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最悪の種は殻を破る


 更なる特訓の末、俺達二人で中級悪魔であるアスタルと互角に戦えるまでになった。


 アッシュは放電しながら高速で動き、通った後には青白い線が見え、まるで稲妻のようだ。

 さらに強力な広範囲放電技サンダーバーストと上級雷魔法サンダーストームを習得した。


 俺はアッシュの動きを完全把握出来る情報処理能力の向上と魔力腕が13本にまで増え、すべての腕を自由に動かし全力で攻撃出来るようになった。

 魔力視も合わさり全方位全力戦闘を可能にした。


「お見事です。

我ではもう主様達二人の連携を崩すことは不可能でしょう。

行きますか?」


 アッシュの復讐に燃える目とあの日から更に虚ろになった俺の目が見つめ合い頷く。

 もう直ぐだ。


 身支度を整え、俺達は全身を黒いローブで身を包みドラグルとアスタルを伴って屋敷を出た。

 初めて出る屋敷の外はジャングルの様に木々や草が生い茂っている。

 一歩、屋敷の門を踏み出ると今まで感じたことの無い濃厚な魔力が全身に絡みつく。


 ドラグルはこの環境に歓喜し力を漲らしているようだ。


「ッ!」


 身に纏わりつく濃厚な魔力が俺の胸に吸収されていく。

 この感覚はあの魔力が濃かった森にいた時と同じ感覚が襲ってくる。 


「おや?」


 アスタルは何か気がついたようで俺を凝視している。


「主様は不思議なお力をお持ちですね。

この魔境の魔力を吸収して主様の魔力が膨れ上がっています」


「く、苦しそうにしてるけど大丈夫なの?」


 アッシュは心配そうに俺の顔を覗き込む。

 アスタルの言うとおり、胸にある異物が濃い魔力を吸収してちょっとずつ肥大化しているのがわかる。

 圧迫され苦しさはあるけど、不思議と辛くは無かった。


「大丈夫……。

それより先を進もう……」


 どんどんと吸収し自分の魔力が濃くなっていくのを感じながら一歩を踏みしめる。


 アッシュは不安そうするが俺を信じ隣に並び歩く。


 時折鈍感な魔物がアスタルやドラグルの異質な気配を感じ取れず襲ってくるがそれをアッシュが瞬殺していく。


「アッシュ様ならこの森でも十分生きていけますね。

ただドラゴンも生息してますのでもし遭遇したら逃げてください。

亜竜ならなんとかなるでしょうが属性竜でしたら上級悪魔がいないと守りきれません」


 そう説明しながら近づいてきた巨大なスライムを何かの力で圧殺するアスタル。

 目は笑っていないが若干口角が上がっている。






 この魔境で何日も過ごし、寄ってくる馬鹿な魔物を倒しながら進んでいると、この環境に体が馴染み魔力吸収の影響も落ち着いてきた。


「主様、体内に押さえ込んでいる魔力も解放してみてください」


 何でそんなことを?とお思いながらも今では無意識で体の外に漏れないように抑えていた魔力を解放する。


「ッッ!?」


 アッシュは俺から放たれる強烈な威圧感に驚愕し後ずさる。

 俺に魔力を解放するように言ったアスタルも珍しく目を見開いている。


「もしかして、と思いましたがこれ程ですか……。

何か変化はありますか?」


「ん~、何か屋敷にいた頃より魔力が扱いやすい?

濃度が増したような粘りが出たような?

はっきり分かるのは自分の魔力量が増しているって感覚かな」


 俺から放たれる強烈な魔力をドラグルだけは俺の側で感じ吸収してつまみ食いをしていた。


 その様子を見てアスタルは「我も味見を」と言って側に寄り俺から溢れ出る魔力を吸収する。

 アスタルはオレの魔力を吸収し始めてから一言、「極上の逸品」と言って目尻を下げる。

 この光景を見てアッシュは苦笑いしていた。


「僕じゃこれ以上近寄るのちょっときついかな。

アデル、そろそろ抑えてよ。

結構シンドイ」


 汗を流しながら困り顔でアッシュはそう言い、俺は慌てて抑えこむ。

 悪魔の二人は名残惜しそうにしていた。


「アスタルでもそんな顔するんだな」


「もちろんですよ!

