第42話 最強を越えたその先へ
目の前のこの男は、もうじき死ぬ――――どうでもいいか。こいつはただの情報源だし、仲間でも親族でもないし、このまま自滅するのを待つか。
って、昔の俺なら考えたかもしれないな。
ゴンザレスをぶっ倒したとき、俺は疑問に思った、チートで勝って喜んでいいのかって。同時にこうも思った『これは俺が持っている能力だ才能だ、より強い者が勝って何が悪い』と。
俺はこれからどう振舞うべきなのか、少しだけ悩んだ。
「シリウス、アレックス! この人は暴走してる、俺が何とかするから絶対に近寄るな!」
「何とかって「時間がない、絶対だぞ!」」
俺は神の力に目覚め、貴族の長男として生まれ直した。
父は元最高神で、母は王族出身だったりする。カネもあるコネもある、権力も家柄も才能も持ち合わせ、俺自身もこの2年間努力を惜しんだ日はない。俺が天から二物も三物も与えられた存在だというのは、疑いようがないだろう。
俺は先日、バールの発言に対して、綺麗ごとを言っていいのは力のある奴だけ、とつっこんだことがあった。
……今の俺なら、綺麗ごとを言う資格があるんじゃないだろうか。
世界平和、一家団欒、無病息災、天衣無縫、そんな人々が思い描く夢や希望を叶いつくせる、最高の男を目指す資格が。
「天力最大開放! これより【神化】を開始する!」
俺はもう迷わない、俺が手にした権力と財力と運命力のすべてを駆使して、俺はこの世のすべてに救いを与える! そこまでしなけりゃ、俺の器に釣り合わねえ!
いつしか俺の姿は、更なる変化を遂げていた。
背中から天力が吹き出し、まるで翼が生えたようだ。纏っていたオーラも密度が増し、バチバチと火花まで飛び交っていた。
「一気に片を付けてやる、覚悟しろ!」
「くぅぁぁー、くぅぅぁー」
気絶させれば技も止まる、しばらく眠っててもらうぞ!
喉をやられ声もろくに出せなくなってしまった彼に、俺は接近し――。
――ボン!!
接近したところで、プレアデスの肉体は限界を迎え激しく爆発した――。
「バカヤロウ……天力を制御しきれず破裂だと、犬死じゃねえか!」
「……いや、爆風で見えないが……! あそこだ、あそこにいる!」
プレアデスはちゃんと生きていた、顕現させた肉体はあくまで仮初の物、爆発の瞬間にしっかりと離脱し即死を免れていた。
だが吹き飛ばされたダメージは大きく、しばらく動けそうになかった。
「まさか、今の自爆は作戦か? 奴の意識を刈り取るための」
「なんて無茶な一歩間違え「おぁぁぁぁぁぁ!」な! あれでも倒せないのか!」
忍者もまだ倒れていなかった、纏っていた甲冑にヒビは入っているが、まだまだやる気に満ち溢れていた。朦朧とする意識の中で、自分の敵の居所を探っている様子だった。
「アレックス、プレアデスに加勢するぞ武器を取れ!」
「いや、絶対寄るなと言われている」
「あれは自爆に巻き込まないためだ! 作戦は失敗した、さあ行くぞ!」
「シリウス、彼の目を見て見ろ、あれはまだ何かやらかす目だ」
「……俺にはよく分からないんだが」
「俺には分かる、あれと同じ目をした奴を俺は前にも見たことがある」
アレックスは、クローリアで行われたゴンザレスとの戦いを思い出していた。
彼は勇者として、暴れまわるゴンザレスを止めようと、ダグラス、ニダリーと共に戦いを挑んだ。そしてその戦いに勇者でも英雄でも兵士ですらない少年が参加していた。
その少年は力もなく魔法もろくに使えない、一見役立たずな存在に見えた。しかし彼は、敵の視界を奪ったり、足をもつれさせ転ばせたり、自分を囮に隙を生み出したりと立派な戦力として活躍していた。
戦闘の最終局面、ゴンザレスはフルオーラ状態になりアレックス達は薙ぎ払われた。
『もう駄目だ、あの少年は無残に殺される』アレックスがそう考え顔を上げると、少年は恐れるどころか、まるで待ってましたと言わんばかりの表情で切り札のアイテムを構えていた。
「彼ならきっと、この状況でこう口にしただろうね」
――計画通り。
ふっふっふ、完璧だ。爆破のタイミング、肉体へのダメージ、相手との距離感、俺が次に放つ切り札が生かせる最高のシチュエーションだ。
奴の肉体は現在恐ろしく強靭になっている、生半可な攻撃では意識を刈り取る事はまず不可能、下手をすれば俺の命まで危なくなる。素早く確実に巨大なダメージを与える、傲慢担当に【ルシファー・キャノン】の様な必殺技があるように、怠惰担当にも必殺技がある、条件次第で最強たりえるその必殺技ならそれが可能だ。
ただしこの技は、なかなかに制約が多い。もともと怠惰担当は自分で戦闘をしない属性の為、配下を失い、刀折れ矢尽き、心身ともに追い詰められた場合の、最後の切り札として開発された技だからだ。
「くぇは、けへへほひ」
忍者は、プレアデスを発見した。
俺は今、心身ともに限界寸前、発動条件はそろっている。奴が観客を襲ったり、外に逃げて建物を破壊しだすのが一番ヤバい展開だったが、どうやらそれもなさそうだ(そうなったら今度こそシリウス達に任せるつもりだったが)。射線上に人影も無し、後は放つだけだ。
「くくくぁくぅぉーーー!」
俺は、幼い両手を前に突き出し力を込めた。
周囲に飛散していた、魔力や天力が俺の中に雪崩のような勢いで流れ込み、強力な破壊のエネルギーに変換されていった。
魂は常に魔力や肉体から加護を得ている、瀕死に陥り加護を失わせ魂をむき出しにすることで、力の搬入口が増え俺の肉体は力のブラックホールとなる。
それら全てを、まとめて解き放つ!
受けて見ろ、怠惰属性最後の切り札【因果応砲】!
一瞬、僅か一瞬の内に、射線上に存在していたであろう物体は、巨大なエネルギーに飲まれてねじ伏せられた。
ほとんどの物体は跡形もなく粉砕され、残ったのは僅かな木片と――。
「すや~」
この宿の店主ぐらいだった。
そこまで確認したところで、俺は意識を失った。




