とりあえず説明
今回は前回の続きということで作者も一緒ですいません。
あと説明会ですが説明下手でわかりにくいかも知れません。
視界に映るものは天井だった。
おかしい、自分は外にいたはずなのに、なんでまた寝ているんだろう。
そんなことを考えながら零は目線を天井から逸らす。
俺の他に先客がいたからだ。
その人物は何も言わない、寝息が聞こえていることから寝ているのだろうと思う。
その人物が誰かと確認すると、それは遥香だった。
それはもうぐっすり寝ていた。
俺の隣で
「ちょ!? 遥香ぁ? なんで俺の隣で寝てんだ?」
「……」
遥香はほんとに小さく寝息をたてている。
起きない。
しかしその遥香の顔にうっすらと火傷の痕があった事で自分がなぜ寝ていたのかを理解した。
俺と遥香は殺し合いをしたんだ。
…そして、突然出てきたモアに止められて、そこからの記憶がない。
いったい何が… 遥香の鬼気迫る感じといい、俺に話しかけた何かといい。 分からないことが多すぎる。
そうして零が自問自答をしていると扉がキィィィと音を立てて開いた。
その先にいたのはニーナ・ルーシェ、この家の家主の娘だった。
「零! 起きたんですね! 大事ありませんか!?」
ニーナはこちらに気づいて俊敏な動きで俺の元まできた。
「あぁ、別に大怪我とかはしてないよ、何が大事かと言われれば俺と遥香が戦ったあとの庭の惨状が心配かな」
そう聞いて安心したようにニーナはよかった~と一息ついて笑顔になる。
「庭ならお気になさらず、確かに地面まで火が回ってしまったせいで新しく芝生を植えることはまだできそうにありませんがその辺は家の優秀な魔法使いの庭師さんに頼みますので」
そう聞いて零も安心した。
そして庭の手入れにも魔法が使われていると聞いてやっぱり異世界だなと考えてしまう。
零が異世界感に浸っているとニーナは真剣な顔つきで零に問う。
「零、いったい何があったのですか? 貴方や遥香がこんなになるなんて… 模擬戦だったのでしょう? 」
「あぁ、最初は模擬戦だと思ってたんだがこいつは違ったらしい」
そう言いながら遥香を見る。
「最初から殺気を発してた事は分かってた。 多分こいつは最初から俺を殺す気だったんだろうと思う」
「なぜ遥香がこんなことを…」
ニーナは次第に表情を暗くしていく。
「俺にもわからん。 ただ、言えることがあるなら」
「あるなら?」
零は間をとって真剣に答える。
「俺と遥香のもつ原石がそれほどに危険だってことかな」
そう聞いてニーナは思案顔になる。
「原石のせいで殺し合いに? いったい何故? 」
そう問い返してきた。
「それは私が答えます」
ニーナのその質問を待っていたかのように外からグリアとモアが入ってくる。
「お前ら…」
モアとグリアはお互いのパートナーに近づく。
「お兄ちゃん、起きれたんだね…」
モアはそう言ってきた。しかし曖昧だが俺の記憶が正しければ俺を気絶させたのはモアのはずだ。
「気絶させたもお前だけどな」
零はモアに対して皮肉げに言葉をぶつける。
しかしモアの表情は変わらない。
部屋に入ってきた時からずっと同じ真剣な表情だ。
「ごめんね、あのまま二人を戦わせていたら二人とも死んじゃうと思ったから」
モアはそう言って近くにあった椅子に座った。
「それじゃ、まずは原石の事から話そうかな」
「あぁ、よろしく頼む。」
モアは説明を始めた。
「あの原石はね、もともとは大きな一つの石だったの」
「大きな石?」
モアはうん、と頷き続ける。
「その大きな石は遠い昔のこの地に存在していた。 祀られていた御神幸のようなものなの。 だけどある時、その形を大きく崩したの」
「その時に何があったのですか? 」
ニーナも気になって質問する。
「魔獣が大量発生したんだ」
そう前置きした。
「昔の時代は今よりも魔獣の発生が恐ろしく多かったの。 そして一匹一匹の強さも今とは比べ物にならないくらい強かった。 そんな魔獣たちは、この地方を暴れ尽くしたの。 海を通ってはその海に生命は居なくなり、森に入っては植物が枯れていく。 その時生きていた人達からすれば天災と言っていいほど、魔獣たちは暴虐の限りを尽くした」
モアはまるでその光景を見てきたかのように真剣に話している。
ニーナもその光景を想像するように青ざめたような顔をしている。
「その魔獣たちはどうやっていなくなったんだ?」
「魔獣たちの侵攻は、遂にこの土地まで迫ってきた。 そこに住む人達の大半はその恐怖で反対側の街へ逃げようとしたり、恐怖で錯乱して暴れたりしていたの。 でもその中で魔獣に立ち向かおうとしていた人たちがいた」
「でも魔獣は恐ろしく強いんだろ? 」
今の時代でも弓矢を使ったり剣を使ったりする程しか文化は発展できていない。それに魔法だってまだまだ実用的には程遠いはずだ。
