第56話 娘がピンチのため、ちょっくらドラゴン滅ぼしてくる
「うおおおおぉぉぉおおおおおお!!」
朝日に照らされる山道を、風のように駆け抜けるプレアデス。
竜族と人族の間に緊張が走る一触即発のこの状況下では、1分1秒が重要だ。
がしかし、そんな鬼気迫る状況でこそトラブルは起こる。
「ルノワ! おい、ルノワール! 頼む、目を開けてくれ!!」
「…………」
返事はなかった。
山を越え、谷を越え、王都周辺の森に差し掛かった時、突如としてルノワ―ルが高熱を出し苦しみ始めたのだ。
八方手は尽くしたが成果はなく、症状は悪くなるばかり。
最初のうちは「熱い」「苦しい」と漏らしていた声も次第に弱くなり、今では息をするのがやっとの様子だ。
「まだだ、【天眼】………痛っ!」
プレアデスは【天眼】を起動させ、ルノワールの容態を確認しようとした。
だが、うまくいかなかった。
【天眼】は、世の中を色眼鏡をかけることなく、ありのまま認識できるようになる能力であって、決して自分の望む答えがそのまま浮かんでくるような便利なものではない。
あくまで情報が全て見えるだけで、それを取捨選択するのはプレアデス自身だ。
そして、痛みや苦しみの情報が大きくなりすぎている現状、取捨選択の作業は困難を極める。
「そうだ! 【オーダー】なんでもいい、この子を治してくれ!!」
『拒否します、下界への過干渉は禁じられています』
天界から、事務的な返答が返ってきた。
「――そうだ医者! 王都に行けば、病院があるはずだ!」
目的地は変わらない、予定を少しだけ修正するだけで事足りる。
そう考えたプレアデスは、ルノワールをしっかりと抱きかかえなおした。
「待ってろよルノワ、すぐ病院に――――あいつらっ! もうこんな所まで!」
見上げた空の先には黒竜の軍団、黒の軍勢がまるで雨雲のように迫っていた。
「ルノワ、すぐ戻るからな」
ルノワールを地面に下ろし、空へと飛び上がるプレアデス。
大きく一呼吸――そして、こう叫んだ「止まれ!」と。
殺気を隠さぬプレアデスの叫びは、戦場に赴く竜族をもひるませた。
「おいお前達、選ばせてやる。ここで死ぬか? 引き返すか?」
ドワーフの里に襲撃があったのは昨日の事、そこの部隊が全滅した以上つぎの襲撃までには準備期間を設けるはず! そう考えていたが、現実は違った。
当初の計画では、両軍がぶつかり合うまでの数日間を利用して平和的に解決する予定だったが、時間に余裕がなくなった今、その計画は水泡に帰してしまった。
なので、竜族にはここで退場してもらおうとそう考えた。国の抑止力がなくなってしまう事にはなるが、時間さえあれば海外からの侵略者でもなんでもおとなしくさせられる、そう考えての計画変更だ。
もちろん、おとなしく彼らが引き下がってくれれば、それが最善ではあるが。
「引き下がる分けにはいかねえ! 王都の奴らは本気でオレ達を殺しに来る、やられる前にやるしかオレ達に道はねえんだ!」
――キィィ
プレアデスは【天眼】を起動させ、情報を引きずり出しにかかった。
彼らの頭の中は今、王都の事でいっぱいになっている。こういった相手や状況でこそ、【天眼】はその力を最大限に発揮できる。
これにより判明したのが、国の役人の中に竜族のスパイが紛れ込んでいた事だ。
さらにそのスパイからの情報によると、いつごろからか王都の人間達が兵器開発に躍起になっていた事、その矛先が竜族に向けられていた事、その兵器がもうじき完成するという事が分かった。
『引くに引けないわけか』
プレアデスは思った。
「事情は、だいたい分かった。俺が片をつけるから、今日は帰ってくれ」
「馬鹿を言うのも大概にしろ! オレ達には「こんなガキにぶるってるお前達が、本気で向こうの連中に勝てるとでも?」」
『実力差が分からないようなら、見せしめで何体かつぶすか? 俺に竜族を救う義理はない、人間を守る事が俺の役割だからな。それにルノワを医者に連れて行かないと――』
そんな事を考えながら、下を見るとルノワールの姿が消えていた。さらによく見ると、1匹のキルモーフが彼女を連れ去っているではないか。
「やばっ! おいお前ら、俺は少し離れるけど勝手な事するなよ!」
プレアデスは、そう言い残して地面に降り立った。
「……団長、今のうちです、行きましょう」
「――命令だ、その場待機! 奴を敵に回すわけにはいかねえ」
「いえ、しかs「復唱ォ!」はっ、団長命令、その場待機!」
黒竜達は、宙にとどまったままプレアデスを見送った。




