第45話 聖剣?vs神器?(ホルス視点)
「大人しくしやがれ、こいつ!」
「きゃっ! お願いします、放してください」
「うっせえ! 死――」
ここは、例の男達が32番と呼んでいた地点。都市開発の置き去りにされ、住人がいなくなり忘れられた区画。そんな場所で今まさに、1人の命が失われようとしていた。
「♪りんご~ん、りんご~ん」
「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」」」
そんなピンチに駆けつけてきたのは1頭の牛、彼女は男達を自慢の巨体で薙ぎ払った。
「大丈夫か、あんた?」
「えと、どちら様でしょうか?」
「おれっちはホル「ちょちょ、後ろ後ろ!」」
体勢を立て直した男の1人が、ホルスの背後から襲い掛かってきていた。
背後を警戒していたホルスは、その男にアッパーを――。
――ゴチーン
ホルスの反撃は、男が振り下ろした鉄の棒に阻まれた。
ホルスは力尽きてしまった。
「フェフェルフォフォフォー!」
「う、うぐぅぅ」
その男の腹に、キルモーフの頭突きが炸裂した。
キルモーフは、いわゆる雑魚モンスターの一種だ。だが仮にもモンスターである、人1人を悶絶させる程度の戦闘力は有している。
「この、芋虫風情がぁ「フェフォ―!」がっあああぁ」
更なる追撃、腹を抑え前屈みになった男の顎を、彼女の頭がかちあげた。
セザンヌの追撃は止まらない! 彼女は上半身を振り子のように振り回し勢いをつけると、勢いそのままに頭突き、頭突きぃ、頭突きぃぃ! まるで木製バットの往復ビンタ、男は防御もままならぬままグシャリとその場に崩れ落ちた。
「……はっ! おれっちは一体……そうだ! 覚悟しろお前ら!」
「ホルスさん、もう終わったよ」
「もう何が、大丈夫だ、問題ない、よ」
――パチパチパチパチ
乾いた拍手の音が、何処からともなく聞こえてきた。
そして、ガタイのいいスーツ姿のおっさんが姿を現した。彼が手招きすると、区画の陰から武器を所持した男達がホルス達を取り囲んできた。
「いやはや、お見事お見事。下っ端とはいえ私の部下を一網打尽にするとは、いやーお見事」
「デボニア……様……」
「誰だあいつ? なあ、あんたはあいつに追われてるのか?」
「え、あ、はい、あの人は、城から逃げた私を殺しに来たんです」
「そうなんだよ、彼女は我々が抱える機密を持ち逃げしようとしてるんだ。だからその娘をこちらに渡して貰えないだろうか、罪人であるその娘を……」
「娘!? こいつ女だったのか!?」
「ホルスさん、気が付いてなかったんだね」
ホルスは、娘をまじまじと眺めた。適当に切り揃えられた黒髪に黒い瞳、凹凸が見当たらず針金のように華奢な体、おまけに服はボロボロだった。
「おっし決めた、おれっちは君の味方になるぜ!」
「な!? そいつは罪人だぞ! 庇い立てするつもりか!」
「罪人だぁ、それはあんたの方じゃないのかい?」
娘がデボニアと呼んでいた男は、罪人を追ってるといったが、それは絶対に嘘だ。罪人の処分は軍の仕事だが、ここまでにデボニアは軍の人間にあるまじき行動をいくつか犯している。
1つ、この国の軍人は部下を倒した相手に拍手などしない、無感情に任務を遂行するのみだ(称賛するのは任務完遂後のディナー中だ)。
「そうか、食卓の英雄ホルス、私は君を誤解していたようだ。君は英雄ではない、ただの馬鹿! だったようだな。お前達やってしまえ!」
「10人こようが、20人こようが、おれっちの相棒の錆に――おいおい……」
ホルスとりんごんは、驚愕した。男達の所持していた武器は、レヴァンティン、カラドボルグ、ミョルニル、ゲイボルグ、フルンティング、ダインスレイヴ――かつて伝説の英雄達が所持していた武器だった、それが3本も4本も存在していたのだ。
「かかれぇぇぇ!」「うおぉぉぉぉぉぉ!!」
「ちっ素人軍団が! 出直してきやがれ!」
男達の連携は、それはそれは素晴らしいものであった……はずだ。敵の逃げ場を奪い、武器による同士討ちを避け、首や胸、人間の急所を的確に素早く切り裂く。通常であればホルスは死ぬ、そうならなければおかしい状況だった。
そんな素晴らしい連携が、まるで子供のお遊戯に見えてしまうほど、ホルスの動きは常軌を逸していた。敵の攻撃を剣で受け流し、そこに生まれた僅かな隙間に体をねじ込み追撃を回避し、当て身を用いて敵を無力化させる。まるで強力な磁力が働いているかのように、ホルスの攻撃は当たり続け、敵の攻撃はかわされ続けていた。
「おら、これで最後」
「あばっ!」
「変にかっこつけなきゃこんなもんさ、武器が良くても使い手がこれじゃあな」
「ははは、降参だよ、私はその娘から手を引こう、それじゃ「おい待て」ひい!」
