第46話 プレアデスの休日、温泉そして和食
ユニークアクセスが、2000を突破しました。次は3000を目指して、頑張らせていただきます。
「シンク君、良かった目が覚めたようで」
「ぱぱ、もどった」
え~と、俺は何してたっけ?
確か模擬戦をする事になって、冥力が解放されて、【因果応砲】で吹っ飛ばして――そうだ! 彼はどうなった!?
「な!? 傷は深いんだ、まだ寝ていた方が」
『大丈――治って――す』
魔力の消耗が影響して、【発声】が不完全になっていた。だがこっそり自爆前に発動しておいた自己修復機能を強化する魔法のおかげで、体の方は予定通り回復していたようで良かった。
『ゴンゴン――眠い……抱っこ』
「おお、みんなから話は聞いた、さあ部屋に戻って体を休めよう」
誰だ、今俺の声真似をしたのは? 俺は休んでる暇なんてない、あの男から話も聞いてないし、今日の日課もまだだし、明日の準備だってあるんだ!
『ルノワこっ――いで』
「ぱぱねんね?」
『そうねんね、ねん「何出しゃばってやがるシンク!」ブンゲラバァァ!』
「シンク君何があったぁぁぁ!」
はあはあ、シンクの奴め精神世界から勝手に出てきやがって、俺の予定を勝手に決めようとしてんじゃねえぞ! 次出てきたらもっかいぶっ飛ばすからな!
(いや~疲れてるみたいだし、今日ぐらい休んでもいいんじゃない?)
なんか幽体離脱したみたいなシンクが、俺の目の前に現れた。俺は自分を殴ったショックで、半分寝ている状態のようだ。
(もう十分休んだ、これ以上休息は必要ない!)
(表面はそうだが内側は? 筋繊維の奥の奥の疲労までは取れてないはずだ、だから今日一日ゆったりしても罰は当たらないさ、今日いろいろあったし)
この怠惰は……その日々の積み重ねが、クローリアの悲劇を招いたんじゃないか。俺はもうごめんだ、自分の怠慢で町や国が亡びるのは。
(忠告はありがたく受け取っておこう、だが! 俺はもっと強くならないといけない、今日の訓練メニューだって1つも終わってないんだからな)
(訓練メニュー……いつもやってるあれね、俺前から思ってたけどさ、あれって不完全だと思うんだ。何故かっていうと、その日の天候とか気温とか、勿論体調もだけどそんなのが全然考慮されてないんだ。状況に合わせてアドリブ聞かせてこそ、成長につながると俺は思うんだ)
……こいつ熱でもあるのか? 体の鍛え方の説教を始めるなんて。
(ダイエットだってさ、食事量減らすと脂肪の燃焼が悪くなって逆効果らしいじゃん。筋肉だって一緒さ、毎日鍛えてたら効果が落ちてくるんだぞ、きっと多分)
(…………分かった、今回はお前の意見を尊重しよう。ただし! 明日以降しっかりとトレーニングの効果が出るように仕込んでおけよ、いいな!)
そう言い残して、プレアデスは精神世界の奥で精神統一を始めた。
やっべえなプレアの奴、相当ダメージが溜まってたみたいだな。俺のデタラメな論理に一切突っ込まずに、奥に引っ込むなんて。プレアが死んだら俺も巻き添えになるし、この機会におもいっきり羽を伸ばさないとな。
「ぱぱ、めーめ!」
「ここで寝たら風邪をひいてしまう、行こうシンク君」
俺はルノワと共にゴンゴンさんに抱き抱えられて、修練場を後にした。
ふと顔を横に向けると、シリウス達が服がちぎれとんだ忍者さんを取り囲み、彼に土下座をさせていた。あの様子なら、容易に話を聞き出せるだろう。話はまた後で聞くことにして、今は部屋でグータラ……いや今後の為にじっくり休息を取らないとな。
その前に風呂だな、汗と埃でなんかざらざらする。
「シンク君、ここは何の部屋だろうか?」
『ラッキー、浴場がこんな所に』
目の前には入浴場があった、案内をさらに確認していくと、露天風呂とか足湯とか……後なんか凄い設備がいっぱいだった。ここ冒険者の宿だよな、間違えてリゾート地にワープしたんじゃないかと心配になってきた。
俺達は早速、ここを利用する事にした。
中に入ると、鍛冶屋のおっさんや通りすがりのキルモーフなんかが、お湯につかりながらとろけていた。混浴だと書いていたが、若い女性の姿は見当たらなかった。
「フェフフフ(あら、かわいらしいボウヤ)」
訂正、どうやらたくさんいるらしい(人ではないけど)。
さてと、さっそく入水! ――というのはマナー違反だ、まずは外で体を洗って、そこから――おいそこのばあさん、洗濯物持ち込んでんじゃねえ!
