第60話 嵐の前が静かだとは限らない(ホルス視点) (ここが最新話です)
それは、プレアデス達が王都上空に到着する少し前の事。
そこにはイオルムガルド城へと潜入をもくろむ、3人と1匹の姿があった。
にょきにょきと芋虫が城壁を登り侵入すると、仲間達を招き入れるべくロープを投げた。
(おーいセザンヌ、見張りはいないか?)
「フェフォフォ!(いないよ)」
(ばか、声が出けえよ)
「フェッフォ(おっと)」
安全を確認したのちセザンヌに続く形で、ホルス、エムルロン、そして路地裏で助けた娘のブッキーの3名も城への潜入に成功した。
大量の神器を操る謎の男デボニアを撃退したホルス一行は、エムルロンと名乗るドワーフの娘からイオルムガルド王国に迫る危機を知り解決へと乗り出していた。
因みに撃退したデボニアだが、大した情報をもっていなかったため適当に拘束してその辺に捨てられた。
ホルスは身を隠しながら、エムルロンから話を聞く事にした。
潜入した場所は倉庫だった。薄暗く隠れ場所も多い。彼は。少しでも落ち着けている間に情報を整理したかった。
「さてと……改めて、話を聞かせてもらえないか?」
「了解であります!」
彼女がまず語りだしたのは、半年はど前の王都の話。
彼女が宮廷鍛冶師として、この国に招かれた頃の話だ。
そこで彼女は、竜殺しのための武器をひたすらに作り続けていたという。
「イオルムガルドの王様は、言っていたであります。竜族と和解するために……人と竜が対等になるために、強力な兵器が必要だと……そう言っていたであります」
ホルスは、その言葉に疑問を抱いた。
今まさに王宮から放たれている破壊兵器の威力は、あまりに強大すぎる。これでは竜族と話し合いを始める前に、この国が滅んでしまうであろうと。
「で、嬢ちゃん、こっからが本題だな? この国に何があったんだ?」
エムルロンは2、3度唇を濡らした後、こう答えた。
「王は……国王陛下は……ある男によって殺されたであります!!」
「何だって!!」
今から数ヶ月前、兵器開発のメンバーに新たな仲間が加わった。
その男はとても優秀な男で、彼の活躍により兵器の開発計画は年単位で前倒しされる事となった。
王はその成果を見て、たいそう喜んだ。
まさか、その男に殺されるとも知らずに。
「今玉座に座っているのは、その男であります。奴は王を殺した後、王に成り代わりこの国を支配したのであります!「ちょっと待ってくれ! いくらなんでもばれるだろう、双子でもあるまいし!」」
「それが出来るでありますよ。奴は、他人の見た目も記憶も能力も、ほとんど同じようにコピーできる、そういったマシンを扱うのが得意な奴なのでありますよ!」
ホルスはかつて存在したという、人工牛についての記述を思い出した。
人間の都合でいくらでも生み出せ、無限に食せる夢のような技術。だがその技術は、採算が合わないという理由で研究開発が中断されていた。
牛がコピーできるなら、同じ肉の塊である人間がコピーできても別段おかしくはない、ホルスはそう考えた。
エムルロンは、さらに続けた。
男は王に成り代わった後、王の権限を行使し国の資産や技術者達を自らの目的の為に利用しているのだと。
「目的……兵器を量産して世界征服……とかか?」
「近いでありますが違うであります。奴の目的は世界中で戦争を起こす事、各国に強力な兵器を売りつけて巨万の富を得る事であります!」
「……金の為に戦争……だと……」
ホルスは静かに怒っていた。
「自分は鍛冶師ゆえ、【目利き】の技術があるであります。おかげで乗っ取りに気づく事ができたでありますが……気が付いた時には国の役人達は皆、奴の手下とすり替わっていたであります」
自分がもっと早く気が付いていれば、エムルロンには後悔があった。
技術が認められた事がうれしくて、夢中で仕事に打ち込んでいたばかりに、周りの変化に気が付く事ができなかった。
「自分が、自分がもっと早くに気が付いていれば「そいつは違うぜ」」
エムルロンの後悔を、ホルスは即否定した。
もし早期に気が付いていれば、彼女は間違いなく消されていたであろう。計画が進行し、敵に油断や隙が生まれたからこそ、今こうして生きていられる、国の危機を皆に伝える事ができるのだと、ホルスはそう言って聞かせた。
「あのぉ~」
「ん? ブッキー、何か気になる事でも」
