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成り行き任せの異世界転生  作者: 狭焼飛露&龍弥&かつらぎネコ
とりあえず
5/10

とりあえず仲間発見

遅くなって大変失礼いたしましたぁ!

ごめんなさい。

行きます!!」


 ニーナが弦を引き絞り、そして魔法を唱える。


「フィ・レバリーア・アストロフ・マルス・ガリアス、天に住まいし我等が神々よ。 炎はフィとマルスによって象られ、モノは5柱で象られる。 我が身を糧にし、我が心を燃やせ。 纏え、炎よ。 打ち砕け、理を。 フェニクス・シュート!」


「あれ? なんか長くない?」


 そして威力上がってない?

 だが、俺にはこの刀がある。

 何か出来る筈だと思い、その刀を構える。

 鳥の形の火がこちらに迫ってくる。

 ここで剣技みたいなのを発動すれば…!

 するんだろ!?

 何で発動しないん…


 ドジュッ!!


 頭が、熱い。


 ―特典(ボーナス)を消費し蘇生します―


 ―これにより、贈り(ギフト)の一部が消去されました―


 ―特典(ボーナス)を使用しつづけると贈り(ギフト)に変調をきたす恐れがあります―


 ―贈り(ギフト)を解放、獲得しました―


「起きて! おにいちゃん!」


 モアの声が聞こえる。

 横になっているということはベッドに運ばれたんだろう。


「俺はまた死んだのか?」


 その問いにモアでもなく、ニーナでもない、別の誰かが答える。


「ええ、そのようね。 特典(ボーナス)を使っての蘇生?」


 レイがその言葉に反応し、半身を起き上がらせ、声のしたほうに顔を向ける。

 するとその声の主が言った。


「動かないで。 これ以上動くと撃つ」


 完全に日が落ち、灯りはベッド脇で小さく燃える蝋の光だけだった。

 はっきりとは見えないが、それでも顔は確認できる。

 この前の険しい顔したメイドさんだ。

 黒髪が眩しく、日本人的な丸顔に均整の取れた顔のパーツ。

 メイド姿だが、顔の中心に寄せられた眉が、彼女は厳しそうだという印象を与えてくる。

 俺はこの女性を知っている。


「……私の顔よりもこの、手にあるものを注視しなさい」


 呆れ顔で彼女はそういった。

 手を見ると、そこには拳銃があった。

 素人目にみても拳銃とわかる形状、銃の先には筒のようなものが取り付けられている。

 異世界にはまだないような武器、銃を持っているということはつまり……


「そう、私は多分あなたと一緒、日本からきた」


 彼女が自らの名前をレイに告げる前に言う。


花崎(はなさき) 遥香(はるか)……だろ? その顔、よく覚えてるよ」


 その言葉を聴いて彼女、遥香は面を食らったようだ。

 ショックを受けたのか震えて、手から銃が落ちそうになる。


「なんでって思ってるだろ。 そりゃ見たらわかるよ。 小中高校と同じ学校だったんだから、まぁ、そっちは忘れてそうだけど。 で、多分こっちの世界に来たのが2年、いや1年前ぐらいか?」


