第32話 怠惰の化身、顕現
『ロロエル、ルノワの事は任せたぞ!』
「言われなくてもやってるよ」
ロロエルはルノワを連れて、天井近くまで舞い上がった。
「はっはー、他人を気にするなんて余裕じゃないか」
『まあな』
ゴンザレス達は、一斉に襲い掛かってきた。半数が俺に、もう半分が宙を舞っているロロエルを狙って地面を蹴った。
地上での戦いならロロエルに勝ち目はなかっただろうが、自由に空を飛べる天使と重力に支配された人間とでは機動力の差が歴然だった。飛び上がったゴンザレス達は、何の成果を得る事も無く落下した。
「どうしたどうした、さっきから逃げてばかりじゃないか」
『くっそ、この! グヘッ!』
どちらかというと、俺の方がヤバかった。
ゴンザレス達は記憶や技術を共有しているためか、恐ろしいほどの連携で俺を攻め立てていた。最初こそ同士討ちさてやろうとか考えていたが、奴らはきちんと適切な距離を取りお互いに殴り合わないように努めていた。
『【ブースト】【ブースト】ごふっ!』
「まさに赤子の手をひねる状態だな、そらそらそら!」
『へぶっ! ぎゃ! 【ブースト】……ぐ!』
【ブースト】を重ね掛けしてこのダメージ、前回はまともに戦わなかったから分からなかったが、この男の強さは俺の予想のはるか上をいっていたようだ。
「ふぅ、さてウォーミングアップは、このくらいでいいかな」
ゴンザレス達の体から、うっすらとした光があふれてきた。
そうだった、こいつはオーラ使いだった。
オーラを纏った人間は、生命力と引き換えに絶大な力を得る。俺の魔力スロットは12、そのうち7つが【ブースト】に使用されている。仮に12スロットすべてで強化しても、オーラ状態の奴の攻撃は防げない!
「さあ、こちらの準備は万全だ、君の方もその赤子の様な姿を捨てて全力で掛かってきたまえ。全力出来た相手を更なる力で叩き潰す、そうする事で正義の執行は確実なものとなるんだ」
『ははは、生憎この姿が今の俺の真の姿だ。残念だけど、これが今の全力だ』
「なんだつまら『ただし、人間としてのな!』なに!」
俺はふぅ~っと呼吸を整え、自分の中の怠惰に呼びかけた。
『顕現せよ怠惰の化身! 我が願うは永劫の安寧なり!』
変化は、一瞬だった。俺は光の繭に包まれ、その繭が大人の人間サイズまで大きくなった。
「初めまして、いやお久しぶり……かな?」
「ききき、貴様は確かあの時の、卑怯なガキ……似ているが違うか?」
どうやらゴンザレスは、前世での俺を覚えていたようだ。
今の俺は、シンクとプレアデス(成長後)の身体的特徴を掛け合わせたような姿になっている。
もちろん、変わったのは見た目だけじゃない。体内に取り込んだ天力を激しく操作し丁度暴走状態のように、通常ではありえないほどの戦闘力を引き出している。
これが俺の奥の手、名付けて【顕現】だ。
「ははははは、仕組みは知らないが私はうれしいぞ、今のお前はかつて私を苦しめた男の姿によく似ている。復活してから私は鍛え続けていたのだ、何故だか分かるか? その男を八つ裂きにしてやるためだ!」
そう口にして、ゴンザレスは再び攻撃を開始した。
「知っているぞ神候補よ、お前達は暴走状態になると力が10倍になるのだろう。その変化は、おそらくそれと同等程度と見た、だがそれでは私には勝てんぞ!」
「違うな、10倍じゃない」
俺は殴りかかってきたゴンザレスの拳を片手で受け止め捻りあげ、そのまま頭の上まで持ち上げて、周りにいたゴンザレスを巻き込むように壁に向けて投げつけてやった。
さらに襲い掛かってきたゴンザレスの足をつかみ上げると、ヌンチャクがわりに振り回し近づく敵をなぎ倒していった。
「今の俺の戦闘力は、50倍だ」
「なん、だと……」
「どうするゴンザレス、降参するか? それとも【フルオーラ】を使ってまだ続けるか?」
「いい提案……だな、もちろん続けさせてもらうぞ!」
ゴンザレス達の体が、まばゆい光に包まれた。
【フルオーラ】……生命力を消耗するオーラパワーは、通常拳や足といった体の部分部分のみを強化する事で消耗を抑えて使うものだ。だが消耗する事を恐れなければ、その力を全身に及ばせる事で絶大な力を得る事が可能だ。
「受けてみるがいい、これが私の本気の本気だ!」
「ああ逃げないさ、俺は昔の俺とは違うからな!」
そこからの戦いは、無骨を極めた。お互いに技も戦略も一切なく、ただただ拳と肉体をぶつけ合わせるだけの殴り合い。
1人また1人とゴンザレス達は力尽きていき、そして今最後の1人が倒れた。
勝った! 俺は勝った! かつてズタボロにされた相手に真っ向から殴り合い勝利を収めたのだ!
喜びもつかの間、だんだんと虚しさがこみあげてきた。
これは本当に、俺の勝利と言っていいのだろうか。今のはただ、神が人間を一方的に蹂躙した、それだけの事だったのではないだろうか。
確かに神としての力も、俺の力である事は間違いない。だがこの力だって俺が偶然手に入れたもので、俺が努力して会得したわけでも、苦労して捜し歩いたわけでもない、俺に取り付いていた悪魔から奪い取っただけの能力だ。
「ありがとう、いい勝負だった、少年よ」
「な!?」
「この世界は勝者こそが正義、君はたった今正義の使者の称号を勝ち取ったのだ、下を向くんじゃないもっと胸を張りたまえ」
それは違う、俺はただ人の理から外れた力、チート能力を使って勝っただけだ。俺はあんたが言うように、この勝利で胸を張れる存在じゃないんだ。
「はっはっは! 今やっと分かったよ、私は負けず嫌いだったのだ、だから前回の敗北を認められなかった。卑怯だなんだと御託を並べ、弱肉強食のこの世界で生き残る事より正々堂々戦う事を選んだ、選んでしまった! だから私は今、こうして地面にはいつくばっている」
「1人を大勢で囲むのは、卑怯でないと?」
「……ともかくだ、勝者である君に私からアドバイスだ。勝って兜の緒を締めよだ……さあ、第2ラウンド開始と行こうじゃないか!」
「なに!?」
――ウィーン、ガシャ
部屋の奥、一際大きな扉が開いた。
――コツッ、コツッ、コツッ
何かが、こちらに向かってくる音が聞こえた。そうだった、ここでは生物の複製もしてるんだった、ここにいるゴンザレスレプリカみたいな奴らがまだ大勢いてもおかしくなかった!
足音が徐々に大きくなり、それの伴い俺の方も緊張感を高めていった。
……あれ? 足音少なくないか?
「ぱぱ~」
「見ろよプレア、奥にこんなお宝あったぜ」
「な!? あれはこの施設のエネルギー源! あれがなくては肉体の複製ができない!」
いつの間にか部屋を抜け出していたロロエルの活躍により、俺は余計な戦闘をしなくて済んだ。




