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怠惰の神候補   作者: タイト
番外編 ドワーフの里、その後
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壁を突破せよ

「そんな……出口が……」

「やってくれたな、アレックス君」


 パラパラという砂音が、ガラガラと音を変え今にも天井が崩れ落ちてこようかという状況で、ゴンゴンはひどく冷静だった。



「……私は……今日ここで死ぬつもりだったのだぞ」

「何故そんな事を!?」


「私がすでに死んでいるからだ。奇妙な偶然で新たな生を受けはしたが、これは自然の摂理に反する行為だ、正さねばならない……」


「ゴンゴンさん……」

「だというのに……君が来てしまった。自分の我儘で友人を死なせるなど、あの世で皆に顔向け出来ぬわ!!!」

 地鳴りにも負けぬような咆哮。

 そして、ゴンゴンの肉体は青白い光に包まれた。

 光はやがて火の粉のように舞い広がり、そばに立つアレックスへと燃え移った。


「火っ! 熱っくない、これは? ゴンゴンさんは?」

『大丈夫だ、私はここにいる!』

 炎が収まり、開けた視界の先にゴンゴンはいなかった。


『どこを見ている、ここだ』

「え? これは……まさか!」

 消えたゴンゴンの代わりに、アレックスの腕には銀白の輝きを放つガントレットが備わっていた。



 武闘家は自らの肉体を武器に戦うと言うが、この姿はまさにそれ。

 肉体を極限まで鍛えに鍛え、己が肉体を文字通り(・・・・)武器へと変ずる奥義。

 【極装限武】、それがこの奥義の名だ。


 ……ただし、この技には戦ううえでの致命的な欠点がある。



『この状態の私と君は、腕力、体力、強度、身体能力が数十倍にまで強化される』

「数十倍! なぜ今まで使わなかったんですか?」


『……動けないからだ』

「へ?」

『この状態では自力で動けない、誰かに装備してもらわなければ意味がないのだ。おまけに装備した者も私と同じように強化されるが、そのせいで体感が狂う、まともに動けなくなってしまうのだ』

 まるで呪の装備だな、とアレックスは思った。

 だがその呪が、これ以上なく頼もしくもあった。


「……でも今なら、真上に技を打ち出すだけなら!」

『ああ、これ以上に頼りになる技はないだろう』


 ドカドカと、落石の激しさがピークに達していた。

 もうまもなく落盤により、この村は滅ぶ。


 2人に緊張が走る。



『すまない』 

「急に何を?」

『君を巻き込んで、おまけに力まで貸してもらって……本当にすまない』 


 一心同体になっているためか、ゴンゴンの感情をアレックスは理解できた。

 そんなゴンゴンに失礼と思いつつも、アレックスは大口を開けて笑った。


「いいんですよ、ゴンゴンさん。だって僕は――

僕は――あなたを連れ戻すために残ったんですから!」


 天井に、ベキリ! と致命的な亀裂が生まれた!

 今が好機! と覚悟を決めたアレックスは、足を爆発させるように大地を蹴り飛ばして自らを宙へと打ち上げた! 


「いっけぇぇぇぇぇぇええええええエエエエエエエエェェェェェェ!!!!」

 アレックスとゴンゴン。

 2人の文字通り命懸けの右拳が、亀裂へと吸い込まれていった。


 爆薬でも仕込まれていたかのような、凄まじい炸裂音!

 文字通り岩をも砕くその一撃が、天を突き破らんと突き進み、岩の天井はズタズタに切り裂かれていくようだ。


『いける!』

 2人がそう手ごたえを感じ始めた次の瞬間……。


 ――ガリンッ!!

 拳の勢いは、そこで途絶えてしまった。


 岩に激突したのか? 踏み込みが甘かったのか? それとも疲労か?

 原因となる要素がゴンゴンの頭を巡ったが、1つはっきりしている事がある。


『私達は、これから死ぬ。このまま地面に叩きつけられて、大量の土砂に押しつぶされて、また何もできぬまま、誰1人救えぬまま死ぬ。確実に!』


 ゴンゴンは後悔した、自分の死に対してではない。

 アレックスを巻き込んだ事、なぜあの時自分は立ち止ったのか、全員で逃げて1人で勝手に死ななかったのか。

 後悔してもしきれない、致命的なミスを犯した自分が腹立たしかった。


『すまない、アレックス君……』

 ただそれだけ、せめて最後に謝罪の言葉を述べる。

 たったそれだけの事でさえ、憚られる気がして何も言えなかった。



「――――るか!」

 ふと、誰かの声が聞こえた気がした。


「あ――――た―るか!」

 ここには自分達しかいない、ならば声の主は1人しかいない。

 ゴンゴンは、声の主に意識を向けた。


『アレックス君?』

 その声は、どんどん大きくそして力強くなっていった。


 あきらめてたまるか(・・・・・・・・・)

 呪文のように、アレックスはそう何度も口にしていた。


「らい――ライ――雷!雷雷雷【雷】!!」

 いつしか彼の口からは、本当に呪文が紡がれていた!

 アレックスの切り札、いまだ制御不能なその力に全てを託そうというのだ。


 肺が破れんばかりのアレックスの咆哮。

 咆哮と共に吐き出されたそれ(・・)は、もはや雷撃の域を超えていた。

 岩をも砕く破壊のエネルギー。

 ……だがそれでも脱出はかなわない。

 それほどまでに、土砂の量が多すぎるのだ。


『アレックス! もっと力を込めるんだ!』

「やってるよ! やってるんだ!! やってるんだよ!!!」

『君は今、怯えているんだ。無理もない、その力はあまりにも大きい、君は今までに何度もその力で傷ついてきたはずだからな』

 アレックスは、歯を食いしばったまま答えない。


『だが安心しろ! 【極装限武】は、そんな痛みで負けはしない!』

 アレックスを死なせたくない、

 否、自分が後悔したくないからなのかもしれない。


 理由はどうであれゴンゴンは叫び続けた、

 かけがえのない仲間を今度こそ失わないようにと!



 その叫びは、アレックスの心に強く響いた。

 周りの風景が様変わりしていき、まるで岩がアレックス達を避けているかのようだ。放出する魔力が増した事で、雷撃が結界のように彼らを守って ――ペキン(・・・) いるのだ。

 


 アレックスの内側で、何かが砕けた音がした。

 心が剥がれ落ち、徐々に砕け散るような感覚が広がる。



 ――バキン!

 そして、アレックスの中にあったそれ(・・)が、

 ついに致命的なほどに壊れてしまった。


「ガァァァァァァああ、アアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!」





 このしばらく後に、アレックスは理解した。







 それが、自分の中の限界の壁であった事を。

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