 今は暑くなく、むしろ肌寒いのに、汗が一滴、彼女の頬を伝っている。

 彼女の反応から察するに本当に憶えていなさそうだ。


「……グリア、私の記憶、探って」


「了解しました、我が主」


 突然、遥香の横に女性(それも男性的な格好をした)が現れる。

 グリアと呼ばれた女性はモアを成長させたような顔立ちをしている。

 俺もモアも口をあんぐりと開け、固まっている。


「――ありました。 はっきりしたものではありませんが、失われていない映像記憶の片隅に、彼とよく似た人物がいます」


「そう……」


 彼女がうつむいてしまう。


「あー、とりあえず椅子、すわれば?」


 かなり能天気に言ってしまったので、案の定モアから突っ込みがくる。


「バカ、お兄ちゃん……その前にまず色々と訊くことがあるでしょ……」


「あぁ、そうだな、モア。 花崎さん、君はどうしてここに?」


「そうね……」


 グリアが椅子を引き、遥香がそこへ腰掛ける。

 そうして彼女は自分の身に起きたことをポツリポツリと語りだした。


――――――――――――――――――――――――――――――――


「やぁ、初めまして。 花崎(はなさき) 遥香(はるか)さん」


 不思議な声色だった。

 男か女かはっきりしない。

 かろうじて人だということはわかる。


「いやぁ、投身自殺なんてするもんじゃないよぉ? 命がもったいない」


 そんな風に茶化しながら私の死因を告げてくる。


「あなたは?」


 久しぶりに他人に喋りかけた気がした。

 誰かと話すのは、その一週間前に母親と口論したきりだったから。

 ひどい言葉を散々浴びせかけられた。

 最後に聞いた母の言葉は、なんだったかしら。

 憶えていないわ。

 私だって好きで学校に行かなかったわけじゃないから。


「ん? そうだね……君を異世界に転生させる者、でいいかな」


 あの時私はこう思ったわ。

 一時期そういうネット小説流行ったけど、あれらは妄想の産物だってね。

 現実にはありえない、そう思ってた。


「あれあれ? 疑っちゃってる? 君は死んじゃったんだよ? いまさら悩むなんて面倒なことして、生き返るチャンス、棒に振るわけ? 今、君は二つの選択肢を迫られているんだよ。 このまま野垂れ死ぬか、異世界に転移してこのまま生き続けるかのどちらか、君に残されてるチャンスはここだけ、今だけなんだよ」


 たしかにこのままじゃ、私の人生を棒に振ったようなもの。

 でも色々と不可解なことがあるのはたしか。

 どうしようか散々悩んだわ。


「まだ迷ってるの? もうすぐ君、本当に死んじゃうよ? 死んだら天国にでもいけると思ってる? 天国も地獄もないよ。 死んでも意識なんてものはこの世にも、あの世にも介在しない。 生きてきた痕跡なんてすぐに消え去るさ。 無、だ。 そう無になるんだよ。 何も残らない、じゃあ君はどうする?」


 姿のわからない人の言葉を聴いて、そのとおりだなんて思ってしまったわ。

 何も残せないより異世界で、そう私を苦しめてきたクラスメイトや姉、人として、家族としても失格な獣以下の行為を私に強要してきた粗暴な、父とも思えない汚物よりいい生活をしてみせる、絶対に。

