勇者になりたかった少年の話
アレックスメイン回です。
「アレックス、こっちの用意は終わったぞ」
「こっちも今終わったところだ、ダグラス」
「よし、改めて作戦の確認だが――」
現在アレックスとその仲間ダグラス、そして獣人の2人組は、女子供を避難させるために活躍していた。
「いいか、あの化け物どもには一定の行動パターンが存在する。奴らがこちらから意識を外した隙をついて、向こうの断崖絶壁……そこにできた裂け目まで走る、それで女子供は助かる」
「大丈夫か? こっちを追ってきたりとかしないか?」
「絶対はない! だが10数回この方法を試して失敗はなかった」
「分かった、出発の合図は……え~と「リュックだ、こっちはレオン」」
猫の獣人は自らをリュックと、相方のカメレオンをレオンと呼んだ。
今回の作戦はこうだ、
巨人達はより戦闘力の高い者を優先して攻撃する習性がある、そのためシリウスやディアーク達が巨人を誘導し、その隙にアレックス達が村人を安全地帯まで護送するという作戦だ。
「右の奴が動いたらこっちも動くぞ、女子供を下ろしたら次は男どもだ」
「「承知した!」」
巨人達と交戦中のシリウス達が敵を完全に引き付けるまで、アレックス達は物陰で息をひそめて待つことにした。
……ところで、何故アレックスは巨人と交戦していないかというと、それには深い事情があった。
新たな剣を手に意気揚々と飛び出していった彼は、初撃で自らの剣をへし折り、巨人の足踏みで平衡感覚を失い、巻き起こった砂ぼこりで吹き飛ばされて岩場にたたきつけられるという、それはそれは華々しい戦果を挙げ住民の避難誘導という大役を任されたのだ。
ダグラスが一緒なのも似たような理由だ。
「情けないな……」
アレックスは、そう溢した。
アレックス、彼は勇者にあこがれる平凡な少年だった。
吟遊詩人が紡ぐ、英雄達の物語に触発され故郷の村に別れを告げた、どこにでもいる普通の少年だった。
彼は数多の危険を掻い潜り、そして頼れる仲間達とも巡り合った。
彼は思った、
『自分達は伝説に名を刻むに相応しいパーティーだ、この先いかなる困難が襲い来ようとも全て退け魔王の喉笛をこの剣で掻き切って見せよう!』。
アレックスは、天狗になっていた。
ふとアレックスが視線を戦場に向けると、自らの鼻っ柱をへし折った男が、巨人を相手に大立ち回りを繰り広げているのが目に入った。
ゴブリン族の王ディアーク、彼との出会いでアレックスの人生は変わった。
2年前、クローリアで起こったゴブリン大量発生事件、そこでアレックスはディアークと初めて対面した。そこでアレックスは、ディアークがその場を去るまで身動き一つとれなかった、圧倒的実力差を本能で理解させられ、戦意を完全に失ってしまったのだ。
アレックスは何もできなかった自分を恥じた、そしてより一層の修練に打ち込むようになった。
そして手にしたのが、雷属性の魔術だった。
その力は制御を誤れば、自分も周囲の仲間も消し炭に変えてしまう危険なものであったが、過去に見たどんな技よりも絶大な破壊力を秘めていた。
「情けないな……」
戦場を舞うシリウスや、それを援護するため前線に残ったロゼッタやニダリーを眺めながら、アレックスは再びつぶやいた。
新たな力は、結局何の役にも立たなかった。
『自分には切り札がある、今はタイミングが悪くて使わないが、いざとなればどんな敵にだって負けはしない!』
そんな思いがあったから、アレックスは今日まで折れずに頑張ってこれた。
模擬戦でシリウスに負けた時もそうだ、全力を出し切れば勝っていたという思い込みがあったから、彼は敗北の後も平然としていられた。
赤竜との戦いで、シリウスが奥の手と、そのさらに奥の手を隠し持っていた事を知らなければ彼は今も平然としていられただろう。
『切り札は、誰もが隠し持っている』
その考えにたどり着いた、否、今まで目をそらし続けていた現実を突きつけられたアレックスは焦った。
鍛えぬいた技が通じないという事、それは自身の過去を全否定された事と同義なのだから。それはいけない、何としてでも否定しなくては。
そしてチャンスが訪れた――。
運命を狂わせた張本人が、目の前に現れてくれたのだ。
アレックスはその相手に、全身全霊をもって切りかかった!!!。
「情けないな……」
あたりを見渡せば、自身の雷撃で破壊された街並みが見えた。
ディアークへの攻撃は、何の成果もあげられはしなかった。
仲間を巻き込み、町を破壊して、住民に怪我をさせ、自信の身でさえ消し飛ばすつもりで放った一撃は、ディアークにかすり傷一つ付けられなかった。それどころか、途中で剣をへし折られ雷撃が飛散していなければ、アレックスは今ここに立ってはいなかっただろう。
――ス
――レックス!
「おい! ぼさっとすんな行くぞ! 走れ!!」
「はっ!!」
いかんいかん、今はこの人達を逃がすのが最優先じゃないか!
アレックス達は、安全地帯を目指して走り出した。
『市民を助ける、これだって立派な勇者の務めだ!』
アレックスはそう自分に言い聞かせて、苦虫をかんだような顔で足を速めた。




