第40話 世界一小さな、大決戦
「ダグラス、俺に続け!」
「おう!」
戦闘開始の合図で、先に動いたのはアレックスだった。
アレックスは、仲間の1人である戦士ダグラスと共に前に出た。
「ロドリエス、ミルザム、ブロックだ」
「お任せあれ、シリウス様」
「どんとこいだよ~」
迎え撃ったのは執事のロドリエスと、大盾持ちのミルザムだった。
ガタイの優れた男2人と、老人と女性がぶつかれば後者が負けるのは必然……のはずなのだが、両者の戦いは拮抗していた。
シリウス曰く、ロドリエスは軍人上がりの戦闘のプロ、そしてミルザムは王族の出身で戦闘技術を含めて、数々の技を仕込まれているという。
一方アレックス達は本人達曰く農村生まれの田舎育ちで、おとぎ話の勇者に憧れて化け物退治を繰り返しているうちに今の実力を身に着けたらしい。
経歴だけ聞くとアレックス達が圧倒しそうなものだが、対人格闘の能力で見れば、きちんとした指導者に習ったロドリエス達に軍配があがるようだ。
「今だロゼッタ、シリウスを撃て!」
「おうとも、舞え【炎弾】よ!」
「舞い爆ぜよ、ヴァンガードそしてドレッドノート!」
前衛同士の戦いが膠着し、今度は後衛が動いた。
魔法使いロゼッタが【炎弾】を複数生み出し、シリウスに向けた放った。それらに対してシリウスは、両手に装備した英国の戦艦みたいな名前をした銃から魔弾を発射し全て撃ち落とした。
「エンチャント【プロテクション】、これなら打ち抜かれませんよ」
「ぐぬぬ【パワーアップ】なのだ!」
遠距離からの打ち合いも互角、ならばと互いのサポート役が強化魔法を使用した。
アレックスの仲間ニダリーが【炎弾】の強度を上昇させ、それに負けじとシリウスの仲間ポラリスが魔弾の威力を強化した。
ニダリーは小柄な女性だ、しかしポラリスはさらに小さかった、というかいわゆる幼女だった。しかしポラリスは見た目に似合わず300年の時を生きた妖精族の王で、その秘めたる魔力は宇宙より広大である……というのが本人談で何処までが真実かは本人以外誰も知らない。
ひとまずはこれで両チームの全員が、1度は行動したことになる。
ここまでは互いに全くの互角、この均衡をどう崩していくのか楽しみだ。
「そろそろいいか……ミルザム、シールド展開、ロドリエスは下がれ」
ミルザムの盾が輝き始め、戦場に分厚い鏡の様な物が数枚現れた。それらは高速で回転を始め、一斉にアレックス達に襲い掛かった。
「舐めるな、こんな物!」
ダグラスは自慢の斧を振り下ろし、飛来したシールドをたたき割った。
――グサリ
「ぐっ! なっ!?」
たたき割られたシールドが、今度は無数の鋭利な刃物のような状態になり、ダグラスの全身に突き刺さった。
まるで巨大な獣の牙の餌食にされたかのように、彼の体はボロボロだった。
あの傷では、戦闘続行は不可――おや? 彼に傷が癒えていく。
「ごめんなさい、回復が遅れたわ」
「ニダリー、助かったぜ」
すごい、回復魔法まで使えるのか。
何がすごいって、この世界では回復魔法は最上級難易度の魔法だからだ。
習得が困難なうえ、魔力の消耗も大きい。そのうえ傷を受けて回復させるぐらいなら、あらかじめ肉体強化を行い頑丈になっていた方が楽なせいもあり、この世界にヒーラーはとても少ない。
もし強化魔法をさらに上回る攻撃を繰り出す相手と出会ったら……きっと彼女は、その場合を想定して回復魔法を習得していたのだろう。
だがこれからどうするアレックス?
相変わらずシリウスの魔弾は戦場を飛び交い、シールドを足場にしたロドリエスが隙を見て打撃を浴びせてくる。
ここまで見てきて、両陣営の大きな違いが分かった。
アレックス達は、全員攻撃全員守備。攻撃の隙を全員でカバーし、全員で協力して敵の隙をつく。
一方シリウス達は、シリウス至上主義とでも言おうか。もっとも継続火力を発揮できるシリウスを、他の全員で守り抜く。
現在有利なのはシリウスだ、このまま相手を消耗させ続ければおのずと勝利は舞い込んでくる。
アレックス達はここからどうやって巻き返すだろうか? 俺だったら、誰かを陽動に使ってシリウスに奇襲を仕掛けるところだ。
「ねえねえアレックス、例のあれ試していい?」
話を持ち掛けたのは、ロゼッタだ。
「……失敗したら、大怪我だぞ」
「別にこれ模擬戦だし、今試さなくていつ試すのって話、でしょ」
「ふっ、それもそうだな、ここは戦場じゃない互いの技を試す場だった。すまないロゼッタ、俺は暑くなりすぎていたようだ。よしいいぞロゼッタ、やっちまえ!」
アレックスにこたえるように、ロゼッタの杖が火を噴いた。それと同時に彼女は前衛へと飛び出し、男2人は後ろに1歩下がった。
まさかフィールドのど真ん中で大魔法を放ち、シリウス達をまとめて焼き尽くす作戦だろうか? いくら何でも無謀すぎる、詠唱中に袋叩きにされて終わるだけだ!
