第57話 卵から孵化した直後は幼年期I 、そこからしばらくして幼年期IIになるぞ
「おお、われらが女王陛下、いますぐお助けいたしますぞ」
「な! 誰だあんたは!?」
ルノワールをさらったキルモーフを追いかけた先にいたのは、トウモロコシのようなひげを生やした、しわくちゃのナスビだった……。
「誰がなすびじゃい、ぼけぇ! わしはここの長老じゃぞ」
「長老?」
ナスビの叫び声に反応して、ひょこひょこと大勢のキルモーフが物陰から顔を出した。どうやらここは、キルモーフ族の住処らしい。
「おっと、そんなことより支度じゃ支度、早く陛下をお助けせねば」
「……治るのか、治るんだな! ルノワが!!」
「ルノワ、うむ良い名ですなぁ~、ええもちろん、ささ陛下をこちらへ」
長老と共に、プレアデスは森の奥に進んでいった。
「原因は極めて単純、マナの不足でございます。最近この国ではマナの不足が問題になっており、まあいろいろと被害が出ておりますじゃ」
「マナ? なんだそれは、食べ物か何かか?」
「おや、ご存じない? こう、何と言いますか、地面から湧き出してくるモヤモヤしたエネルギーでございます。人間界では、何と呼ばれているか存じませんが」
「もしかして、天力の事か?」
プレアデスは、天力を放出して見せた。
「おお、まさしくそれでございます!」
「ほう。……ところで、なんでルノワを女王陛下なんて呼ぶんだ? あんたとは初対面のはずだが?」
「何でと言われましても、それが我ら虫族の定めと言いますか、本能と言いますか……ともかく我々はこの方とその血族をお守りする運命にあるのです!」
そう言って、長老はグッタリしたままのルノワを優しくなでた。
そして歩くこと数分、目的地にたどり着いた。
「つきましたぞい、ここが我らの聖地。小さな聖域ではありますが、ルノワ様を救うには十分と思われます」
「……ほんと小さいな、おい」
プレアデスは、畳2枚分ほどの区画を指さしてそう口に出した。
そこは聖域と呼ぶにはあまりにもこざっぱりとした、ただ丸太で囲まれただけの空き地だったのだから、そうぼやきたくなるのも仕方がない事だろう。
少々不安に思うプレアデスだったが、その不安は全くの杞憂だった。
長老がルノワールを地面に寝かした途端、変化はすぐに表れた。
黄金色の光が地面からあふれ出し、うねるようにしながらルノワールのもとに降り注いだのだ。溢れんばかりのマナの洪水、町1つ分に匹敵するエネルギーがこの土地には秘められていたのだ。
この地が聖域と呼ばれる所以、それを理解させられた瞬間だった。
「終わった……のか?」
「うぅ~~、ぱぱ、花火花火「ルノワ! 元気になったんだな!」」
ルノワールに駆け寄り、思いっきり抱きしめるプレアデス。
「う、うう、ルノワ様ぁ~~~、ご無事でなによ「やぁぁぁぁぁぁ!!」ごふ」
ルノワの頭頂部が、長老に直撃した。
「ぱぁぁぱぁぁぁ、しわしわナスビのお化けぇぇぇぇぇぇ!!」
「こらこら、命の恩人だぞ、ちゃんとお礼しなさい「やぁだぁぁぁ!」」
ルノワールの癇癪に比例するように、彼女の体が再び輝きだした。
「た、大変じゃぁぁぁ、まさかまさかまさかぁ!」
「おいどうした! 今度は何が起こるんだ!」
「う、うう、ルノワ様が……進化なさるのです、今から。ううう、まさかまさか、陛下の成長を見届けられるとは、末代までの誉れでございまするぅぅぅ」
そう膨大なマナの接種をきっかけに、ルノワールは進化しようとしていた。
幼年期から成長期へ、そしていずれは完全体へと進化を遂げ、キルモーフら虫族を束ねる王として君臨する事になるのだ。
――だがそれは、もうしばらく後のお話。
こうして、無事ルノワールの成長を見届けたプレアデスは、竜族と人族との争いの仲裁役として立ち回り、この地に平和が戻りましたとさ。
――新大陸編 完!
とまあそんなにうまく話が転がるわけもなく――――




