第52話 竜をも屠る黒き刃
「おお、凄い威力だ……」
「これなら、行ける……かも」
「よーし、もう一発「駄目だ」えーでも「駄目ったら駄目だ」」
シリウスがいましがた放った、【ルシファー・キャノン】は彼の切り札の1つだ、短時間で連発できる代物ではない。体力、天力、集中力を大きく消耗してしまい、24時間で4発が現在の最大発射回数で、もう1発撃とうものなら即戦闘不能に陥ってしまうだろう。
というふうに、ロドリエス以外には話している。
正直に言ってしまえば【ルシファー・キャノン】は、16連射まで可能だ。ヴァンガードそしてドレッドノートに装填された計16発の魔弾には、シリウスの天力を充填、保存してあるためだ。
確かに今すぐ全弾撃ち尽くせば、敵を殲滅できるかもしれない。だが敵に回避されたり、増援がいたりすればその時点で敗北が濃厚になってしまう。より多く、より確実に敵を打ち落とすために、もうしばらくは撃たない、そう判断を下しシリウスは引き金から手を放した。
1発使用して残り15発、使わないで済むことを彼は祈った。
「見ろ! 奴らは今の攻撃を警戒し、陣形を広げざる負えなくなっている。勝機はそこにある、敵を各個撃破しプレアデスの合流まで持ちこたえるんだ!」
現在の最大戦力は、【神化】により戦闘力が200倍にまで膨れ上がっているプレアデスで間違いない。彼が到着し勝負を決めるか、それとも敵がこの里を全滅させるのが先か、そういう勝負なのだとシリウスは結論付けた。
「ミルザム、シールド展開! ポラリス【サーチ・アイ】を飛ばせ! 敵の位置情報を洗い出せ」
「わ、わかったのだ」「あいよぉ~」
ミルザムの大盾が輝き防御壁が展開され、時を同じくしてポラリスの周囲から、目玉のついた野球ボールの様なものが現れ宙を舞った。
シュタッ、シュタッ、シュタッと、ミルザムの盾を足場に上空まで駆け上がる影があった、ゴンゴンだ。彼は手ごろな竜の背に飛び乗り、そいつの全身をドカドカと殴り始めた。
「がっはっはっは! 肩叩きかよ、おい。素手の攻撃が効くかっての」
「ああ分かってるさ、ダメージが目的じゃないからな」
――ドカドカドカドカドカコンドカドカドカ
ゴンゴンは、僅かな手ごたえの差を敏感に感じ取った。
「ここか……ふん!!」
「ぐえっ、痛ぇなクソが!」
ゴンゴンの1撃を受けたドラゴンは、僅かだが動きが鈍くなっていた。
彼が狙ったのは首でも腹でもなく尻尾、鞭のように振り回すために硬さを捨てざる負えなかった部位だ。尻尾は地上や空中でバランスを取ったり、ブレーキに使用されたりする重要な器官だ。そこにダメージを受ければ、例えドラゴンと言えども動きは確実に鈍る。
「みんなー! 今の場所が奴らの弱点だー!」
ゴンゴンは、竜の反撃をかわしながら、そう叫んだ。
「先から約2メートル、そこが最も有効打になる、装甲が薄く神経が多い場所だ」
「彼に続くぞ、ダグラス!」「おう!」
聞くが早いか、スーパーノヴァの前衛組も飛び出した。ゴンゴンを含めた3人で、竜の首、翼、尾にそれぞれ同時に攻撃を仕掛けた!
結果だけ言えば、攻撃は失敗した。敵は1体だけではない、周囲の竜達が連携しあい攻撃は回避され、逆に骨が砕けるほどの手痛い反撃を受けてしまった。
「次弾装填【ルシファー・キャノン】!」
敵の反撃さえも好機だと、シリウスは捉えた。仲間の援護を行い密集するはめになった竜達に向けて、再度シリウスは引き金を引いた。
残りの敵は最初の8割、残弾は14発となった。
単純計算で、今の攻撃を後8回繰り返せば敵を殲滅できる。だがそれには問題が3つ、1つは敵の増援の有無が分からない点。2つ目は――。
「「燃え尽きろ人間どもぉぉ!」」
2つ目は、敵も当然攻撃してくるという事。防御に魔力や体力を消耗していては、最後まで絶対に持たない。
そう思いながら、左右から迫りくる灼熱の壁に向けて【ルシファー・キャノン】を放ちかき消す。射線上にいた敵も一緒に打ち抜いたが、巻き込めたのは5体、2発撃ってたったの5体だ。
「くぬ~~、ぷはっ! 回復完了なのだぁ……」
「こっちもです……でも私の方はもう魔力が……すみません」
そして3つ目、回復の速度がまるで間に合ってないという事。回復役が2人いてこの速度だ、その間に何回防御が必要になるか、それで弾が持つか? 答えはNоだ。
目の前に広がる現実は、あまりにも非常で残酷だった。
「【魔装・滅竜鋼】!」「【ガルルルゥ(アルドラレーザー)】!」「【デスハリケーン】!」
「「「「ギャアアアアアア!!!」」」」
「な!? お前達!」
現れたのは、里の反対側の防御を担っていた仲間達だった。里のインフラ設備を守るために配置についていたが、戦力の分散は愚策、全滅の危険ありと判断し合流して来たのだ。
「やはり、合流して正解でござったな」
「微力ながら、吾輩の力もお役立てください」
「わんわん」
シリウスは無言で、上着の中から新たな武器を取り出した。
一言で表すならば、2枚の大きな三角定規。白き刃ヴァイス、そして対となる黒き刃シュヴァルツ、リザードマン達に特注したシリウスの近接戦闘用武装兵器だ。
――リンッ
静かな投擲。シリウスの手から放たれたシュヴァルツが、奇襲を受け隙が生まれた竜の首を音もなく跳ね飛ばした。
「ロドリエス、お前に俺のヴァンガードを預ける」
「承知しました」
「ポラリス、お前にはドレッドノートを預けておく」
「いいのか、シリウス?」
「ああ、隙が出来たら構わず撃て、いいな」
そう遠くない場所に火の手が上がった、手薄になった場所を奴らが攻撃しているのだろう。明日から住む場所は? 食料は? 仕事は? シリウスはそれらの雑念をねじ伏せた、今を生き延びるために。
『シリウス俺だ!』
『プレアデス! すぐ戻れこっちは『逃げろ! 全りょ――――』』
ところで世の中にはこんな言葉がある、底まで落ちたら後は這い上がるだけ、最悪の状態はそれ以上悪くなるはずがないという意味だ。
「うん、底があるといいね」
絶望を司る悪魔がいたなら、きっと笑顔でそう答えただろう。
夜の暗闇をさらに塗りつぶすように、そいつは姿を現した。
黒い鱗に覆われた全長2メートルほどの竜だ、背中に身の丈ほどの剣を携えた黒竜の剣士だった。
「よお、戦争すんなら、オレ様を忘れんなよ」
「な!? 貴様――――」
黒竜の剣士は、その場にいた赤竜全てを殺気一つで黙らせた。
「おーい、そこの猿ども、今からお前らはオレ様のおもちゃだ、ぶっ壊れないようせいぜい頑張れぇ」
「「「「…………」」」」