「フェボボ―(おいこらー)」
「フェブボ―(何やっとんじゃー)」
「まあまあ、なしてそんな怒っとる、ブルゥァァァァァァ!!」
洗濯婆さんは、見張り担当の海モーフ達にぶちのめされ強制退出させられた。ご老人相手でも一切容赦がない、それだけここが神聖な場所だと考えられているってことか。
改めて案内を確認すると、ここは清龍の湯と呼ばれる貴重な温泉で、ゲームとかでいうHP、MP全回復、状態異常解除、一定時間バフ効果を発生させてくれる場所だったらしい。
そしてその御利益で大儲けしようと、ここの湯を持ち出す物が後を絶たなかったため、空き瓶は勿論、吸水が可能な雑巾やタオルの持ち込みが一切禁止になったらしい。
「くぅ~、まるで全身が生まれ変わるかのようだ」
『はははぁ、まさに体が溶けるようですね』
「とろとろぉぉ~~」
『あ、ルノワも溶けてる…………ルノワ!!』
もうちょっと浸かっていたかったけど、ルノワがベロンベロンになってきたので急いで上がる事になった。
彼女のように虫族の生まれの魔族の幼少期は、全身がスライムのように不定形だ。将来自分に適した形態に、体を作り替えるためらしい。今は人間に近しい姿をしているが、もしかしたら将来はグロテスクな化け物になってるかもしれない。
……ブスは3日で慣れるなんて言うけど、流石にパニック映画のモンスターみたいになったら、お見合い相手探すの大変だろうな~。
風呂から上がりさっぱりした俺達は宿をぐるりと見て回った後、自分達の部屋で夕飯まで少し眠る事にした。宿の中には温泉の他にも、ギャンブル好きの冒険者の為にカジノがあったり、女性受けしそうなカフェがあったり、酒盛りが出来る酒場があったりした。
忍者さんはすごいなあ。
忍者さんは忍者だ。
忍者さんはここの店全部をまとめている。
ぼくにはとてもできない。
「ぱぱ、あーん」
『あーん、うん、おいしい』
「すまない、そこの切り身をこっちに回してくれないか」
そして宿の食事だが、驚くなかれ和食! パンではなく米が出てきた。しかも砂を噛むようなパサパサ米じゃない、ふっくらしてほんのり甘い完璧な白米だ! 新鮮な刺身も、天ぷらも、みそ汁も、エルマーズ領にいたころでさえ入手困難なご馳走ばかりだ(国が違う為、コストがかかりすぎる)。
同席していたロドリエス達は、刺身になかなか手を付けなかったが、
「うまいから食え、命令だ!」
というシリウスの言葉を信じて、口にしたところとても気に入ったようで、追加の注文をしようと子供のように(1名子供だが)はしゃいでいた。
「よし、今後の行動についてだが、ここの店主から1つ重大な情報を――――」
シリウスが話を始めたころ、俺は満腹からくる睡魔に負け眠りの世界へと落ちていった。気が付くと目の前には、寝息を立てるプレアデスがいた。
「……」
「よっ今日はすっごい楽しかったぞ、温泉入って、カジノ行って、カフェでお茶して、そうだ! 渡り廊下からこの国の名物、ボルカノ火山がすっげえ綺麗に見れたんだよ、明日にでも見に行って来いよ」
「……」
「なあ……プレアデス、未来のため将来のためって言うけどさ、今日……今この瞬間しか見えないもの聞けないもの経験できない事ってあるんじゃないか。それを全部素通りしてゴールだけ目指すなんて、それはすごく勿体ない……俺はそう思う」
返事がない、熟睡しているようだ。
「やっぱ俺はお前が言う通り卑怯者だ、聞こえないって分かったうえでしか本音で話せないんだからな」
俺は独り言のように言葉を吐き出し、肉体の主導権をプレアデスに返した。
「またなプレアデス、明日からまた大変だろうけど……まあ適当にがんばれ」




