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怠惰の神候補   作者: タイト
新大陸編(前編)
53/74

第53話 無駄に洗練された無駄のない無駄な動きが、黒竜を葬る

 里のはずれ、清らかな水が流れる川のほとりに、プレアデスは寝そべっていた。全身、竜の返り血にまみれ、自らが葬った竜の死体に囲まれながら身動きが取れないでいた。

 彼に天下無双の力を与えていた【神化】の反動によって、全身の筋肉が裂け、骨は砕け、それでも更に気合とど根性と天力を駆使して戦い続けたのだから無理もない。


 だが、力を使い果たしたからと言って、動かないわけにはいかなかった。赤竜との交戦中に戦場をかすめていった黒い影、圧倒的な殺意を持った何者かが里の方に向かったからだ。

「もう無理だ休め! その状態で向かっても死ぬだけだ、寝てろ!」

 頭の中に浮かんできた弱音の数々を、プレアデスはすべて無視した。


「骨が折れたとか、肉が裂けたとか、魔力が尽きたとかとかとか! 動かない言い訳なんてどうでもいい!! 俺がやんなきゃ誰かが死ぬんだよ、今必要なのは言い訳じゃない、この状況の打開策だ!!!」 

 自らを奮い立たせるようにそう叫ぶと、プレアデスは意識を集中した。そして思いついた、この状況の打開策を。


「【オーダー・癒しの波動】……」

『【オーダー・癒しの波動】承認されました、発動まで5分お待ちください』

 プレアデスは、天界に助けを求める事にした。


 神や天使と言えども、決して無敵ではない。そんな彼らが下界にて大いなる脅威に出くわしたとき、その脅威に対処するために天界から支援を要請することが出来る、それが【オーダー】だ。

 神話の時代に記された、大洪水や大寒波などは当時の神々が【オーダー】によって起こしたものだ。


「ぱ――み――」

 永遠のように長い5分が始まって数刻、何者かの気配を感じた。

 まだ【オーダー】成立には数分ある、ここで敵に見つかったらまず助からない! プレアデスに緊張が走った。


「ぱぱ~、おみずおわった~」

「ル、ルノワ!?」

 草むらをかき分けて姿を現したのは、水桶を抱えたルノワールだった。彼女は一通り水を配り終わった後、プレアデスに水を渡してない事に気が付き、今の今までプレアデスを追いかけてきていた。


「ルノワ、なん「のむのむ~」おがっ!」

 体の自由が効かないプレアデスに、ルノワールは無邪気に、無慈悲に、生ぬるい液体を流し込んできた。鼻や気管にまで流れ込んだそれから、顔を背ける事も、むせかえる事も出来ず、ただただ受け入れる事しかできないプレアデスは、陸の上で窒息するしかない状況に追い込まれた。



『貴方に、我が力の一端を与えましょう』

 遠くなる意識の中で、天にも届くほど巨大な金色の美しい龍の姿を見た。


「!!  誰だあんた! ……幻……だったのか?」

 目を覚ますと、元いた川のほとりだった。

 そして、自分が自力で体を起こしている事に気が付いた、痛みもない。だが【オーダー】成立にはまだまだ時間があった。一体何が起こったのか、プレアデスは首を傾げ――無かった。


「ルノワ、戻るぞ!」

「きゃはっーい」

 プレアデスは、ルノワールを抱えて地面を蹴った。

 理由なんてどうでもよかった。体が自由になった、その結果だけで十分だった。


 風を置き去りに、プレアデスは走った。

 森を抜け、林を飛び越え、抜けた先にはドワーフの里が――。


「見え――――無い!」

「よお、待ってたぜ、大将さん」


 少し前までドワーフの里があった場所には、砂と岩で出来た荒野が広がっていた。荒野の中に生き物の気配は無かった、ただ1体、黒竜の剣士を除いては。


「ふいぃ~、退屈過ぎて死にそうだったぜぇ。暇つぶしに剣を振る相手もいなくなってどうしようかと思ってたところだ」

 そう言って、黒竜の剣士は腰かけていた岩……とプレアデスが思っていた竜の死骸を持ち上げ、塵じりになるまで切り裂いた。


 ――ヒンッ

「ボケっとしてると、殺すぜ「な!?」」

 死骸で遊んでいた黒竜は、一瞬にしてプレアデスの目の前に接近していた。


 ――ザンッ

 剣士の大剣が風を鳴らし、プレアデスの首を切り落とす。その未来を予感したプレアデスは、敵の股下をくぐり背後をと――れなかった。剣の重さを利用して体を反転させた黒竜は、体勢の整わないプレアデスに剣を振り落とし、その命を絶った――つもりだったが、その場所に標的はいなかった。


 ――ドゴン!

