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歪な力


 地獄の訓練を初めて12日目。

 僕は今、ミノタウロス三体と戦っている。


 攻め続け4日目になんとか倒した次の日には二体と戦わされ、絶妙な連携に苦戦して7日かかり、今日から三体という訳だ。

 いったいいつまで続くんだろうと辟易していると、心を見透かされ、「主が目覚めるまでだ」と言われた。


 でもゾルヴァルはあと二、三日すれば目が覚めるだろうと言っていた。

 この数日間は訓練後、時間があれば考えた。

 結論はアデルを一人にしてはいけない、ただそれだけだ。


 歳は僕の方が上だけどどっちが上とかじゃない双子の兄弟みたいに思ってる。

 親友であり家族みたいなアデルを絶対に一人にさせてはいけない。

 そして傷つけさせてはいけない。

 アデルの為にも強くならなきゃと思って今日まで戦ってきた。


 気合を入れてミノタウロス三体に集中する。


 激しい波状攻撃にお互いが死角をカバーし隙を見せない鉄壁の防御、巧みな連携攻撃、後方にアデルが居ると想定して後ろに敵を向かわせないと意識して高速で剣をさばき躱しカウンターする。


「戦い方が分かってきているがまだまだ非力。

力、技、センスを磨け。

ここだという絶好のタイミングを手繰り寄せ掴めるようになれ。

冷静に見極めろ。

我が主を守るのだろう?

こんな雑魚三体に手間取っていたら我と渡り合う英雄から主を守れんぞ。

クハハハハハ!!」


「クッ!!」


 背後から感じるプレッシャーに邪魔されながらも決めたライン以上は下がらず越えさせない。





 俺は静かに目を覚ました。

 ただ呆然と天井を見つめ放心する。


 右手を天井に伸ばし見る。


『主……、お目覚め、良かった』


「主様、おはようございます。

調子の方は如何ですか?」


「……最悪たけど最高」


 それだけ答えてまたボーッと天井を見る。


 倦怠感というかダルさはあるけど魔力は今まで以上に感じる。

 目を閉じ魔力を極限に薄くして広げ魔力視を行う。


 屋敷全体を覆った俺の魔力は二人を感知する。


 二人は真っ直ぐに俺の部屋へ向かっていた。






 ガチャリとドアは開きゾルヴァルとその後ろからアッシュが部屋に入ってきた。

 俺はアッシュの事を無視して勝手な事をした罪悪感から顔を少し背けてしまう。

 それを見たアッシュは少し苦笑いをするが特に気にした様子はない。


「我が愛しき主よ、お目覚め誠に嬉しく思う。

主が目覚めるまで暇だったからアッシュを虐めて暇をつぶしていた」


 愉快にそういうゾルヴァル。

 聞き捨てならないと聞き返そうと思った時、アッシュが笑った。


 アッシュの声に体がビクンと跳ね上がる。

 いつもの優しいアッシュの声だ。


「そんな事ないよ。

鍛えてもらったんだ。

物凄く厳しかったけど」


 ゾルヴァルはフンッと鼻で笑う。


「アデル。

僕はねアデル。

君を守る。

そして君を絶対に一人にしない。

だから無茶な事はもうやめて欲しい。

自分の身体を傷つけないで欲しい。

復讐は僕達二人とこの悪魔たちの力を借りて果たそう。

そしたら、ここで静かに暮らそうアデル」


 アッシュの優しさと真剣さに泣いてたまるものかと体を震わせ我慢するが、嗚咽が漏れてしまう。

 俺の事を見捨てないで居てくれるアッシュの存在は本当に俺の中では大きかった。


 アッシュはそんな俺を微笑み、左肩を見て少し辛そうな顔をする。





 それから数日、俺は動けるようになり元の生活に戻ってきた……事はなく、左腕が無いことで、アッシュは甲斐甲斐しく世話を焼いて来るようになった。


「右腕だけじゃ着替えづらいでしょ」

「肉を切り分けてあげる」

「必要な物はある?」


 こんな事ばかりだ。

 アスタルがやってくれるしアッシュはゾルヴァルの訓練で忙しいだろうに合間を見ては何かと世話を焼いてくる。

 なんか吹っ切れた顔をして。


 最初は困惑したけど次第に慣れて、お前は俺の兄ちゃんか!!と怒鳴りつけたいけど、そうなってしまった理由が理由で言えず、されるがままだ。


 それから更に数日。

 俺の体調も万全になり、二度目の正直となる復讐の進行である。

 今回はさっさと片付けてさっさと戻ってくるとアッシュとアスタルが言い出した為に、最も機動力が低い俺はドラグルに抱えられての移動となってしまった。


 俺達は双眼に怨嗟の炎を燃やし魔境を異様なスピードで行進する。


「……」


「どうされました?主様」


「……いや、何でもない……」


 目が覚めてから体感で魔力が急激に大きくなっている感じがして、体に抑えているのが日に日に厳しくなってきている。

 そして、屋敷を出て濃い魔力を全身に浴びていると更に強まり必死に制御している所だ。


「主よ、器の容量を遥かに超えた魔力を有しているようだ。

それを必死に抑えこむのは良いことではない。

原因は人の身でありながら有するその胸の特異な魔石のせいであろうな。

貪欲に周囲の魔素を吸収し成長しようとしている」


「アデル大丈夫……?

ゾルヴァン、なんか方法は無いの……?」


 俺も何か抑えこむ方法がないかゾルヴァンの方を見て目で訴える。


「抑えこむのを止めて開放するしか無いな。

そもそも魔力を抑え込める必要なんて無いのだ。

隠密行動や魔力感知をする結界や道具を通り抜ける為の術でしかない。

さあ主よ、開放してみせよ」


 言われた通りに抑えこむのを止める。


 俺から放たれた魔力にアッシュ、アスタル、ドラグルがビクッと反応する。

 強大な力の気配に三人は押し潰されそうになる。


「ふむ、魔力量だけであるならば我に迫る勢いか。

それに尚も成長している……」


 ゾルヴァルは心の中で、アデルのその力を歪な力と思った。


「主、進言する。

今すぐレベルを上げるのだ。

丁度いい餌が主の気配を感じ取って来ている。

その餌を倒せばしばらくは大丈夫だろう」


 遠くからドシンドシンと音が近づいてくるのを聞きながらゾルヴァルはそう言う。


 音は大きくなり、次第に地面が揺れ始め、バキバキと木々を薙ぎ倒す音まで聞こえてくるようになった。

 まだ距離を感じるというのに木々の葉の隙間から異様な怪物が見えた。


 それが近くまで来ると、歩みを止めた。


『異質な者よ、我が森で何をしている。

すぐに出て行け』



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