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怠惰の神候補   作者: タイト
新大陸編(前編)
50/74

第50話 怠惰の代償

「アレックス! やばいよ、あれ!」

「宿が……消滅した。!! シリウス! プレア!」


 ロゼッタの新技【サファイアメーザー】を完成させるため、アレックスとロゼッタは空き地で訓練を行っていた。そのさなか、赤竜の攻撃を目撃した2人は、ダグラス、ニダリーを叩き起こし現場に走った。

 アレックスがたどり着いた時には、すでに赤竜は撃破され、負傷者の治療も完了していた。


 シリウスが、来たばかりのアレックス達に経緯を話しはじめた。

 赤竜の襲来、宿の崩壊、プレアデスの【神化】と赤竜の撃退。そして地上に降りてきたプレアデスは、地面をひっぺ返し、まだ生き埋めにされていた要救助者を引き上げ、まとめて治療を始めたことを。


「俺達が到着するまで5分も立ってないぞ! それでこの人数を治療しただって、いくらなんでも無理だ!」

「おっと、勘違いさせたようですまない」

「やはりか、負傷者はもっと少なかっ「そばの民家にこの倍はいる」……そんな馬鹿な」


 回復魔法は術者への負担が大きい、それがこの世界の常識だ。だが治療に使用したのが魔術でなく、天力であったならば、その常識は覆る。

 

 プレアデスが行った、治療法はこうだ。

 まず自身の生命力を、負傷者Aさんに与え傷を癒す。

 それが終わると、Aさんから生命力を取り戻しBさんに与え傷を癒す。

 その後もC、D、E、Fと繰り返していけば御覧のとおりというわけだ。


「人間には代謝機能があるからな、一定のレベルまで傷が癒えれば後はどうとでもなるものだ。勿論、借り物とはいえ生命力を抜かれた以上、しばらく疲労で動けないだろうがな」

「天力術式……噂には聞いていたが、まさに神の奇跡だな」

 

 感心するアレックスの元に、水桶を手にしたルノワがやってきて水を勧めてきた。決して冷たい水ではなかったが、それを口にしたアレックスは立ち込める熱気と、あたりに漂う緊張感が和らいでいくのを感じた。


「だがなぜ彼らは攻撃を? 今までこんな事なかっただろうに」

「どうやら王都での武装強化の噂が、竜族に知られてしまったようだな。奴らは、こちらの準備が整う前に先手を打ってきたようだ」

「噂でここまでするだろうか? 彼らは、もっと詳しい情報を手にし――」



「よそ者が出しゃばってんじゃねえぞ、クソガキ!!」

 緊張が和らいだのもつかの間、近くの民家から怒号が上がり、民家の壁を突き破ってプレアデスが姿を現した。どうやら、何者かに突き飛ばされたらしい。


「ぱぱ、はい、おみじゅ」

「俺は、後でいい、あっちのみんなにも頼む」

「あいあ~い」

 ルノワと入れ違いに、プレアデスを突き飛ばした犯人が民家から姿を現した。アレックスはその男に見覚えがあった、ロゼッタに妙な杖を売りつけようとした昼間の男だ。


「プレア、何があった?」

「この男が、そこの少年のペットを殺そうとしやがったんだ!」

 中を覗くと、小さな男の子とミニサイズのキルモーフが身を寄せ合って震えていた。


「へっ! 人間より家畜のが大事かよ。おれらは家も店も財産も無くしてんだぞ! 今日は良くても、明日は、来月は、来年は! 家畜に食わせる飯だって惜しいんだよ、こっちは!」

「ちょっとよしなよ、男のくせにみっともな「うっせえババア! そもそもテメエんとこのジジイが熱出して毛布が欲しいとか言い出したんじゃねえか! だからおれ様がせっかく親切で毛布を造ってやろうとしてやったのによう!」」


 キルモーフの腹綿は、とても暖かい。今夜は赤竜の攻撃の名残で熱いぐらいだが、明日以降は地獄が待っているのが明らかだった。里中のキルモーフをばらして毛布や上着の材料にすれば、今後の夜を超すのに一役買ってくれるだろう。

 食料の備蓄にも限りがあるし、今後の事を考えれば彼の発言は理にかなっているように思えた。


「それともなにかぁ、テメエがおれらの今後の世話を全部してくれるって言うのか?」

「そのつもりですよ」

「……は!? ……は!?」


 突っかかってきた男は勿論だが、周りにいたシリウスやアレックスまで固まっていた。聞き間違いだろう、きっとそうに違いない、誰もがそう信じて疑わなかった。


「今回の責任は、俺にあります。ですので、皆さんが元の生活を取り戻せるまで、俺がそれに関わる全てを保証します!」

 そのとき、里の時間は停止した、プレアデスを除いて。

 そして時は動き出す。


「家の修理は?」「俺が手配します」 「食料は?」「俺が手配します」 「工房が再稼働するまでの損失はどうする?」「俺が補填します」 「じゃあ――

「待て待て待て、プレアデス! 一回冷静になれ!」

 シリウスが、プレアデスの言葉を遮った。


 エルマーズ家の権力と財力なら、今回の被害を全て賄う事は決して不可能ではない。問題は、そこまでの責任をプレアデスが負う必要があるのかという事だった。

 彼が竜を呼び込んだか、否だ。家屋の破壊に手を貸したか、否だ。災害に乗じて犯罪を犯したか、断じて否だ。むしろ彼は里を救った救世主だ。


 シリウスは断言した、プレアデスに一切の責は無いと。

 それを否定したのは、当のプレアデスだった。


「今回の襲撃は、本当なら未然に防げてたんだ。模擬戦の後、俺が情報を共有しておけばな。噂でもいい、両種族に亀裂がある事を知っていたなら、俺は敵の先制攻撃を予測して対策を立てていたさ。それをしなかった俺の怠慢が今回の悲劇を招いたんだ……全責任は、俺にある」


「いや、しかし「敵本体の接近を確認したでござる! 戦力の方はどうでござるか?」」

「里に滞在中の冒険者が数人、結界の方はどうですか?」

「術者が足りんでござるよ、里の全てはとても無理でござった」


「だそうだシリウス。俺を心配するなら、これ以上被害が出ないよう立ち回ってくれると助かる」

 シリウスは、何も言わなかった。

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