第41話 魔竜忍者、見参でござる
「さあ回復してやったのだ、みんなポーちゃんに感謝するがいいのだ」
「うんうん、偉いねポーちゃん」
模擬戦で受けた傷は、ポラリスの回復魔法により全て癒された。
彼女の魔力は底なしなのだろうか? あれだけ激しい戦闘を行った後なのに、まだこれだけの力を残しているなんて。
彼女が妖精族の王というのは、もしかしたら真実かもしれないと思った。
「いやー、素晴らしい戦いでござった。これなら拙者の依頼を、任せてもいいかもしれないでござるな」
「依頼だと? 悪いが俺達は目的があるんだ、人命にかかわる目的がな」
「待ってくれシリウス! その目的を果たすための、ドワーフの職人についての情報を彼が知ってるかもしれないんだ!」
「必要ない! 情報源は山ほどあるからな」
そういってシリウスは、他のみんなを連れて模擬戦の観客達から情報収集を始めた。
なるほどな、シリウスはこのためにアレックス達とやりあったのか、人だかり(情報源)を生み出すために。
「で、依頼というのは?」
「ひ、引き受けてくれるでござるか!?」
「いえ、気になるので話だけでもと」
彼はきっと今、シリウスにガン無視されて弱っているはずだ。彼はさっきこう言った、これなら依頼を任せられると、つまり容易な依頼ではないという事だ。
きっとシリウスはあえて1度話を蹴ったんだ、
『お前が情報をちらつかせて、こちらと取引したいのは分かった。だが依頼の内容次第では、容赦なく縁を切らせてもらうつもりだ』
という意思表示を行動で示して見せたんだ。
だがシリウスは、いきなり取引相手との距離を取りすぎている。依頼内容を聞いたうえで、受ける受けないを決めるべきだ、困難な内容ならその時、次の対応を取ればいい。
「う~ん、しかしでござる、この依頼はなかなか難易度が高い故、実力がない者には受けさせられないでござる……最低でも拙者より強くなければ」
「じゃあ勝負しましょう、それで実力を示しますから」
「いいでござるか? 拙者は忍者でありドワーフでもあるでござるよ、早さと力強さを兼ね備えた達人でござる」
へぇ~この人もドワーフなのか、ドワーフ特有なずんぐりした体格でなくシルエットが縦長なせいでそうは見えないけど。何でドワーフが忍者の里で修行して、こんな所で宿屋やってるのか気になるが今は置いておこう。
「忍者の事はよく知ってますよ、滅茶苦茶強いらしいですよね」
「知っているでござるか、ならばこちらも期待に応えるでござる」
さっきの模擬戦見てたら、俺もいろいろ試したくなってきたところだったんだ。移動や宿探しのせいで今日のトレーニングがまだだったからな、ちょうどいい運動になりそうだ。
「おいおい、またなんか始まんのか?」
「ここの店主と、あの坊主がやりあうみたいだぞ」
「ふ~ん、おれ部屋に戻ってるわ、どうせ大した事なさ――――」
――ピシュン
互いに合掌し、頭を下げあった直後、室内に閃光が走った。
――ピシュン、ピシュン、ピシュン
最初の閃光は余興だと言わんばかりに、室内で何度も何度も火花が舞い、次第に巨大な炸裂音まで響きだした。まるで室内で花火でも打ち上げているような衝撃、結構のん気してた観客達はその衝撃にあっけにとられていた。
「あの忍者、あんな体格でなんて重い拳を放つんだ!」
「プレアの方も負けてないぞ、あれはまだ様子見をしている顔だ!」
「……英雄達は、あれが見えてるらしいぞ」
「マジバケモンだな、ついていけねえよ」
「てか何であんな人が、宿屋の店主なんてやってんだわけわかんねえ」
――シュタッ!