目の前にあったご馳走にお預けをくらった気分ですよ」


 凄いと思っていたアスタルがなんだか子犬に見えてきてしまった。

 魔力を抑えた事で側に来たアッシュと共に笑い合い魔境を進んだ。


 中腹に差し掛かった所で魔物や動物は一切襲って来ることはなくなり、俺達は悠々自適に魔境の外を目指す。


 この行進で襲ってくる魔物をいち早く排除していたアッシュは大幅にレベルを上げた。

 俺にはアスタルとドラグルがついてるから何も出来なかった。


「俺としては守りが過剰だから一人アッシュの所にいて欲しいんだけどな……」


 ドラグルは俺とアスタルにしか見えないし俺から離れたがらない。

 アスタルも主を守るのが役目とか言って俺に迫るモンスターを排除する。

 出番がなくてレベル上がんなかった。


「しっかりアッシュも守ってくれよ。

俺の大事な親友なんだから」


「お任せ下さい。

我の全力を持ってお二人を守っていきますよ」


 俺達の会話は聞こえてないのかアッシュは呑気に前を歩いていた。





「ん?」


「お気づきになりましたか主様」


「どうしたのアデル」


「前に人間が4人いる。

装備を整えてるから冒険者だね」


 人間と聞いたアッシュは体から文字通り電気が迸る。

 憎しみを滾らせ纏う雰囲気が変わった。

 いつもは俺を気遣い笑っているアッシュだけどこの時は真顔になり雰囲気が重苦しくなる。


 俺も同様に感情に連動して抑えていた魔力がゆらりと漏れ出る。

 同時に人間を察知してから微かに手が震えていた。


「落ち着いてください。

あの人間から情報を頂きましょう。

私が話を聞いてきますので少しお待ちください」


 アスタルは人間がいる前の方へ進んでいった。


「はぁ……」


 アッシュは息を吐き自分を落ち着かせた。

 でも目は鋭いままにアスタルの向かった方を睨む。


 俺も深呼吸して心を落ち着かせる。


 程なくしてアスタルは四人の襟首を掴んで引きずってきた。


「お待たせしました主様。

この人間共の情報によりますとこの魔境はブダルダ王国国境沿いに面しているようです。

このまま真っ直ぐ進めば良いようですね」


 目の前に現れた人間に足が竦む。

 そして息が苦しくなり、体中にある昔の古傷が疼き心の奥底にまで刻まれた恐怖と記憶が呼び覚まされる。


 俺は目の前の人間に恐怖心を抱いていた。


 力を手に入れてもトラウマなんか克服しない。

 克服するには正面から向き合わなきゃいけないんだ。

 じゃないと俺は母さんの仇をちゃんと取れない。


 体が小刻みに震えガチガチと歯を鳴らす俺にアッシュは心配して声をかけてくる。


「アデル……俺の後ろに隠れてて」


「い、いや……これは俺が克服しなきゃ……イケない事だ」


 深く息を吸い気持ちを落ち着かせようとする。

 自分の不甲斐なさが悔しくて涙があふれる。


 どうして俺はこんな気持ちになんなきゃいけないんだよ。

 ただこの世に生まれただけなのに、ただ黒髪黒目なだけなのに。

 なんで俺の大切なものを奪われなきゃいけないんだよ。


 人間が憎い……。

 憎い憎い憎い憎い憎イ憎イ憎イニクイニクイ……


 俺をこんな運命にした世界が、俺をこんな気持ちにして奪った人間が……。


 限界まで張られた理性の糸がプツンと切れた。


「人間がああああああ!!」


 禍々しい魔力が可視化して俺の体から溢れる。


「返せえええええ!!

俺の人生を、母さんを返せえええええええええ!!

皆をかえせよおおおおおお!!」


 その可視化した魔力は無数の腕の形となり手あたり次第を破壊し始める。

 これは俺の心だ。


 純粋な怒りと憎しみの形だ。


「アデル!!!!」


 俺に駆け寄ろうとしたアッシュはアスタルに手首を捕まれ引き止められる。


「アッシュ様!!

危険です!!

一旦ここを離れます!!

あれは我でも止められない!!」


 アスタルはアッシュを抱えて俺から距離を取った。


 その場に残された人間は恐怖で動けず、そして跡形もなく消えた。


「アデル!!アデル!!

離してアスタル!!

アデルが苦しそうにしてる!!」


 胸から放たれ暴走する禍々しい魔力に蝕まれ怒りと憎しみので形相が変わっているが、目から涙が流れていた。

 それをしっかりと見ていたアッシュは俺の苦しみを感じ取り助けようともがき俺に手を伸ばす。


 アスタルは主である俺の願い『アッシュをしっかり守ってほしい』を忠実に守っていた。





 一頻り暴れた後、俺は魔力を使い果たしその場に倒れた。


 俺の周囲は地形か変わる程に荒れ果てていた。



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