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shooting star  作者: ゆぅ
6/6

6話

ねぇ、今日が最後なんだよね。

呟きそうな言葉はそっと押し殺した。出番まではあと3バンド。ここで私が暗い気持ちを出すわけにはいかない。そうだ、最後だからこそ私は笑って見せなくちゃいけないのだ!

ふと横を向くと、奏ちゃんが心配そうにこちらをみていた。

「緊張してるの?それとも寂しい……?」

やっぱりすごいなって思う。なんでもお見通しである。もしくは私が表情にですぎているのか……。私は両方かな?なんておどけた調子で言ってみた。

「今までも今も、もうすぐ覚める夢だと思って楽しめばいい。夢だったとしても、なにも残らなくとも僕らの記憶には残るんだから。」

いつも無口な蓮くんがボソリと呟いた。これが夢、かぁ。確かに夢みたいだ。ただ、夢と大きく違うのはみんなの記憶に残ってくれること。それだけでも幸せだって今は思える。

私たちを呼ぶ声。

「行かなくちゃ!」


「それではエントリー何番14番!shooting starです、どうぞ!」

みんなの視線が蓮くんに集まる。蝉にかき消されそうな行くよの声。スタートのスティックカウント。僕らの世界が始まる!


♩ふわりと香った果実

僕を通り越した

オレンジ色光る

さよならの電灯


今しか奏でられないこのバンドは果実みたいで寂しいねって言った私に成平くんはみかんを渡して、今だけだから味わっとけなんて訳わからないこといってたっけ……。


♩白い帽子風に揺られ

君が向けた背中

夕日になっていく


♩世界をカラフルに染めた

また僕は無色に変わっていく

君がくれた淡いあめ

手のひらで溶かした


私はみんなに色々な色を教えられた。そして、その全てが淡くて優しい色だったな……。なにもなかった私を、ありがとう。


♩手と手はいつしか離れ

音は消えてしまった

ぽつり鳩だけが

寂しく鳴いた


♩薄くなる影

覆うさよなら

そっとふれた夜空が辛くて

甘いなにかはなんだったの?

僕は誰に聞いたんだろう


あの日みんなで見上げた夜空には星なんてこれっぽっちも見えなかった。でも私にとって星よりも綺麗な存在が周りにたくさんいたからきっと笑えたんだ。


♩朝日差し込むこの場所

あの時はすべてリセットされた

君がくれた思い出のあめ

消えてよ甘酸っぱさ



色々考えているうちに曲が終わっていた。私たちは大歓声の中ステージに立ち尽くした。フラフラな足取りで全員がステージを降りる。全員が涙目になってぎゅってした。もしもこれが夢ならば、私は随分と幸せな夢をみたものだ。


「それでは最優秀賞の発表です!」

会場中に緊張感があった。

「最優秀賞は、エントリー何番10番~。」

みんなの顔が曇ってゆく。いや、知ってたよ。私の声ではきっとこの賞はとれないと……。ただ、それでも祈り続けてた自分がいたからその分、辛さが酷く押し寄せる。


あれから3日、もう帰らなくてはいけない。みんなとまともに会話もできなかった。でも感謝は伝えなくてはいけない。成平くんに頼んでもう一度だけ集まってもらった。

「今までありがとう。2度とないようなすてきな夏休みを過ごせたよ!」

ここまでが笑顔で言える言葉だった。ここからは謝罪であり、自分との戦いだ。

「あと、ごめんなさい。みんななら勝てたはずなのに私のせいで……。」

「ああ、お前のせいだっ!なにもかも!!」

成平くんが言うとは誰も予想していなくて、言い始めた私ですら驚き、涙が溢れてきそうだ。

「お前のせいで、バンド活動がもっと楽しくなって、やめたくないって思っちゃうし。星を見るたびにこれまでの練習が思い出されちゃうしさ。どれもこれもこんなにたくさんの思い出を残してくれたお前のせいだよ……。」

目に浮かぶ涙の裏には虹色の笑顔が見えた気がした。

「さよならは悲しい言葉じゃなくてここで出会えたって証だからな!」

そう言ってくれたから言えた。

ありがとう、さようなら。


ひさびさのふるさとは、何もかもが違って見えた。どれもが綺麗な宝石みたいだ。あそこよりも多く見える星。みんなが笑いかけているようで、なんて言ったら馬鹿にされると思うから言い変えよう。「夢をみているようである。」と。


十数年後ーー

「お母さん!今度の学習発表会でね、白雪姫やる事になったのー!歌も歌うんだよ!!」

小学校に入学してはじめての学習発表会だ。きっと楽しみで仕方がないのだろう。

(星華の歌声、昔の私にそっくりなんだよね)

ふとあの時のことを思い出した。あれは私を変えてくれた大切な思い出。きっとわすれたくてもわすれなれないだろう。

「夜ごはんなあに」

という星華の問いかけに、今日は星華が大好きなシチューだよ!と答えていると、

ガチャリ

玄関が開く音が聞こえた。

私と星香はこの音がすると競争のようになって玄関へと急ぐ。ああ、君が帰ってきたんだねって幸せな気持ちになりながら……。

「お帰りなさい、成平!!」

いつもみたいに君が笑った。

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