「それがお前達の奥の手か……つまらん、だがあえて乗ってやろう。ミルザム、【要塞化】の許可を出す、真っ向から受け止めてやれ!」
【要塞化】何の事だろうと最初は思ったが、その意味はすぐに分かった。
ミルザムが展開していたシールドが、姿を変え始めたのだ。鏡のようだった弱弱しい姿は一変、より硬くより強く、まるで鍛え上げられた鋼鉄のようだった。それらが何枚も何枚も積み重なり、まさに要塞と呼ぶにふさわしい姿となった。
――ヒュン
城壁の1枚が剥がれ落ち、ロゼッタに攻撃を仕掛けた。
姿が変わっても、攻撃能力はそのままのようだ。しかもさっきまでと違い、1枚当たりの攻撃力も破壊された時の反撃能力も増している事だろう。
半面動きが単調になったおかげで、よけやすくはある。あれらをかわしながら、大魔法の用意をするのは大変ではあるが決して困難ではない……それであの要塞を崩せるかどうかは別の話だが。
と思っていたらロゼッタは、避けるどころか突撃していった!
――その手に、白く輝く剣を携えて。
ロゼッタは、迫る壁を真っ向から切り捨てた。
切り捨てられた壁は、飛び散るはずだったかけら諸共氷のように溶けて消えた。
「魔法剣【サファイアメーザー】、あたしの炎を圧縮して生み出したの。どう? これならその盾とも互角に戦えるでしょう?」
「ああ確かに……だが俺の魔弾はどうするつもりだ!」
――パシュン
シリウスの放った無慈悲な一発、実戦であれば確実に絶命させられる一撃だった。
「「それは、俺達で捌くんだよぉぉぉ!」」
アレックスは、ロゼッタを抱き抱え素早く飛びのいた。そして、次の1手を打とうとするシリウスを射程に捉えようと、スーパーノヴァのメンバーは一斉に走り出した。
ニダリーが全体に結界を張り、ロゼッタが盾を溶かし、アレックス、ダグラスが魔弾を捌く。 魔力も体力も全てをかけたこの突撃で、彼らは全てを終わらせるつもりのようだ。
「それがお前達の全力か、ならばこちらもそれにこたえよう! 【ルシファーキャノ――あ……」
シリウスはすっかり忘れていた、この状況で必殺技を放てば、結界を砕きその後ろの観客達まで巻き込んでしまう事を。技をいったんキャンセルさせ、適切な威力に調整し直すこと一瞬……勝敗を決するに十分な時間だった。
「シリウスはやらせないのだ! 【スパーク】!」
「うぐっ、目が!」
絶体絶命の状況は、ポラリスの放った閃光魔法によって覆された。
俺も視力を失い、戦況はよく分からない。
まぶたの裏のちらつきが収まりゆっくりと目を開けると、両チームとも床に寝そべっていた、全員突撃の余波に巻き込まれ吹き飛ばされたものと思われる。
――――いや、1人立っている奴がいた。
「ここまでのようですな、アレックス様」
「ははは、そのようだなさすがは元軍人、タフだね」
「ええまあ、受け身はいやになるほどやらされましたのでね」
たった1人フィールドに立っていたロドリエスは、アレックスの剣を奪い持ち主の鼻先に剣先を突き付けていた。
「勝者、ヘブンズゲート! でござる」
「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!」」」」
「すっげえ勝負だったな!」
「これが練習試合だって、信じらんねえよ!」
「フェフェフォ―(録画映像いる人~)」
「「欲しい! おいくらですか!!」」
会場は、割れんばかりの歓声と喝采に包まれた。
ここはただの宿屋で、フィールドはただの訓練室で、気まぐれで始まった模擬戦のはずだったのに、まるで魔王でも討伐されたかのように、もしくは世界の頂点を決める戦いに立ち会ったかのような、そんな感動が会場中からあふれていた。