そんな人達が武力で魔獣たちに勝てるとは思えなかった。
「うん、だからその人達はある手段を取ったの」
「ある手段? 」
「魔獣たちを1箇所に集め、それを纏めて封印しようとしたの。 そしてその場所というのが今の小屋の場所。 大きな原石が祀ってあった場所。 当時の人達は原石にはある種の封印効果があることに気づいていたから」
「それじゃ今の原石が小さくなっているのは魔獣たちをその一つ一つに封じ込めているからなのか? 」
モアはコクリと肯定を示すように頷いた。
原石が生まれた理由は分かった。そして俺の持っている刀の中にもその魔獣たちの一角である何かがいるってことだ。勿論遥香の原石にも。
「魔獣を封印したことでその魔獣に流れていた魔力もそのまま原石の力とすることができるの。 お兄ちゃんが最初に触れた時に痛そうにしていたのは人間の身で魔獣の魔力を取り込んだことによる拒絶反応みたいなものだったんだ。 普通の人ならそこで死んじゃうけどね。 結局魔獣たちは自分の力を使うことができなくなり原石の中で眠りについた」
「そして今の今まで人知れず封印されてきたって訳だ」
「これが今の原石が生まれた成り行きだよ」
モアはそう言って締めくくる。
俺や遥香の夢の中で語りかけてくる何かは魔獣だったという事だった。
「しかしなぜ魔獣は俺や遥香に囁いてくるんだ? 自分ではもう魔力を使うことが出来なくなるんだろ? 」
零はそれが疑問だった。
「確かに魔獣たちは魔力を封印されることで自分では何も出来なくなった。 でもその封印を破る方法はちゃんとあるの。 魔獣たちは原石の中でその答えに辿り着いた」
「その破る方法ってのは? 」
「原石を壊すことだよ」
モアは簡潔にそう纏めた。
「だけど魔獣と原石は一体化してるんだろ? それなのに原石を壊しちまったら中にいる魔獣自身も死ぬことになるんじゃないのか? 」
「さっき言ったけど原石はもともと大きな一つの石だった。 だからその封印の力は個々に別れるんじゃなくて纏められた一つの封印なの。 つまり自分以外の原石を破壊することで封印は弱まっていく。 そして封印が弱まれば魔獣たちは残った自分の力だけで封印を破ることも出来る。 その為に原石所持者同士がであうとお互いを殺し合わせて封印を弱めようとする。 今回も二人が近くにいることで原石同士が共鳴して、二人の闘争心を強くしてしまったの」
眠りについていると言ってもお互いの距現状を理解するほどに知性はあるらしい。
「だから今後同じことにならないように対策もしなくちゃいけないんだけど」
モアは苦虫を噛み潰したような顔をしながら遥香を見た。
「魔獣の囁きは催眠効果もあるの。 それは心の弱さがそのまま耐性の低さに直結してしまう。 だから遥香は暴走してしまった。次もまた暴走する可能性が高いんだ」
魔獣の囁きに催眠効果…か。
俺が戦闘の最中にそれを受け入れたのは遥香に圧倒されたことで心に余裕が無くなっていたからってわけか…。
会話の暗さに合わせられたかのように気温が下がっていくような気がした。
ここにいるみんなが先の未来におこる暴走を予感して気落ちする。
「と、とりあえず昼食でもどうですか? 零も起きたばかりでお腹も空いたでしょう? 」
しかしニーナは空気を変えようと笑顔で話を切り替えていく。
「そ、そうだな! 確かに腹が減った。 ここら辺で終いにしよう」
零も便乗して暗くなった空気を戻す。
先のことはその時になってから考えようと割り切ろうと思った。
今この場で先の未来を想像してもキリがないのだから。
そうしてモアの原石説明会はとりあえず終了した。
―――――――
『私ヲ握レ、引キ金を引ケ、敵ヲ定めヨ、撃チ殺セ、戸惑いナドナク、私ノ力は其ノ為だケニ』
この声は私に永遠と語りかけてくる。
初めて聞いたとき私は瞬時に理解した、この声が"銃"の原石だと。
圧倒されるほどの存在感だった。
もやが掛かったようにぼんやりとして、はっきりと認識できない。
それは獣の如くこちらを睨み付け、鋼の如くシンとしていて、おぼろげにしかその姿を記憶できない。
夢だ、これはまごうことなき私の悪夢だ。
「嫌」
いつものように私はそう答える。
『私ヲ握レ、引キ金を引ケ』
「嫌」
『敵ヲ定めヨ』
「嫌」
『撃チ殺セ』
「嫌って言ってるじゃない! なんなの?! いつもいつも何がしたいの?! もう、たくさんよ!」
もう、自分がどんな性格だったかもわからない。
幾度も死んでいく中で記憶は掠れていった。
ただ憎悪の対象、恐怖した体験、忌まわしい記憶ばかりが残る。
まるで世の中を呪ってやると思うように仕向けられているようだ。
「なんで? なんでこうなったの?」
それはまだ憶えている。
あの白い部屋から全てが始まった。
「私、私は何がしたかったの?」
わからない。
「私はなんだったの?」
わからない、なにもかも。
