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Chapter-1

 あまり深く考えずにお読みください。これは自分の気分転換に書いたものです。

 俺が誰かって? 聞いたら驚くぞ、だってあんたニンゲンだろ? なら間違いなく驚くね、けどま、今は説明している場合じゃねえんだわ、悪いね。

「――取り合えず、安全地帯まで逃げねえと……!」

 粉雪が敷き積もる回廊を駆け抜ける。急げ急げと焦る気持ちにせっつかれ、四肢を投げ出し懸命に走り続ける。お気に入りのスニーカーをびしょびしょに濡らし、マイナスの気温に肉球の感覚が希薄になっていく。

 健康的に潤った鼻が今はひたすらに鬱陶しく感じ、けれど小粋に擦る事も叶わない。彼は、イヨは氷の巨人(アイスゴーレム)の大軍に追われている真っ最中なのだから。

「くそったれ、タマん中まで凍っちまいそうだぜ……」

 彼は口寂しさ故に何時も咥えているライフル弾を一層強く噛み締めた。

 曲がり角に差し掛かり、普段二足歩行しているところ、現在速く走るために猫のように四足歩行して走っていたイヨはその四つの脚を一斉に雪に埋もれた石畳に押し付け、飛び出した前脚の鉤爪をスパイクにしお座りの姿勢でドリフトして見せる。ごりごりと四肢で滑り、そして壁に激突する間際にしなやかな体に秘めたる強靭なバネで以てイヨは完全に角を曲がり切った。

 再び四足で続く回廊を疾走しながら振り向くと、角を曲がり切れずに壁に激突し次々に砕け散っていくアイスゴーレム達が見える。イヨは牙を剥いて獰猛に笑うと片手、猫でいう前脚を掲げ五本の指の内、中指を突き出して叫ぶ。

「ざまぁみさらせ! 今度はママにちゃんとした脳みそ付けてもらうんだなぁ!! このタコ!!」

 城中を散々追いかけ回されていただけあってイヨは鬱憤を晴らすべく粉々に砕けた物言わぬ氷塊を散々口汚く罵りつつ、立ち並ぶ凍った石柱の合間に見えるこの『凍結城』の頂を見上げる。そこには巨大な氷の塔が出来上がり、それから溢れ出た冷気によって城は更に凍り付いて行く。それだけではない、氷の女王(ティエレイア)の言葉通りならば時間すら凍り付こうとしている。イヨは歯噛みし、更に飛ばした。

「せっかく前に進むってアイツが決めたんだ、この期に及んで年増になんざ邪魔させるかい……待ってろ、お嬢ちゃん」

 イヨの脳裏に助けてという悲痛な叫びが蘇る。これまで危険だろうがどうでもいいとそんな事ばかり言っていた少女が見せた必死の想い。

 太陽の日差しすらない、この閉ざされた世界でイヨの瞳は大きく輝き、闘志に燃えた。

 例え相棒(ドク)も巨大な大砲もこの場に無くとも、売られた喧嘩から逃げる事だけは彼のプライドが許さない。いつしかスニーカーを脱ぎ捨て、野性を体現する爪々で石畳も氷も引っ掻きイヨは風のように駆けた。駆け続けた――!

「――おっと行き過ぎ行き過ぎ、この階段を上らにゃあ」

 うっかり通り過ぎてしまった階段まで戻り、イヨは再び走り出す。

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