第51話 夜を払う者
「ぎゃあああああああ! お助けぇぇぇぇぇぇ!」
「ドラゴンがあんなおっかねえなんて聞いてねえよ!」
「嫌だぁぁぁぁ、死ぬぅぅぅぅぅぅ!!」
赤竜の大群が里に襲来してすぐ、戦闘に参加した冒険者から叫び声が上がった。
ところで、冒険者とはどのような存在だろう。
魔王討伐を目指す勇者様だろうか? 故郷を追い出された犯罪者だろうか? 一攫千金を目指し、財宝を探し求める者達だろうか?
それらは等しく冒険者に間違いない、だが一般に冒険者と呼ばれる人々の大半は、普通の商人である。村の外から来た見ず知らずの人間に対する総称、それが冒険者という言葉の意味するところだ。
そして今、叫び声をあげている彼らも、ただの商人に過ぎなかった。
彼らは腕には自信があり、襲いかかってきた盗賊や魔物を幾度となく返り討ちにしてきた実績が確かにあった。だからこの戦いに名乗りを上げたのだ、竜と戦い生き残った勇者として名を上げようと考えたからだ。
「「「うわぁぁぁ! お終いだぁぁぁぁぁぁ!!」」」
名乗りを上げた結果がこれだ。ドラゴンは上級魔物の代表格だ、サイズも重量も規格外。その様を例えるなら、自在に空を飛び回るタンクローリーだろうか。 盗賊にしか勝てない人間が戦いを挑んだことが、そもそも間違いであったと、彼らは竜の腹の中で後悔した。
「知ってた、だから助けに来た」
――ザンッッ
プレアデスの放った手刀が、竜の首を腹を切り裂いた。商人達は自分が生きてることを確認すると、すたこらと前線から逃げ出した。
『いきなり飛び出してどうした!?』
『冒険者組が食われたから、助けに行ってた』
シリウスからの通信に、プレアデスは答えた。
互いに連絡を取り合えるよう、シリウスが予備の通信機を持たせていたのだ。
プレアデスはあらかじめ知っていた、彼らが戦力にならない事を。彼らが自分の実力を大きく偽った事や、いざとなったら他の人間を盾に逃げようとしていたことや、火事場泥棒に入ろうと考えていた者がいる事も全て知っていた。
プレアデスにとっては、全てどうでもよかった。最悪自分で全部倒せばいい、そういう考えがプレアデスにはあった。
「さあ、来いよトカゲども」
「ぐぬぬぬ」
竜達は動けなかった。正確には動かなかった、プレアデスの脅威を把握した竜達は、彼との戦いを放棄して他の場所を攻めにかかっていた。竜達は一定の間合いを取り、プレアデスを牽制しながら、仲間が作戦を遂行する時間を稼ごうとしていた。
――ザザ、ザンッッッッ
約13秒、それが彼らが稼いだ時間だった。
『終わった、今戻っ――しばらく戻れそうにない』
『どうした、怪我か!?』
『奴ら、街道と水源を潰しに動き始めた。止めないと、全員飢え死にする』
プレアデスの目が、里のはずれで動き回る竜を捉えた。
正面からぶつかっても勝てないと判断した竜達は、生活拠点の破壊を開始したようだ。奴らを放置し、畑や水源、物資の輸送路を荒らされれば、竜の存在に関係なく里の人間は死ぬだろう。
奴らを止める事は簡単で、今から走れば余裕で破壊工作の前に殲滅できるだろう。だが問題は、行って戻るまでに里が無事で済んでいるか否かだ。周囲を見渡せば、里に攻撃を仕掛けようとタイミングを見計らっている竜の群れが見えた。
「数を生かした多方面攻撃か、空を飛べる機動力も利用したいい作戦だな」
プレアデスは天力の翼を大きく広げ、冷たい夜空を駆け抜けた。
「奴らの総攻撃が来るぞ、お前達持ちこたえろ!」
「「「「お、おうぅ」」」」
「声が小さい! お前達、もう1度だ!!」
「「「「おう!!」」」」
士気を高めようと、シリウス達は声を張り上げた。
竜達が何故、拠点破壊に動いたのか、それはプレアデスを引き離すためだ。そして厄介者がいなくなった今、竜達が里を落としに総力を挙げて挑んでくる事は明白だった。分かっているのに対処できない、相手の思惑通りに動くしか出来ない事に苛立ちを覚えながら、みな武器を握る手に力を込めた。
『プレアデス、敵の数が減ったら合図をくれ』
『了解、おおっと――』
「ロゼッタ、この術を今すぐ覚えてくれ」
「嘘! 今すぐって!」
シリウスは自らが開発した新呪文のスクロールを、ロゼッタに投げ渡した。
「それが出来るかどうかで被害が大きく変わってくる、頼んだぞ」
「皆さん、敵です来ます!」
「ああもう! 読んだから、戦いながら習得する!」
ロゼッタは、目を通したスクロールを投げ捨てた。
――カチャリ
シリウスが、ドレッドノートの引き金に指をかけた。
「挨拶がわりだ! 薙ぎ払え【ルシファー・キャノン】!!」
瞬間、夜が割れ朝日が差した。
シリウスが生み出した輝かしい太陽が夜空を照らし、敵の1割を掻き消した。