「あ、はい! 改めまして、ブッキーといいます。えと、実は私、この国で作られた対竜族用人型兵器の1体なんです!」
割とショッキングな内容にさらりと付け足すように、ブッキーは続けた。
・神々が扱う事が出来るという転生の技術。
・物や物質に魂が宿るといわれる付喪神の存在。
ブッキーは、まずその2つについて説明した。
「実は私、エムルロン様に鍛えていただいた聖剣のレプリカに魂が宿った存在なのです。その魂を人工的に作られた人の器に移し替える事で私という人間は生まれてきました」
「「………………」」
ホルスとエムルロン、2人は開いた口が塞がらないといった様子だった。
神の御業を真似て作られた人造人間。自分達が今まで接していた人物がただ物ではない存在だったことにも驚いたが、それらを可能にする技術者の存在に驚きを隠せないでいた。
「ブッキー聞かせてくれ、君を生んだのは例の王殺しの男か?」
「気が付いたら研究室にいたので断定はできませんが……少なくとも、その仲間の誰かだと思います」
それを聞いて、ホルスは思わず吹き出してしまった。笑う以外感情の矛先が思いつかなかったのだ。自分達がこれからケンカを売ろうとしている相手は、もしかすると神にも匹敵する相手かもしれないのだから。
「あの、続けても?」
「おおう、すまん、続けてくれ」
「私達……仮に武器人間と呼びますが、この体を作るのにも技術者は勿論、強い体を持った戦士や武闘家、冒険者の方々から細胞を集めていたみたいで。中には女の人も何人かいたみたいで。そうそうその中に1人、全身傷だらけで強そうではあったんですけどすごい美人な方がいて、もったいないなぁ~、冒険者なんてしなくても十分に食べていけるだろうにって」
そこまで言って、周りの空気が変わったのをブッキーは感じた。
大事な場面で戦局に関係ない話に話題を反らしてしまったのだから、彼らの反応は当然だろう。彼女はそう考え話を戻そうとしたのだが、当の彼らがそれを遮った。
「「それだぁぁぁ!!」であります」
「え? え? えええ?」
「テニシラって名前じゃなかったか? その傷だらけの美人!」
「ホルス殿!? ホルス殿もテニシラ殿と知り合いでありますか?」
なんとエムルロンは、テニシラの知り合いだった。
数年前に起こった事故により家族や友人と離れ離れになってしまった彼女は、自身の腕を振るいながら旅を続け情報を集めていたらしい。その道中、彼女はイオルムガルド王に腕を買われ宮廷鍛冶師として働くようになったようだ。
結局、旅先でもこの国でも、知人との再会はおろか情報1つも得る事もできず今に至る。
ブッキーは2人に急かされる形で、テニシラと思わしき人物の特徴を話した。
「テニシラ殿、それはテニシラ殿で間違いないであります!」
「フェフェルフォフォフォーーー!!」
この瞬間、エムルロンとセザンヌ2人の心が1つになった。
「無事でいてくだされテニシラ殿。必ず救い出して一緒に国に帰るであります!」
「フェフェルフォフォフォーーー!!」
「よっしゃ、おれっちも気合入れていくぜ! 相手がどれだけ強大だろうとぶるってちゃなんも始まんねえ!」
やる事は決まった。
3人と1匹は武器を手に、隠れ潜んでいた倉庫を後にした。
目指すは玉座の間、事件の黒幕を倒すべくホルス達は最短距離で駆け抜けた。
「なん……だと……」
部屋は既に、ズタボロになるまで破壊されていた。
たどり着いた玉座の間には先客がいた。そいつは部屋中の人間を皆殺しにし、今まさに王と思わしき人物にとどめを刺したところであった。
部屋に残されたのはホルス達3人と1匹、そして王にとどめを刺した禍々しい黒鱗に覆われた竜、そして……
「いやいや、お見事。素晴らしい戦闘力、おかげでいいデータが取れたよ」
「……ただの影武者か、これは。手間取らせやがって」
部屋の奥から遅れてやって来たのは、白衣の男だった。
だが決して細身というわけではなく、きちんと鍛えられ筋肉がそれなりに発達した健康的な肉体をしていた。
そして何よりも特徴的なのが、黄金のような金髪がオールバックにされたその頭であろう。恐らく筋肉よりも気を使われていると思われるその頭が、彼の存在感を際立たせていた。
「おい、奴のシャツを見ろ、あのロゴマークは……」
ホルスが指摘したそのロゴマークは、つい最近知ったばかりのものだ。
犯罪結社ビースト、彼らを暗示するマークに他ならなかったのだ。