もう全て投げ出したい。
「もうやだよ……」
死を幾度も経験し、その経験を忘れようとする脳の防衛機能に不具合が生じ、死やそれ以外の様々な記憶が抜け落ちた。
それにより記憶で形作られた自分という基盤が崩れ去ったように感じる。
なぜだろう、涙か、血か、夢だというのに瞳から何か熱いものがとめどなく溢れてくる。
まるで涙を拭うように"銃"の原石アフィリエイトが私に触れ、そしていつもそうするように首を締め上げる。
呻き声とともに咳を一つしてから死を知覚しようとして――目が醒めた。
花崎 遥香は覚醒し、己が犯した愚行を瞬時に思い出した。
彼女の持つ銃のアフィリエイトはニーナの屋敷から盗んだものだ。
それを白昼堂々と見せびらかすように腰に帯びていたのだ。
ニーナにバレてしまっていても不思議ではない。
だが、銃のスキルかアフィリエイト全体が持つスキルなのかは不明だが、銃の形状を変えることが出来、盗んだ時のスナイパーライフルのような形状ではなく、今は小型拳銃のような形状にしているため、銃という存在を知ることのないこの世界の人々にばれてしまう事はないだろう。
彼と戦う時、いやそれ以前から何かがおかしかった、と彼女は考える。
しかしその事をいつまでも自問自答していても始まらない。
とにかく今の現状を確認し切り抜けなければ。
そう考え視線を巡らすと自分の寝ていたベッドの横に一人の美男子が座っていた。
「遥香…やっと起きたんだね」
それはグリアだった。
ついでに男じゃなくて女だった。
自分で頼んで設定してもらったことだろうに素で間違えてしまいそうなほどに美男子だった。
「グリア、私はいったい… 」
未だに今の現状を把握しきれていない遥香はグリアに質問する。
「ここはルーシェ家の1室です。 貴方は気絶してから今までここで眠っていたのですよ」
グリアは簡潔に返した。
「そう、分かったわ」
そう言って、遥香はベッドから抜け出して外に行こうとする。
「遥香、先ほどニーナ様から昼食の提案がありました。 食堂に行けばなにか用意してくれていると思いますよ」
グリアのそんな発言に遥香は過剰に反応する。
「行けるわけ、ないじゃない。 私は、この村の大切な原石の一つを盗んで使っているのよ。 いったいどんな顔でニーナ様に会いに行けばいいの」
遥香の表情は暗い。 切羽詰ったような顔をする。
「その事に、いえ、その事も含めてニーナ様からお話があると伺っております。 なんにせよ、顔を合わせるべきだと思います」
思い詰めている遥香にグリアはそんな発言をした。
「貴方は、どっちの味方なの? 」
今の遥香にとってその発言は「もう無駄だ、諦めろ」と言われているに等しかった。
しかしそんなことは認めない。 認められない。 1度失ったはずの命を、今回だけは、誰からの柵もなく、邪魔されず、後悔なく生きていこうと決めたのだ。 それをこんな所で終わらせられてたまるものか。
遥香はそんな感情の元で裏切られたと錯覚しながらグリアを見る。
しかしグリアは違う。
グリアは片膝を床に落とし片腕を胸に添えて、忠誠を誓うような姿勢のまま遥香を見る。
そして告げる。
「私は、例え遥香が諦めるにせよ、逃げるにせよ、その考えを全力で肯定する者です。 遥香が逃げようと考えているのならば、私の身命を賭してあなたを逃がしてみせます。 遥香が諦めるというならどんな手を使ってでも貴方の命だけは助かるように弁明してみせましょう。 なぜなら 」
一拍置いて再度
「私は、貴方のためだけに、この世界に生まれたのだから」
そんな背中が痒くなるようなセリフを呟いた。
しかし外見がイケメンなせいか様になりすぎていて、年頃の女性なら1発で落とせそうなほどの破壊力を秘めている。
斯く言う遥香も年頃なわけで…。
「ばっ! 馬鹿じゃないの!? そ、そんな恥ずかしいセリフをこんな所で」
遥香は頬を赤く染めて、動揺したように口調をぐらつかせながらグリアを見る。 彼女は笑顔のままこちらを見ている。
「あなたが困っている今だからこそ、あなたに私の考えを知って欲しかったのです。 そして選んでほしい。 あなたが後悔しない道を…」
グリアは立ち上がり遥香にそう告げた。
遥香は、先程の思いつめた表情が消え、すこし晴れやかにも見える顔つきになっていた。
「分かった、とりあえず話だけは聞くことにする 」
その遥香の言葉を聞いてグリアは嬉しそうに顔を綻ばた。
「では、一緒に食堂に行きましょう」
そうして、二人の意志の確かめ合いは終わり、二人は仲良さげに並んで部屋を出ていった。
後書きまで読み進めてくれて感謝です。
しかしキリが悪いのでもう一個だけ同じ作者でいきます。
補足ですが、遥香が起きたのは零が出ていってから数分後の予定です。
あと遥香がベッドから出るところが展開早いかな~とか思ってたりしますごめんなさい