第36話 今日のりんごんのコーナー(その2)
「ふぃー、やっと着いたぜ」
「やったね、ホルスさん」
りんごんの旅立ちから2日、プレアデス達が滞在していた村に到着した。道中りんごんの体力が限界を迎え、ホルスに担がれながら移動するはめになるなど少々アクシデントはあったようだが、両名とも無事のようだ。
「んで、ご主人とやらはどこだ?」
「えっとね…………上?」
りんごんが顔を上げると、そこにはプレアデスを背に乗せた1頭のグリフォンがいた。プレアデス達はこの村での用事を済ませ、次の目的地へと向かったのだ――海を越えて……。
「なありんごん、お前さん空は飛べるか?」
「天使だからね、5秒ぐらいなら」
「地味にすげえな、海は越えらんねえけど。まあ心配すんな、おれっちが何としてでも向こう側に連れてってやるから」
ホルスは、りんごんに2つの方法を提案した。
1つは、次の大陸まで自力で泳ぎ切る方法。ただし時間が大幅にかかるうえ、荷物がずぶ濡れになって使い物にならなくなるかもしれないリスクがある。
2つ目は、船に乗って海を渡る方法。一番簡単な方法だが、生憎ホルス達の財布はとても寂しい状態であった。船代を稼ぐ時間を考えると泳いだ方が早いかもしれなかった。
「さーて、どっちにすっかなぁ」
「……あ、ホルスさん、荷物燃えてるみたい」
「何!!」
ホルスは自分の背負っていた、バカでかいカバンを調べた。燃えているというのはりんごんの勘違いだったようで、荷物の1つが光っていただけのようだ。
「それは……剣、かな?」
「ああ、おれっちの相棒だ。近くに魔力の強い物体があると、光を放って教えてくれるんだ。さっきのグリフォンの方角に伸びてるな、それと森か……おお、そうだあれを使おう!」
ホルスは、冒険者時代に使っていた転移の祠を思い出した。
古くなって起動しないかもしれないが、もし動いたなら最速かつ安全、安価に海を渡れる。
というわけで、りんごん達は歩き出した。
祠は、村から徒歩30分の場所にある。距離は近いが森や魔物に阻まれ、腕に自信のある者しか近づけないようになっている。
「コラ待ちやがれ、お宝ぁぁぁ!」
「フェフェルフォフォフォー!(キャー、悪い人に追われてるのー!)」
森を進む事しばらく、女性の声とキルモーフの鳴き声が聞こえてきた。どうやら2人とも、こちらに向かってきているらしい。
「フェボボ―!(誰か助けてー!)」
「何だか分かんねえが、あの嬢ちゃんを助けっぞ!」
「うん、頑張る」
りんごんとホルスは、一斉に飛び掛かった!
まずホルスのラリアットが、キルモーフの首を捉えた。倒れこんだキルモーフに、りんごんのボディプレスが炸裂した。そしてとどめのバックブリーカーが見事に決まり、キルモーフは泡を吹いて気を失った。
「ふぅ、ほらよ、大変だったな晩飯に逃げられて」
「でもね、綿まみれだから、この子あんまり食べるとこないよ」
「ええ知ってるわ、実は服を作ろうと……ゲ!」
「……!? もしかしてローちゃん?」
りんごんは、目の前に現れた天使のような姿をしたその人にそう呼びかけた。
「ひ、人違いじゃないかしら、ほほほほ」
「じゃあ何で目をそらすの?」
「ほら、これでいいでしょう」
「だめ、ちゃんと両眼をまっすぐ見て」
「目ん玉横についてんのに! どうやって両目をまっすぐ見れるってんだよ!」
「そっか、ちょっと待ってて」
りんごんは、両目を前向きにしようと頑張った。無理だった。
「もしかして、2人は知り合いなのか?」
「うん、彼はロロエル、ボクと同じ天使でボクの後輩だよ。趣味は女装で特技は鍵開け、座右の銘は、お前の物は俺の物、だよ」
「え!? 女装? 男! このべっぴんさんが!!」
「いやあねぇ、冗談がお上手だ事――」
――スルリ
りんごんは、ロロエルのパンツとスカートをはぎ取った。
どんなに美しく結婚したいと思う人物であっても、それが異性とは限らない。現実は非常である。
「ななななな、覚えてろよチクショー!」
ロロエルは逃げ出した。
りんごんは、ちらりとキルモーフの方を見た。
ロロエルは鼻が利く、高価な物が近くにあると、その気配が伝わってくるんだそうだ。きっとこのキルモーフも大事な物を奪われそうになっていたのだろう。
悪い事をした、りんごんはそう思った。
「ホルスさん、ボクこの子に謝らないと……でもボクは芋虫語は分からないんだ」
「そうか……そういや荷物に芋虫語辞典が……ん!?」
ホルスが自分の背負っていた大きなカバンをあさっていると、先ほど森の方に伸びていた光が強くなっている事に気が付いた。もしや……そう思いホルスは素早く行動した。
りんごんが止める間もなく、ホルスはキルモーフの胸元のファスナーを一気に下まで下すと、その中に手を勢いよく突っ込んだ。
「やっぱりだ、こいつは魔剣デュランダル! ローランの旦那の剣を何でこいつが!」
「さっき狙われてた宝だね、それ」
「フェフフフ(痛たたた)」
キルモーフが目を覚ましたので、りんごん達は先ほどの乱暴と、デュランダルを勝手に取り出したことを謝罪した。そして、傷薬や食料を一部分け与え友好を示したところで、話を切り出した。
「良ければ話を聞かせてくれねえか?」
「分かったわ」
彼女の名は、セザンヌ。かつて雪原地帯で、シンクの配下に加わったキルモーフだ。
シンクの死後、彼女はルノワール、テニシラと共にクローリアの仲間達を探すため旅を続けていた。そんなある日、彼女達は犯罪組織ビーストの手により絶体絶命の危機に瀕してしまった。
デュランダルを、犯罪者の手に渡してはならない! そう判断したテニシラは、決死の覚悟で戦いを挑みセザンヌそしてデュランダルを奴らの魔の手から守った。
それから数日、自力ではどうする事も出来ない彼女は、仲間達と合流する為行動していたところ、ロロエルと出くわし現在にいたるという。
「奴らは何かとんでもない物を作るために、強力な武器や人間を集めてるみたいなの。テニシラは結構強いし、きっと悪用されるに決まってるわ!」
「……すまねえりんごん、後で必ず追いつくから先行っててくれ。なあセザンヌ、その悪党はどこにいるんだ? 案内してくれ」
「分からないの……村で得た情報だと、最近アジトを移動したらしくて、もうこの辺りにいないらしいの」
「……強力な、武器、人間……アジトを移動…………まさか!」
先ほど海の方に伸びていた光、もしそれの持ち主がビーストの構成員だったとしたら?
自分達も早く海を渡らなければ、ホルスはそう考えた。もし何も知らないプレアデスが奴らと鉢合わせになったら危険だし、向こうには大勢頼りになる知り合いがいるからだ。
テニシラそしてプレアデスの無事を祈りながら、ホルス達は祠まで急いだ。
「行こうぜ相棒、そして魔剣デュランダル、お前の力も貸してくれ!」
左手で掲げたデュランダルの奇跡によりボロボロだった装置は復旧し、右手に掲げたホルスの相棒の魔力が注がれ装置は完全復活を果たした。
りんごん、ホルス、ついでにセザンヌ、彼らの肉体から重さと視界が失われ始め、気が付くと目の前の大地は見知らぬものに代わっていた。