2人は仕切り直しの為、最初の位置で停止した。
「さて、準備運動はこれぐらいでござるか」
「ははは、予想以上で驚きましたよ。腹にいい感じの貰っちゃいましたしね」
「それは失礼したでござる、冥力開放! 【魔装・滅竜鋼】!」
「謝るのはこっちです、正直あんたを舐めてました! 【超顕現】!」
互いにまとっていた空気と、姿までもが変化した。
プレアデスの体から天力があふれ出し、淡い光が全身から放たれた。
【超顕現】、それは天力の操作を更に洗練させ、自身の限界をぶち抜いていく、いわば【顕現】を越えた先にある新たな到達点。
プレアデスは今この瞬間まで顕現状態を維持し、天力の過活動による負荷に耐えてきた。
プレアデスは思った、
『正直言って体はだるいし、全身酷い筋肉痛みたいに痛いし、その状態で集中力を維持しないといけないし、何度も辛いと感じて元の姿に戻りそうになったさ。だが俺は怠惰の神だ、俺は辛いと感じる事を怠ける事にした。その結果が今の俺だ、俺は天力操作のコツを身に着け、新たな力を得る事に成功した!』
と。
一方でお相手さんは、滅竜を模った禍々しい甲冑に身を包んでいた。鎧としては軽装な方で、細長なシルエットは相変わらずなままだった。
「「…………ぜいっ!」」
床がめくり上がるほどの勢いで、2人は床を蹴った。
【超顕現】によりプレアデスの戦闘力は、100倍にまで膨れ上がっている……そして肉体への負荷も膨れ上がっている。あまり現状を維持し続ければ、痛いを通り越して肉体が崩壊してしまうだろう。
だが、それは相手も同じだ。
彼が使った冥力という物は、強力な反面とても危険な代物だ。使い続ければ肉体は勿論、魂にまで傷が入り蘇生はおろか転生させる事さえ不可能な状態になってしまう。
……ちなみに、この冥力をリスクなしで使える者達がいる、それが魔族だ。この格差を何とかしない限り、人間側の勝利は困難を極める事だろう。
「戦闘中にぼ~っとして、余裕でござるな!」
「しまっ! くっ」
危ない危ない、一瞬意識が飛んでたみたいだ。
俺は戦況を分析し互いの能力の差を考慮して、長期戦を挑もうと考えた。
体への負荷はこちらの方が軽い、体術の方は若干相手の方が上だが防げないほどではない、ならば相手が消耗し降参してくれるのを待つのが得策か。
俺は腰を落とし、完全に待ちの姿勢を取った。
このまま耐え続けていれば、そのうち限界が……。
限界が……。
限界が…………。
……おかしい、絶対におかしい! 俺の方は汗が吹き出し、心臓が悲鳴をあげ、拳の感覚がなくなってきてるのに、何で俺より消耗してるはずのこの人は平気な顔をしてるんだ!
まさかこの男……魔――。
「ふふふふ、この程度で音を上げるとはまだまだ若いでござるな」
「やせ我慢はよせ、あんたも限界のはずだろう?」
「拙者は忍者でござる、忍者とは耐え忍ぶ者の事。拙者は修行の末、この恐ろしい痛みに耐えうる肉体を身に着けたでござる!」
つまり、俺と同じって事か。
俺は痛覚を遮断する修行を行っている、痛みは戦闘の邪魔にしかならないからだ。【超顕現】の痛みは決して即死するようなものじゃない、だから遮断する、目の前の敵に敗北する事の方が危険だからだ。
……だがそれにしては妙だ? 彼の方が消耗が激しいのは確実だ、冥力を使う以上それは避けられないはず。
なのになぜ彼は戦い続けられるのか、彼の肉体が強靭だからか? 力を制御して負担を軽減しているのか? そもそもあの姿がハッタリで、あの人がただただ強いのか?
「俺降参します! ギブアップです!」
俺は声を大にして叫んだ、最悪の展開が頭をよぎったからだ。
「うららららぁぁぁぁぁぁ!」
「降参降参! あんたの勝ちですってば!」
「らぁぁぁぁぁぁ!」
「……クソ、最悪が当たっちまった」
目の前の彼は、視力と聴力を失っているようで、まるで酒でもあおったかのように意識も混濁している様子だった。彼は今、俺の気配を頼りに攻撃してきているようだ。
彼は冥力に対して、とんでもない思い違いをしていたらしい。修行して痛みを失くしても、体の崩壊までは防げない、このままだと彼は死ぬ。