 プレアデスの拳が、竜の後頭部を捉えた。

 

 敵が背後を狙う事を事前に察知したプレアデスは、敵の股下で攻撃を回避。振り終わりのため、硬直せざる負えない竜の背後を取り拳を振るっていたのだ。

 だがその一撃も有効打にはならなかった、敵が前のめりに重心を傾け体を前方に流したからだ。両者はいったん距離を取り、体勢を立て直した。



「ほほぉう、【天眼】に目覚めた奴に出会えるとは、オレ様も運がいい」

「【天眼】? 何の話だ?」

「この距離で聞こえたか、いや見えたか。名前は俺様の適当よぉ、つまり古今東西、森羅万象を見通す技だ。あんたも見えたんだろぅ、オレ様の動きが、自分の未来が」


 プレアデスは、相手が何か勘違いしていると思った。

 自分がしているのは周囲の状態を隅々まで確認しているだけで、それさえできれば自身の身体能力と照らし合わせて、その時々に合わせた最適解を誰でもはじき出すことが出来る、別に未来をのぞき見しているわけではないと。

 だからプレアデスは警戒心を強めた、相手は未知の能力を持っている、奥の手を隠している余裕は一切ないと考えた。


 実際には黒竜もプレアデスと同じように、高度な先読み能力しか持ち合わせてなかったのだが、カッコつけて森羅万象だの、未来が見えるだの口走ってしまった。……それが圧倒的な敗北に繋がる要因になってしまうとは、この時の彼は微塵も考えていなかった。


 結果だけ言えば、この勝負プレアデスが勝つ!


「すぅ~~~はぁ~~~」

 プレアデスの深呼吸を許してしまった、黒竜の敗北が決定した瞬間だった。


「――――グハッ! ゴハッ! ギャ「わざとらしい! 全部見えてんだろ!」」


 プレアデスの作戦、それは圧倒的な身体能力を持って回避不能な敗北を相手に刻み込む事。

 その為に天力による強化をもう1段階上の次元へ、【神化】から【超神化】状態へ、身体能力を200倍から400倍へと――強化しようと考えたが流石に身が持たないと判断し、374倍で我慢した。


 黒竜はボロボロだ、だがプレアデスは止まらない! 未来が見えたのならこの状態も計算のうち、むしろ演技である可能性が高いと判断し、追撃の手を緩めなかった。

 防戦一方の黒竜は、プレアデスのスタミナが尽きてくれることを祈るばかりであった。


『【オーダー・癒しの波動】発動します』「時間ぴったりだな」

 【オーダー】の要請から5分が経過し、プレアデスの肉体は完全復活を果たした。黒竜の祈りは、聞き入れられなかったようだ。


「仕上げだ【天界武闘・双拳乱舞】!」

「……これ以上、何をする気だぁぁぁぁぁぁ!」


 天界武闘、それは戦神達が編み出した戦闘技術の総称だ。

 人間の武術が技と技との間の、隙と無駄をそぎ落とす技術だとすれば、天界武闘は筋肉や血流の流れを意識し、天力による強化効率を最大限に高める技術といえるだろう。

 腕を大きく広げたり、足を高くまで上げたり、必要以上に高くまで飛び上がったりと、人間目線で言えば非効率なばかりで派手な動きが目立つが、それらは全て天力を効率よく作用させるための予備動作であり必要な行動だ。


 そして今、無駄に洗練された無駄のない無駄な動きによって、プレアデスの肉体を物理限界さえ超越する事まで可能にした!(超越したとは言ってない)。



 ――ゴシャァァァ

 最後の拳が撃ち込まれた時、黒竜の姿はそこにはなかった、粉々に砕け散ったからだ。肉体を自己再生できる可能性を考慮して、ミリ単位の肉片になるまで叩き潰したからだ。


 ……戦いは終わった、思いの外あっさりと。

 だが、黒竜に殺された人々は戻ってこない――。




「死んでいませんよ、今のところは――ですが」

「誰だ!」


 振り向いた先には、幼い天使がいた。自身の身長より大きな槍を携えた、その槍のようにほっそりとした出で立ちの少女がそこにいた。


「突如、この土地に魔王が現れ、中規模転移を行いました。この荒野は、それによって生まれたものです」

 少女は事務的な口調で、そう答えた。


「魔王、何でそんなのがここに!? 魔王城とかにいるんじゃないのか? というか、そんなのと一緒で俺の仲間は本当に大丈夫なのか?」

「ですので、今のところは――と申し上げました」

「なら今すぐ助けに行かない「なりません、貴方にはお勤めがございます」」

 プレアデスの意見を無視して、少女は続けた。


「貴方には神候補として、この島で起こっている事件を解決していただきます。それが叶わぬ場合、多くの血が流れる事になるでしょう、心してかかってください」

「いやそれより魔王「テニシラ様もこの件の被害者ですが」え、テニシラさん!」

 少女の口元が、怪しく吊り上がったような気がした。


「自己紹介が遅れました、ワタシの名はサハクィエル、天界より派遣された天使です。ではご自分の行動をご決断ください、この島に残るか、島を出るか、それとも――」


 まるでプレアデスの選択を急かすように、水平線から朝日が姿を現した。

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