第29話 目を覚ますと、自分が自分でなくなっていた。
組み合ったまま、視線で火花を散らしあうクレアとハルト。両者は不敵な笑みを浮かべた後、お互いの頭をぶつけあった。
――ゴグン!
両者の頭から鈍い音が響き渡り、クレアは気を失い倒れた。
「ロドリエス、俺が備品の買い出しをしている間に何があった? この男はどこの誰なんだ?」
「い、いえ……わたくしにも何が何やら」
「くぅ~ん」
多分ハルトの方が、本物のシリウスだろう。
妙な違和感を、ずっと感じていた。会話が支離滅裂だったり、冷静さを失って周りを見失ったり、赤ん坊の俺が放ったアッパーで気絶してり、とてもとても世界的に有名なパーティーのリーダーとは思えなかったからだ。
だがそうなると、ここに寝ているクレアは何者なんだろうか?
シリウスの双子の兄弟とかだろうか? 彼の名声を利用するために、彼にとって代わろうとしたんだろうか?
いや違う、とって代わるつもりなら先にハルトを何とかしてないとおかしい。それに兄弟がいるなら、ロドリエスが真っ先に気が付くはずだ。
……そもそも、ハルトも偽物なんじゃないだろうか?
何者かがヘブンズゲートを自分の意のままに操るために、シリウスの立場を危うくしようとしているとしたらどうだろう?
「ところで、今度こそあなたは本物のシリウス様なのでしょうか? 何かご自分の身分を証明する物を、見せていただけませんか」
ナイスだバール、仕事が早くて助かる。
「たしかバール……だったな、ロドリエスから聞かせてもらった。俺のTカードを使えば、俺が本物であると証明できる」
そう言って、ハルトは道端のごみをゴミ箱に捨てた。
ハルトの善行が反映され、カードのポイントが1点増加したのが分かった。
「たしかに。このカードは持ち主の行いのみを反映いたします。あなた様は間違いなく、傲慢の神候補、シリウス=クレアハルト様であると証明されました」
「そうか……なら改めて、こいつは何者なんだろうな?」
あ、クレアが目を覚ました。
「いってー、どこの誰だか知らないが、俺の名をかたる不届き物に容赦はしない! 行くぞ! ロドリエス、アルドラ、戦闘準備!」
「「……」」
「どうした、戦闘準備だ、ほら」
『茶番はそこまでだ偽シリウス、何の目的でこんな事をしたのか吐いてもらうぞ!』
ここにきて、家のご主人からひと言。
「子供もいますし、ケンカなら外で……」
そりゃ、ごもっともでございます。
俺達は、全員外に出た。
『茶番はそこまでだ偽シリウス、何の目的でこんな事をしたのか吐いてもらうぞ!』
「俺が偽物、はっ! 笑わせる、俺は正真正銘シリウス=クレアハルトだ。クレアハルト領、領主の息子で、父はオリオン、母はエリナだ」
「失礼ですが貴方が偽物であることは明白なのです、先ほど吾輩達の目の前で本人がそれを証明いたしましたので」
「な!? 俺のカード、いつの間に奪ったんだ返せ!」
ハルトは、クレアにカードを投げ渡した。
クレアは、カードの効力を発揮させようとしたが何も起こらなかった。
「そ、そんな馬鹿な……あ」
「返してもらうぞ、これは俺のだからな」
ハルトが念じると、クレアの手元からカードが消え、ハルトの手元に戻った。
「そそそ、そんな、あああありえない、俺はシリウスだ、ちゃんとシリウスだったはずなのに、ななななんでもう1人俺がいる。俺はいつまで俺だった……俺はいつから俺じゃなくなったんだ……」
クレアの体内で、天力が過剰反応していくのが分かった。
「まずいぞ、暴走だ、悪魔化が始まるぞ」
ハルト達は、戦闘態勢を取った。
『そう言えばゴンゴンさん、なぜ神々が物騒な名前をしているか気にしてましたよね、ちょうどいい機会なので説明しますね』
「手短に頼む! 今にも逃げ出したい気分なんだ!!」
『何故物騒な名前を名乗るのか、それは自らを戒めるためなんです。力と精神と肉体、それらのバランスが崩れる時、俺達の体内に蓄積されている天力は変質をはじめ、異形の魔物へと姿を変えます。そう言った悲惨な末路を常に意識させるために、俺達はかつて大罪を犯した悪魔達の呼び名を借りているわけです』
「とても勉強になった! さあシンク君、逃げよう!!」
『いや逃げませんよ、これは俺の仕事なので』
悪魔化した存在を止める方法は2つ。
1つは、暴れないように八つ裂きにする事。もう1つは、怠惰属性の天力術式を浴びせて心技体、それぞれのバランスを取り戻させる事。
つまり今この場で、俺が頑張るしかないってことだ。
『とその前に、【ここを我が領土とする】。じゃあゴンゴンさん、家が壊れないようにどっかに運んどいてください』
「無理だ、重さはともかく部品が多くて、持ち上げたとたんに壊れてしまう」
『大丈夫、そこはすでに俺の【テリトリー】です。枠組みは俺が支えてますから、絶対に壊れません!』
怠惰属性の特徴は、他人に力を付与する事。自分以外であれば、人でも物でも実力次第で無限に強化することが出来る。……条件はいろいろあるけどな。
『頼みましたよゴンゴンさん』
「よいしょっと、わっせわっせ――――」
さてと、土地も広くなったし戦闘開始と行きますか!