 その異世界で辛いことがないなんて思っちゃってたのかもね。


「その沈黙、了承してくれたってことでいいよね。 でも異世界に行くのに手ぶらじゃいけないからね。 転生特典として色々つけとくね。 それじゃあ言ってらっしゃい」


 突然視界が暗転して、瞼を閉じた。

 目を開けた瞬間、私はどことも知れない草原に立っていた。


 平原のように背の高い木は無くて、ただ遠くに山があり、そこには木々が生い茂っていた。

 辺りを見回すと不自然に草が生えていない一直線に伸びている所がある。

 踏まれていくことで、草が生えなくなっていった通り道。

 そう、ムナル平原ね。


 空を見上げると、太陽が出ているが傾いて、朝か昼なのか分からなかった。

 せめて東西が分かるものがあれば良かったけど、異世界の元になっているであろう中世ヨーロッパでは、まだコンパスなどは開発されていない。

 そうやって物思いにふけていると、馬の駆ける独特な足音がだんだんと近付いてきていることがわかった。

 多分この街からムナル平原を経由してきていたのね。

 音のするほうを見てみると馬車と馬に乗った人々が視認できるほど近くに迫っていた。

 そして男のガラガラとした声がかすかに聞こえる。


「女だ! おかしな格好した女がいるぞ! 取っ捕まえて売っぱらっちまおうぜ!」


 逃げなければ、駄目だと思ったわ。

 息が切れても靴が脱げても走った。

 だけれど馬と人では速度が違う。

 すぐさま捕まって、馬車の中へ放り投げられる。

 縄で手足を器用に縛られ、動けない。

 そして目隠しをされ、視界が閉ざされる。


 あの男たちは売り払うと言っていた。

 つまり奴隷にする、ということだろう。

 怖い、ただただ怖かった。

 そうして恐怖を積もらせながら数時間――私には何日も経ったような気さえする――どこかで馬車が止まった。

 その間、何度も逃げようと試みていたけど、成果はなく時間は過ぎていくだけだった。

 強引に引き摺り降ろされる。

 服は剥ぎ取られ、布を被せられる。

 石畳の廊下を屈強な男に無理矢理歩かされる。


 そうして牢に入れられたのが一週間。

 その間は本当に最悪だった。

 犬が食べるような少量の飯、飲めそうにない汚い水。

 それが一日一回だった。


 下劣な男どもに体を入念に洗われ、私は台に立たされた。

 オークションが始まって、即座に私は買われたわ。

 その時の金額?

 ……言いたくないわ。


 買ったのはどこかの街の領主だった。

 贅肉がでっぷりと乗っていて顔は油でぎっとぎと。

 高価そうな指輪やネックレスをこれでもかと見せびらかして、私の父に本当にそっくりだった。


 馬車に揺られ数日後、エンゲルではないどこかの街の、ある屋敷に着いた。

 夜、私は犯されそうになった。

 必死に抵抗しようとした、だけれど奴隷になる際に身体に植え付けられた刻印によって主従の関係にある領主には手出しできない。


 多分そのとき、私とこの"銃"の原石(アフィリエイト)に繋がりが出来た。

 レイ、貴方がその"刀"の原石(アフィリエイト)と繋がりがあったからシーナ様と出会い、それに触れることができたように。

 これが本当かどうか考えるより、まずそう思うのが一番いいんじゃないかしら。


 領主である汚らしい豚のような男は氷のように、いえ、氷になっていたわ。

 私の魔法で痛みもなく一瞬でね。

 どう? 私って寛大じゃない? 私を穢そうとした男を苦しみもなく殺してあげたのよ?

 ……そ、そこまで引かなくてもいいじゃない。

 洒落よ、洒落。


 その後、私は屋敷を逃げ出して情報収集やこの世界がどうなっているのかを2ヶ月ほど調べていて、エンゲルの街について聞いたときに、何か予感がして、何かが呼んでいる気がしてこの街にたどり着いた。

 それが丁度、七ヶ月前ね。

 そしてエンゲルの街につく前、ニーナ様に出会って拾われたわ。

 貴方の時と同じようにね。


 そして私はニーナ様に願い出て、この家のメイドにさせてもらったの。

 あぁ、この"銃"の原石(アフィリエイト)はあなたの原石(アフィリエイト)があった小屋の隣から拝借したの。

 これ、内緒ね?

 私があなたと同じ日本から、異世界からきたことも二人だけの秘密、いい?


――――――――――――――――――――――――――――――――


 彼女が話を一段落させ、俺に問い掛けて来た。

 気になることがいくつもあるが、俺たちが異世界からきたことが知られることで、何か不利益が生じるのだろう。


「ああ、内緒ね、わかった。 それよりもまずあのグリア……さん? って何者なの?」


「私は貴女、モア? というのですね。 貴女と同じように贈り(ギフト)の一つである叡智の書によって主である遥香様の補助を行うために作りだされた、妖精のような存在と憶えて頂いて結構です」


 お辞儀をする所作一つ一つが洗練されていて惚れ惚れする。

 しかしなぜ男装などしているのだろう。


「あぁ、気になりますか? この格好、実はですね……」


「グ、グリア! やめなさい!」


 と、ここでモアが口を開く。


「あ! わかったよ! お兄ちゃん! お兄ちゃんが私を妹設定なんて法に触れるようなことしたように遥香さんもグリアにそう命じたんだね!」


 遥香の顔が真っ赤になり、手で顔を隠し、うなだれる。

 たしかに、男装の麗人は憧れるよな。

 あとモアよ、そんな風に俺を卑下するな。


「ふふっ、さすが、叡智の書同士仲良く出来そうだね」


 グリアとモアが篤い握手を交わす。

あとは竜弥さんに丸投げだぁ!

ヒャッホーウ!

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