デボニアが何者なのか聞くために呼び止めたのだが、彼は驚いと尻もちをついてしまった。
「すすすすまない、腰が抜けてしまったぞ、て手を貸してくれないか?」
「分かった、だが妙な真似はよせ」
ホルスは警戒心をマックスにしながら、デボニアに近づいた。
背後から部下に襲わせるか、それとも服に武器を隠し持っているのか、あらかじめ地面に罠を仕掛けてあることも想定して動いていた。
「にやり」
男の口元がつり上がりホルスは身構えたが、敵が起き上がった気配は無かった。はったりか? そう考えた次の瞬間、ホルスは何者かに突き飛ばされた。
突き飛ばした相手がりんごんだったと理解したのは、彼女が数々の刃物に串刺しにされ賽の目状に切り分けられ、天界へと強制送還されたことを見届けた後だった。
「家畜に救われたか、運のいい男だよ、まったく」
りんごんを切り裂いた刃物は、先ほどまで戦っていた男達の武器に間違いなかった。それらが鳥のように自在に宙を舞い、デボニアを守るように集まってきていた。
まさか武器が空を飛ぶだなんて、ホルスは目の前の現実に驚きそして、自分の想定の甘さのせいでりんごんを消滅させてしまったことを悔やんだ。
「ふふふ、君は天国の存在を信じるかね?」
「よくも……よくもりんごんを……」
「私には特別な力があった、物を自分の手足のように操れる能力がね」
「あいつは……おれっち達家族の恩人だったんだぞ……」
「その才能が認められたのだよ、誰にかって? 神にだよ、世界の創造主様にだ。紹介が遅れて申し訳ない、私はデボニア、怠惰の神として世界を統、ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「今から言う質問に答えろ、おれっちの理性が残ってるうちにな……」
ホルスは高速で剣を振り、それによって生まれた風圧で敵を薙ぎ払った。
彼は自分の中に湧き上がる、怒り、悲しみ、自虐、あらゆる感情を奥へ奥へと押しとどめた。反省も後悔も今は不要な感情だ、そんな事はこの状況を打破してからすればいい!
「神に逆らうとは愚かな奴だ、その罪万死に値する!」
デボニアは地面に転がりながら、周囲の武器に指示を飛ばした。一撃必殺の破壊力を持つ神器の群れが、たった1人の人間に牙をむく。
「無駄無駄無駄無駄ァァァァァァ!!!」
「おじさん、頑張って」
「フェフェルフォフォフォー」
ホルスは剣の腕にはかなりの自信があったが、この状況は若干不利であると理解していた。娘とセザンヌを守るためうかつに動けず、飛来する武器の軌道は人間のように関節が関係ないため変幻自在、武器の強度も天と地ほどの差があった。
「今だ、砕けミョルニル!」
「くそっ! セザンヌ、その子を連れて逃げろ、早く!」
ホルスの叫びと、彼の相棒が神の鉄槌により砕かれたのは同時の出来事だった。
そして、ホルスを庇って娘が飛び出してきたのはその直後だった。
「おい、逃げろって言っただろう」
「私のせいでこんな事になってるのに、自分だけ逃げるなんて絶対に嫌です!」
「2人まとめて死ねぇ!」
『貴方に……私のすべてを預けます』
その言葉がホルスの頭に響いたとき、目の前にいたはずの娘は消え去り、彼の手には新たな剣が握られていた。
「くくく【極限武装】、自身の肉体を武器に転じるオーラ使いの最高到達地点か。だがやはり貴様は失敗作じゃないか、柄の部分だけにしか変化できないのだからなぁ!」
デボニア曰く、娘は武器に変化したらしい。
そしてホルスは、その武器の使い方を一瞬で理解した。
「なるほど、エクスカリバーと同じ原理かオラァァァ!」
「な、なにぃぃぃ!!」
――ヴオン、ウォン、ウォウォン
ホルスの戦意に反応し、光り輝く聖剣がその全貌をあらわにした。
まるで豆腐でも切り分けるように、宙を舞う神器達は1つ、また1つとその原型と天力の制御を失っていった。
そしてデボニアは逃げ出した。
「…………さいならぁ~」
「あ、こら、待「逃がさないであります、生き埋めにしてやるであります!」」
――ゴーン
突如現れた謎の少女のハンマーが炸裂し、デボニアは地面にすっぽり埋まった。
「エムルロン様、私ちゃんと無事戻ってきましたよ」
「喜ぶのは後であります! 追手が来るであります、早く!」
「待ちな、おれっちは軍にも知り合いがいるんだ、そいつに助けを――」
エムルロンと呼ばれたハンマー使いの少女にホルスは話を持ち掛けた、だがその提案は残酷な一言と共に否定された。
「無駄であります食卓の英雄ホルス殿、この国は乗っ取られたであります。王も大臣も軍隊でさえ、頼れる者達はもうこの国にはいないであります」
「何……だと」
ホルス達は、エムルロンの案内で彼女達のアジトに向かう事になった。情報源としてデボニアを拘束した後、彼らは走り出した。




