人間の恨みが恐ろしい程に燃え上がっていた。


「いつの世も人間とはなんと愚かなものでしょうか……」


 アスタルは遠くを見つめて呟く。


「俺にはずっとドラグルが居たからなんとか生きていけた……。

でもあの子には逃げ道は何もないんだね……。

……人間め……何が奴隷だ……」


「あの主人では獣人の子供は長くないだろうな。

相当弱っていた」


「……ぼ……す」


「主よ、何か?」


 ゾルヴァルはニィっと笑う。


「あの村の人間を滅ぼして人間に虐げられている者を助ける。

人間は何でも奪う……。

俺の人生も俺の母さん……あの子の人生も何でも奪っていく……。

なら俺も奪ってやる……。

……殺せ……人間を殺せえええええ!」


「仰せのままに!

今日はご馳走だ……!」


 ゾルヴァルは狂気に歪む笑顔で嬉々として村へ向かった。


「アスタル、……あの子を助けて」


「御心のままに……」


 アスタルは俺に跪いてから一瞬で姿を消した。


「僕はアデルを守る為にここに残るよ」


 アッシュは俺の側に控えさっきまで居た人間の町の方を睨んでいた。



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