ドワーフの里、危機一髪
「さて、問題はこれからどうするかだが……」
アレックス達は、沈みゆく太陽を眺めながら思案に明け暮れていた。
何故なら彼らは今ドワーフの里ごと、サバンナのど真ん中に転移してしまっているからだ。
ドワーフ達の多くは基本山暮らし、アレックス一行も山奥の農村出身の者ばかり、環境がまるで違うサバンナでこの先生き残る事が出来るか不安にならないはずがなかった。
幸いなことに、野生動物達がいきなり襲ってくるようなことは無かった。突如現れた巨大な何かに対して、警戒心を抱いているためだろう。
だがそれもいつまで続くかは、向こうの気分次第でしかない。
そしてたった今、彼らの気分が変わってしまったようだ。
「大変だ、獣共が集まってきてる! 20、30……まだ増える!」
見張り台にいた男が、声を張り上げて叫んだ。
転移による欠員の有無を確認する事を、優先したのが裏目に出たようだった。先にバリケードを張るなり、近くに罠を張るなりしておけば良かったのだが、後悔先に立たずであった。
――ザッ、ザッ、ザッ
野生に生きる猛獣達の足音が迫ってきた。多種多様な獣が、徒党を組み、群れを成し、人の縄張りをぐるりと囲み、アリの剥いでる隙間もないほどに囲まれてしまった。
ドワーフ族は、強靭な肉体を持つ種族である。だがそれは人間レベルの話であり、野生のライオン等と戦えば必ず負ける、無残に負ける、引きちぎられて肉塊になる。
「野郎ども武器を取れぇ! ドワーフ族の意地を見せるっきゃねえ!」
「そうだ、敵はたかが獣、ドラゴンに比べりゃなんでもねえぜ!」
「こっちには英雄御一行もいる、勝算は十分にある!」
ドワーフ達の足は、ガクガクと笑っていた。
みんな分かっているのだ、今が絶望的状況に変わりないという事を。
頼みの綱のシリウス達は、竜族との戦闘で疲弊している。里を守っていた結界もすでにボロボロ、ほんの一押しで崩壊し、愛する妻や子供達が野生の牙の餌食となる事が予想できた。そして武器を取り戦う男達も無事では済まない、命を落とす者、そうでなくても手足を引きちぎられる者は大勢出るだろう。
そのような状態で生き延びたとして、果たしてこの先生き残れるのか? だが迷っている暇はない、ここで武器を取らなければ可能性は潰えてしまうのだから。
「おっしゃぁぁぁ! いくぜ野郎どもぉぉぉ!」
「待ちなされ、あれは妙ではないか?」
「長よ、やはりそう思いますか?」
シリウスとドワーフの長は、今の状況に違和感を覚えたようだ。
理由は2つ、
1つは、群れが大きすぎる事。たとえ群れで狩りを行う動物であっても、今のようにアリの這い出る隙間もないほど集まるのはおかしい。
2つ目は、肉食、草食の動物が入り混じって群れを形成している事。これは明らかにおかしい、目の前に餌があるのに何故見知らぬドワーフ達に狙いを定めるのか。
「誰かが奴らを操っている……その可能性が高い」
「何だって! 探せ! どっかにリーダーっぽい奴がいるはずだ、そいつを倒せば奴らは逃げていくはずだ!」
にらみ合い、今にも飛び掛かってきそうな獣達を刺激しないように、視線だけで探りを入れるドワーフ達。そもそもリーダーなんていないかもしれない、見た目だけでは判断がつかないかもしれない。だが、縋り付くには十分すぎる希望だった。
「ガルルルゥゥゥゥゥゥ!!」
「ひっ! ダメだ見つからねえ! 戦闘準備、もう殺るしかねえ!」
――ザザ……
その時、風が揺らいだ。
それは開戦を告げる合図か、はたまた作戦成功を確信した故の油断だったのか。どちらにせよ、この騒動の犯人にとって、その一瞬が命取りとなった。
「そこでござる!!」
宿屋の店主の健脚がうなりを上げ、拳大の石を虚空へと蹴りだした。
本来であれば何事もなく空を切るはずの石は、まるで誰かに受けてめられたかのように空中で停止した。
「ちっ、退却でござる」
「逃がさんでござる、ゼイヤァァ!「ぎゃう! む、無念でござる」」
姿は見えないが、恐らく犯人は倒されたのであろう。その証拠に里を取り囲んでいた動物達は、自分達の縄張りまで帰っていった。
「よくやったぞ店主」
「もしやと思い、里の中を注視していたでござる。発見できて、幸運でござった」
「で、こいつは何なんだ?」
「うわ、ギョロっとしてて気持ち悪ぅ」
騒動の犯人は、カメレオンであった。ただし人間と同じくらい大きく、2本足で歩きだしそうな体形をしていた。
その姿を見たシリウスは、独り言のようにつぶやいた。
「……こいつ、獣人か?」




