魔境の主
『我が森から去れ!!』
威圧を放ち俺達にそう告げる巨人。
いきなり攻撃してこないだけ理性的だ。
「さあ主よ、あの愚鈍な獣を始末してくるのだ。
我らは手助け」
『去らないのなら死ね』
ゾルヴァルが喋ってる途中で巨人は片足を上げて俺達を踏み込む。
大地を揺らし轟音が鳴り響く。
「全く獣は……、我が話しているのだから大人しくしていろ」
ゾルヴァルは手を上げて巨人の足を受け止めていた。
ついでに何かをしたのかそのまま動かなくなっている。
俺達が呆然と見ていると、ゾルヴァルは無視して続きを話し始めた。
「我ら悪魔は今回は何もせん。
主とアッシュだけで屠るのだ。
ただし、アッシュは主を守るだけでそばを離れないこと。
それでは始めようか」
巨人の足の下から離れると、ゾルヴァルは指を鳴らした。
すると巨人は動き出し今度こそ地面を踏み込む。
ズウウウウウウウン……、地面が揺れ横に逸れている俺達を巨人は見ている。
『何をした?
確実に踏みつけたはず。
まあいい、次で殺す』
拳を振り上げる。
踏みつけた場所がぽっかりと穴が開いたように木々が潰れ、巨人がよく見えるようになった。
全身が緑色でボコボコと筋肉が盛り上がっており、巨人の顔は仰々しい鬼のようで、額から鋭い角が二本生えていて、犬歯が異様に発達した牙が口から出ている。
俺とアッシュはこの巨人と目があった。
俺の背中に冷や汗が流れ、アッシュは頬がヒクついている。
本気でやらないと死ぬ。
直感でそう思い俺は魔力を全解放して大きな魔力腕を10本作る。
「ほう、これはなかなか。
本当に人間にしては異常な魔力だ」
ゾルヴァルはニィ……と笑い尖った歯を覗かせる。
振り下ろされた拳に向かって魔力腕の拳を放つ。
巨人の拳と俺の魔力腕がぶつかりガッと大きな音が響いた。
『人間のくせに妙な魔力を放ち、我の拳を止めるか』
俺は巨人の言葉なんか聞こえていなかった。
不思議な高揚感に包まれる。
なんだか気持ちいなぁ……。
抑えなくていい。
我慢しなくていい……、そんな不思議な感じが溢れる。
楽しいなぁ……。
暴れたい……。
怪しく笑う俺の目は黒目から赤色に変わり光っていた。
アッシュは俺の様子が変わった事に戸惑いつつも、全身に雷を纏い剣を構えて巨人を見続けた。
何があっても守る様に、対応出来るように。
俺の魔力は暴風のように荒れ狂い巨人に襲いかかる。
本来なら剣も一切通さない強靭な肉体が俺の魔力によってえぐられていった。
魔力腕を無数に生み出し巨人の肉を掴み引きちぎる。
『バケモノめ!』
巨人は腕を水平に薙ぎ払い木々ごと俺達を吹き飛ばそうとするが、バチバチと火花散らすアッシュが剣で受け止めた。
『ぬうう!
調子に乗るな虫が!』
巨人は一旦下がり、地面に手を付いて何かを始める。
モコモコと地面が盛り上がり次の瞬間、巨大な棘となって俺達に襲い掛かってきた。
巨大さと数にアッシュは立ち竦んでしまった。
だが次の光景を見て唖然とする。
俺達に向かっていた巨大な棘は眼前でピタリと止まったのである。
それには巨人も目を見開いた。
『……何なんだいったい……』
アッシュは戸惑いつつもチラッと俺の方を見て、これが俺の仕業だと確信した。
俺はただ魔力腕で巨大な棘を一本一本掴んで止めただけだ。
掴んでるのとは別に魔力腕を出して巨人へ這い寄る。
再び自身が抉られ始めて巨人は恐怖を感じた。
強大な魔力を放ち笑いながら不思議な技を使い肉を少しずつえぐり削っていく。
これ以上ダメージを受けてたたまるものかと腕を振り回すが、それも虚しく肉が抉られていく。
全身至るところから感じる不思議な魔力に恐怖した。
『これ以上やられる訳にはいかぬ……』
巨人は立ち上がり俺達に背を向け逃げ出した。
「餌が逃げてはダメだろう」
突然目の前に現れた男に角を捕まれバケモノのいた所へ投げ飛ばされる。
『クソ……』
逃げられない為に必死の抵抗を試みるも、ただ自身の肉体を失っていくだけだった。
徐々に死んでいく恐怖。
大量に出血し肉を削られ内蔵を露出しても強大な生命力を持っていた巨人は死ぬまでに時間がかかった。
俺はもっと遊んでいたかったから急所は狙わなかった。
アッシュはただ立ち尽くし悲しそうな顔で俺を見ていた。
巨人は遂に死に、俺は大幅なレベルアップで更に魔力が増し、力に呑まれ暴走しかけていた所でゾルヴァルによって意識を失った。
一時間程して俺は目が覚めた。
元の黒目に戻っており、周りを見渡す。
アッシュは不安そうな顔で俺を見ている。
俺はまた何かやらかしたのかと不安になる。
「主よ、魔力を抑えてみてみてほしい」
大人しく従い放たれていた魔力を体内に抑えこむ。
「うん……、なんの違和感の無い」
「それはなにより。
ではステータスを見せて頂きたい」
改まった雰囲気で俺にそういうゾルヴァル。
俺は怪訝な顔をしながらもステータスをを表示した。
久しぶりに見るしレベルも上がっているだろうと少しだけワクワクする。
「ステータス」
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【アデル】 13歳 人間 レベル:57
職業:悪魔使い
状態:健康
HP:245/245 MP45821/77589
固有スキル
魔眼
スキル
悪魔召喚
魔力吸収
魔力操作
並列思考
情報処理加速
魔力強化
称号
悪魔の寵愛 適合者 魔石を有する者 復讐者
魔王の卵
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「結構レベル上がってる」
喜んでいると、ゾルヴァルは別の所を真顔で見ていた。
アスタルも事態を把握し厳しい目で俺のステータスを見ている。
「主、今後は魔力の全開放を禁止する。
それとあの屋敷へはもう戻らないほうが良いだろう。
早急にこの魔境を出るべきだ」
「なんで?」
「……これだ」
ゾルヴァルは俺の称号欄の新しい称号を指差す。
魔王の卵。
はっきりそう書いてあった。
ナニコレ?と呆然としてしまう。
「魔力の全開放がきっかけだろう。
そして主の体質……、この魔力吸収のせいで魔力は際限なく膨れ上がっていく。
魔王化する大きな要因の一つだろう。
このままでは主は主でなくなり、大切な物を失っていくであろうな。
そうなりたくないのであれば魔力の開放はもうしない事だ。
さっきの巨人との戦い、アッシュよ、思った事を言ってみろ」
アッシュは戸惑いながらも口を開く。
「さっきのアデルは変だった……。
目が赤くなって……笑いながら巨人を嬲り殺しにしてた……。
あんなのアデルじゃない!!
あんな嬉々として暴力を振るうアデルは今まで見た事無い……」
「魔王になり始めている影響だろうな。
とにかく魔力開放はせず魔素の薄い地域で暮らしていれば安全だろう。
ここを早く出るぞ。
主には毒だ」
俺は呆然とし、ドラグルに抱えられ俺以外の皆は急いで魔境の外を目指した。